社説/原発処理水の海洋放出 正常化への一歩、十分な説明を

(2020/10/23 05:00)

風評や臆測に対して、科学的知見に基づく丁寧な説明を尽くすことが必要だ。

東京電力福島第一原子力発電所で増え続ける処理水を海洋放出する準備が進んでいる。菅義偉首相は「いつまでも方針を決めずに先送りはできない」と述べ、月内にも政府として放出方針を決断する見込みだ。

福島原発の処理水は、事故で発生した汚染水を濾過装置にかけて、大部分の放射性物質を除去したもの。事故後にも壊れた原子炉の冷却水が必要なため、今も増え続けている。

構想では、放射性物質を基準値以内に抑えた処理水を、さらに海水で数百倍に薄めて沖合に流す。処理水に残る放射性トリチウム(三重水素)は基準値を大幅に下回るという。

海外を含め、正常稼働している他の原発は常時、微量の放射性物質を含む冷却水を放出している。福島の処理水はこの基準に適合しており国際エネルギー機関(IEA)も認めている。環境汚染の懸念は極めて小さい。

仮にタンク貯留を増やし続ければ設置場所確保が困難になるばかりでなく、管理に目が行き届かなくなり、未処理の汚染水があふれ出す恐れもある。安全性が確認できた処理水を放出し、常に放射性物質をコントロールできる体制にすることが事故処理として最適だ。

問題は、政府や東電に対する一部の不信感と、実際に風評被害を受けかねない周辺の農漁業者の反発・不安である。また韓国など周辺国には、処理水の海洋放出を政治・外交問題化しようという動きもある。政府は科学的知見に基づく説明によって、少しでも多くの人に海洋放出の妥当性を理解してもらうよう努めなければならない。

最近、東日本大震災で緊急停止した東北電力女川原発が再稼働に近づき、長年の懸案である廃棄物処分場についても北海道の2自治体が調査に応募した。根拠の乏しい批判や忌避ではなく、原子力の内包する危険性を正確に理解しつつ、活用していくことが国益にかなう。原子力正常化への一歩を、慎重に踏み出したい。

(2020/10/23 05:00)

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