第46回発明大賞、本賞に流機エンジニアリング

(2021/3/5 05:00)

日本発明振興協会(石井卓爾会長、03・3464・6991)と日刊工業新聞社共催の「第46回(2020年度)発明大賞」に20件の発明が選ばれた。発明大賞は発明考案を通じて産業の発展や国民生活の向上に寄与した資本金10億円以下の中堅・中小企業や個人、グループに贈られる。18日に予定していた表彰式は見合わせる。

発明大賞 本賞

粘土質濁水精密濾過装置=流機エンジニアリング(会長・西村章氏)

トンネル排水やセメント排水などの高濁水を安価で精密濾過できる装置。濾過膜の目詰まりを防止するために親水性のテフロン膜を濾過膜にコーティングし、濾過時の流量を確保した。

濾過膜に付着した堆積物は、従来は濾過面の反対側から洗浄水を流して洗浄する方法や濾過面を高圧の水流で洗い流す方法が使われている。

開発した装置では濾過膜の洗浄する際、フィルター内部から空気を吹き出すとともに、濾過面を樹脂ビーズを混ぜた洗浄液で洗うことで、洗浄効率を向上させた。(流機エンジニアリング=東京都港区、03・3452・7400)

発明大賞 東京都知事賞

電動バランサシステム=ロボテック(技術本部制御ソフト課課長 主任技師・山本雄氏ほか1人)

組立工場などで部品や原材料を移送する負担を軽減する電動バランサー。モーターの回転軸周りの運動を制御し平衡状態を保つことで、荷物の上下操作などを容易にした。フィードバック制御により平衡状態を保てる。荷物の移送だけでなく他の作業でも操作性が向上する。

移送工程の内容に合わせて四つの操作モードを装備した。これにより停電時などでも安全に動作する。外部機器と連携できる拡張性もある。(ロボテック=東京都中央区、03・3639・6123)

発明大賞 日本発明振興協会会長賞

LED照明モジュールおよびLED照明装置=四国計測工業(社長・寺井昇二氏)

金属基板に無機白色絶縁層を形成した発光ダイオード(LED)実装基板。伝熱面積を広げる「放熱フィン」の配置を工夫しており、放熱性が高く経年劣化が少ない。従来のLED実装基板は放熱性に課題があった。このためLED照明は設置する位置や角度を制限する場合もあったが、開発した発明品は取り付け自由度が高く、適用範囲が広い。体育館や工場などの高天井や野外照明で使える。LED実装基板が耐放射線性であるため、放射線管理区域でも使用できる。(四国計測工業=香川県多度津町、050・8802・3090)

発明大賞 日刊工業新聞社賞

絶縁抵抗監視の制御方法および監視装置=竹中電機(開発部次長・鈴木敦氏)

電気回路の絶縁が保たれているかを調べる「絶縁抵抗計」と同等の精度で、電動機などの絶縁抵抗を自動で計測できる装置。絶縁不良から劣化の兆候を調べられる。装置停止や火災事故などの未然防止に役立つ。

一度設置すれば取り外し作業が不要。自動で絶縁抵抗測定ができるため、保全工数の削減も可能。絶縁抵抗の測定は、従来は絶縁抵抗計を使って人手で行われており、自動化が望まれていた。ただ、他方式で自動化すると人が測定するより精度に課題があった。(竹中電機=愛知県碧南市、0566・48・3221)

発明功労賞(50音順)

ローラーコンベヤ用直角移載装置=伊東電機(会長・伊東一夫氏ほか3人)

搬送物に衝撃や振動を与えず直角方向に分岐搬送ができるローラーコンベヤー用モジュール。搬送物がローラーに接している「搬送面」の高さを変えず、押し出さずに搬送できる省エネルギーな搬送システム。

順方向に搬送する主搬送部と、直角方向に搬送する副搬送部が両方とも昇降できる。片方の搬送部が搬送面の高さにある時、もう一方を低くして搬送面の高さを変えずに直角方向に搬送できる。

従来は搬送物を持ち上げたり押し付けたりするため、衝撃が加わり破損が生じるなどの課題があった。(伊東電機=兵庫県加西市、0790・47・1225)

緊急時に対応可能な多言語再生装置=エジソンハードウェア(代表取締役・辻誠氏)

災害発生時や交通機関での事故発生などの非常時に、4カ国語で収録したメッセージを簡単に放送できるメガホン。非常時に発出が必要な定型句を翻訳して登録しており、現場の状況に合わせて選択して再生できる。使用頻度の高いメッセージの表示順位を優先できる。外国人に拡声器で案内のメッセージを発出する場合、自動翻訳も考えられるが、発したメッセージの正確さがその場ですぐに判断できず、間違った内容を発する可能性があることが課題となっていた。(エジソンハードウェア=札幌市白石区、011・598・7833)

ステンレス鋼の飛躍的耐食性向上法=ケミカル山本(社長・山本正登氏ほか2人)

ステンレス鋼の表面に電気化学的反応を利用してフッ素やホウ素を添加し新たな皮膜を形成し、耐食性を向上する。ステンレス中のクロムが酸素と結合して形成する「不動態膜」に、新たに元素を加えて皮膜を作る。

ステンレスは耐食性の高い鋼材として使われるが、塩素イオンに弱いという課題があった。表面熱処理やメッキ、真空中で薄膜を形成する「ドライコーティング」などの技術はあったが、電気化学的反応を利用する手法は初めてという。(ケミカル山本=広島市佐伯区、0829・30・0820)

舌、頬肉等を吸入しない歯科吸引治具=三晃合成工業(代表取締役・河合賢氏ほか1人)

口の中で舌や頬肉を吸わずに吸引できる歯科治療用の吸引具。先端形状を変えた三つの吸入口により、吸入口すべてをふさがない仕組みにした。従来より吸入口を厚くすることで変形しにくくなり、口腔内での操作もやりやすい。吸入具自体の操作性を大幅に向上させた。

発明品によって患者の不快感を軽減できる。さらに吸引にちょうど良い硬さであることから、歯科医師にも使いやすい形状になった。従来の吸引具では先端が柔らかく折れやすかった。(三晃合成工業=愛知県津島市、052・811・1232)

電動ファン付きウエア=セフト研究所(社長・市ヶ谷弘司氏)

衣服に電動ファンを取り付けて外気を強制的に衣服内に取り込み、上方に排出させることで汗の蒸発を継続させる作業ウエア。軽量で冷却効果を数時間維持でき、作業に集中しやすいように衣服を設計した。外気温が皮膚温を超える環境では、体の放熱は汗の蒸発放熱に依存する。屋外などで働く作業者は、汗の蒸発による放熱が十分に機能しないため、熱中症になる恐れがあった。衣服内に水を循環したり温度変化素材を採用するなどのアイデアはあったが、重量増や冷却効果の持続などの課題があった(セフト研究所=東京都板橋区、03・5916・5320)

ふっ素樹脂膜材への印刷方法=中興化成工業(アーキ・エクスポートプロダクト部・田村成教氏ほか1人)

フッ素樹脂で表面を保護した膜材に特殊な表面処理を行うことにより印刷を可能にする。熱可塑性のフッ素樹脂表面に、粒径20ナノ―30ナノメートル(ナノは10億分の1)の粒子を固着。印刷に必要なインクを染みこませることができる粒子層「インク受理層」を形成した。

フッ素樹脂表面は化学的・表面工学的に安定しているため印刷は難しかった。ナノサイズの粒子を印刷時に使う技術はあったが、粒子でインク受理層を形成するのは初めてという。(中興化成工業=東京都港区、03・6230・4414)

糸条冷却装置における2重水平多孔板による気流制御法=TMTマシナリー(技術本部開発部製品開発グループグループリーダー・川本和弘氏ほか3人)

合成繊維製造の過程で糸束を冷却するために送風する冷却風を整流化して、冷却効果と合成繊維製造の効率を向上させる。冷却風を整流する二つの多孔板に通す。整流操作を2段階に分けることにより流れを制御し、整った冷却風を作れる。

これまで糸束に対する冷却は品質ばらつきが発生するなどの課題があった。開発した技術は主に中国や台湾、ベトナムに輸出・販売している。(TMTマシナリー=大阪市中央区、京都テクニカルセンター=075・691・3855)

考案功労賞(50音順)

電解イオン水生成方法と電解イオン水生成装置=Eプラン(代表取締役・松澤民男氏)

アルカリイオン水を生成する装置。電解質に食品添加物としても販売されている炭酸カリウムを原料に使用。陽極から次亜塩素酸水と塩素ガスを発生させず、陰極からアルカリイオン水を生成する。電解セル構造に陽イオン交換膜を採用し、連続生成のフロータイプとより高い水素イオン指数(pH)を生成するバッジタイプの生成法を開発した。原料の炭酸カリウム粉末の投入・溶解槽を設けた。(Eプラン=千葉県船橋市、047・404・9240)

拡張仮想空間提供システム=ACW―DEEP(代表取締役・山口聡氏ほか1人)

複合現実(MR)技術を使った「AVR(アドバンストバーチャルリアリティー)」システム。利用者の手足など周囲情報を仮想現実(VR)空間上に表示し、より現実に即した仮想空間を提供する。MRは基本的に現実空間に仮想的な情報を重ねて表示する。だが、開発した技術は仮想空間上に現実の情報を合成する。VR空間内での自分自身の立ち位置が認識でき、「VR酔い」しにくい。(ACW―DEEP=川崎市川崎区、044・400・2236)

液体汚れをシャットアウトする水性床維持剤=シーバイエス(代表取締役・諸星重文氏ほか1人)

耐久性と耐薬品性に優れた業務用フロアシール剤。アクリルポリマーとウレタンポリマーの2液混合液を主剤とし、これに硬化剤のポリカルボジイミドを含む添加剤を混ぜ合わせて使用する。2液混合とその適切な配合率により、従来品より緻密な塗膜を形成。耐久性やアルコール等の耐薬品性を向上した。時間経過に伴うフロア皮膜の光沢低下、靴底のゴムが床との摩擦熱で溶けて焼き付いた「ヒールマーク」などを抑制する。(シーバイエス=横浜市中区、045・640・2200)

金属材にセラミックスを溶射したオゾン発生無声放電体=中島産業(代表取締役・中島幹夫氏)

オゾン発生装置の心臓部にある放電体。バラスト水、ウイルス、下水処理などの殺菌や自動車関連などで使われる。オゾンを発生させる無声放電体を、金属素管と金属板にガラス質のファインセラミックスを溶射することで、従来のガラス素材に比べ耐衝撃性を高めた。

ガラス製は強度を上げるために厚みが必要だが、約0.4ミリ―0.6ミリメートルの厚みを実現してオゾン発生効率も高めた。(中島産業=愛知県瀬戸市、土岐工場=0572・52・2818)

万能高効率ベルトコンベアクリーナー=マフレン(代表取締役・大徳一美氏)

ベルトコンベヤーのベルトに付着した搬送物をベルトが背面に来た時にかき落とすクリーナー。ベルトの幅方向を小分割し、幅15ミリメートルの細長い弾性棒を並べた。ベルトと接触するかき取り部は耐摩耗性の超硬チップを取り付けて、しっかりとかき取れるようにした。弾性棒下部のボルトで高さを調節可能にし、ベルトとの接触能力を高めた。高接触能力は搬送物の落下低減につながり、生産性の向上や落下物の処理作業の低減にも貢献する。(マフレン=北九州市若松区、093・741・2829)

歪みゲージとこれを有する力変換器=ユニパルス(技術本部ゲージ開発課課長・主任技師・長尾武奈氏ほか2人)

歪みゲージとレーザー照射を組み合わせることで歪みゲージの精度を高めたロードセル(荷重計)群。レーザーを使って歪みゲージの抵抗体を切断・除去するなど、抵抗値の調整を容易にした。

レーザー照射や曲面形状を考慮し、抵抗調整パターンを一直線で切り取れるようにしている。これにより応答性が良く遠隔指示や自動制御ができ、過酷な環境下でも長期に使用できる。(ユニパルス=東京都中央区、03・3639・6120)

発明奨励賞(50音順)

油ハネせず油を新鮮に保ち、環境にも貢献するフライヤー=クールフライヤー(代表取締役・山田光二氏)

揚げ種から出る水分や揚カスの沈殿を促進し、油跳ねを抑え油の劣化を抑制するフライヤー。油槽下部を水槽で覆って冷却し80度C以下に保つ事で水滴の気化を防ぎ、油の劣化に繋がる微細な固形成分の沈殿を促進。側部ヒーターの出力を下部より大きくし、更に独立して制御する事で調理層中央に下降対流を作り出し、水滴・揚カスを効率的に低温油槽に送り込む。(クールフライヤー=横浜市泉区、045・516・1298)

接触式光ファイバプローブによる微小径三次元形状測定機=小坂研究所(精密機器事業部取締役精密機器事業部長・青陰雅昭氏ほか2人)

微細な貫通穴を非破壊で計測できる形状測定装置。光透過素材で作製した直径5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)以下の針先にレーザー光を軸に対して斜めに照射し、針先のたわみを検出することで非破壊測定を実現した。穴の最小測定径は10マイクロメートル、深さ300マイクロメートルに対応する。半導体チップの電極用微細穴やインクジェットノズルの形状などの測定も可能。(小坂研究所=東京都千代田区、03・5812・2011)

遠心分離方式を取り入れたサイクロン装置=長谷川誠氏

粒径1マイクロ―10マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の切削くずなどの異物を分別可能な装置。工作機械、金型、半導体、電子機器など幅広い業界での使用を想定する。放射方向に対して30―45度傾けた高速遠心羽根を採用。水流に強力な遠心力を発生させ、汚液を筒体内壁に押し当てて粒子と水を瞬時に分離する。筒内下部に落下した粒子は随時バルブを開けて外部に放出する。分離能力は1分当たり20リットルと50リットルの2タイプを用意した。(岐阜県多治見市、0572・21・2460)

発明大賞

【概要】独創性に富む発明により優秀な技術・製品を生み出した中堅・中小企業の方々及び個人を表彰し、その功績を広く一般に紹介し、発明の推進を図る。日本発明振興協会と日刊工業新聞社との共催で毎年1回募集し、応募者の中から厳正な審査を経て表彰する。

【審査】学識経験者らによる審査委員会(藤嶋昭審査委員長=東京理科大学栄誉教授)で、発明考案の革新性や社会的意義などを厳正に審査する。

【後援】文部科学省、経済産業省、特許庁、中小企業庁、東京都、日本商工会議所、日本弁理士会、東京商工会議所、東京都立産業技術研究センター、中小企業診断協会、東京都中小企業診断士協会

(2021/3/5 05:00)

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