産業春秋／白石康次郎さんの快挙

「このフィニッシュのために３０年以上頑張ってきた。念願の夢がかなった」―。５３歳のヨットレーサーの表情は、達成感と充実感に満ちていた。

ＤＭＧ森精機のヨットチームに所属する白石康次郎選手が、世界最高峰のヨットレース「ヴァンデ・グローブ」で完走を成し遂げた。参加することさえも難しい同レースにおいて、アジア人として初となる快挙だ。

白石選手は２０１９年に心臓手術を経験。レース自体も、スタート序盤にメーンセールが破折するなど波瀾（はらん）万丈の展開だった。船上でセールを修繕する“荒技”を繰り出すなどして乗り越え、３３艇中１６位で完走を果たした。１６位という結果に「ヨットレーサーとしては失格」としつつも「セーラーとしては満足できるレースだった」と振り返る。

アジア人のパイオニアとなったことで、今後は日本にヨットの楽しさを伝えるとともに、若手に同レースへの挑戦を期待する。そんな彼らには「今回の完走で門戸を開くことができた」と満足げだ。

ただ「僕と同じやり方をしてもだめ。自分のやり方を見つけてチャレンジしてほしい」とも。明確な目標を持ち、自分流の操舵（そうだ）術で挑戦する。そんな夢追い人の登場を期待したい。