半導体産業

(2021/7/15 05:00)

業界展望台

半導体はコンピューターや通信機器、家電製品、自動車、鉄道など幅広い産業や、社会生活に欠かせないデバイスとして注目を集めている。6月には経済産業省が国家事業として基盤整備に取り組むことを掲げた「半導体・デジタル産業戦略」を策定。半導体をめぐる環境の変化を踏まえ、研究開発や製造、インフラ整備などを一体的に進める。一方、半導体を製造する装置や材料市場では、多くの日本企業が存在感を高めている。

日本製半導体製造装置販売額 23年度、過去最高3兆2200億円

半導体・デジタル産業戦略において、半導体は第5世代通信(5G)、IoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)、先進運転支援システム(ADAS)、ロボティクスなどデジタル社会を支える重要基盤で重要な戦略技術に置かれる。

一方、米国は約5兆5000億円の半導体産業投資を表明したほか、中国の10兆円超えの大規模投資に加え、欧州連合(EU)や台湾なども産業政策を展開。米インテルや台湾積体電路製造(TSMC)、韓国サムスン電子による旺盛な新工場・新ライン増設や最先端技術導入が見込まれている背景もある。

こうしたことから、政府は次世代半導体の製造技術確立などを行うため、海外のファウンドリー(半導体受託製造)との合弁工場建設による日本国内での製造基盤構築や既存の国内工場の刷新・再編を推進するほか、日本が強みとする製造装置や材料分野を中心とした技術基盤強化に取り組む。先端半導体プロセスの(1)前工程(微細化ビヨンド2ナノメートル)(2)後工程(実装3次元パッケージ)で、日本の製造装置・材料分野、産業技術総合研究所などとの連携した技術開発を行う。

さらに新規プロジェクトの立ち上げも加速し、グリーンイノベーション基金やポスト5G基金などの研究開発事業や産業競争力強化法による支援など既存施策とともに拡大する。

デジタルインフラの基盤となるデータセンター(DC)に関しては年内に計画を策定し、10カ所程度の地域拠点の立地を推進。新たな事業者の育成を通じ、産業・政府・インフラ用のクラウドに欠かせない信頼性や安全性の確保を目指す。

日本半導体製造装置協会(SEAJ)による20年度の日本製半導体製造装置販売額については、前年度比15.0%増の2兆3835億円となり、17年度から継続して2兆円超えの高水準で推移した。新型コロナウイルス感染症で世界経済に停滞期をもたらしたが、パソコン(PC)や高解像度テレビ、スマートフォンの需要が堅調に推移した。

21年度の日本製半導体製造装置販売額は前年度比22.5%増の2兆9200億円、日本市場販売高は同23・6%増の9900億円と予測した。ロジック半導体メーカーやファウンドリーの継続した投資、メモリーメーカーの復調を見込んだ。

牛田一雄SEAJ会長は「車載用半導体がけん引役となり、在宅勤務によるリモートやIT機器などで半導体が重層的に広がっている」と述べる。これまでけん引役であったPCやスマホだけでなく幅広い機器や産業、社会に欠かせない重要なデバイスであることを強調する。

22年度はロジック半導体メーカーやファウンドリーによる設備投資が伸長し、日本製半導体製造装置販売額は3兆700億円を見込み、初の3兆円超えとなる。また、日本市場の販売額はメモリー需要やイメージセンサー投資拡大で1兆1200億円と予測する。

23年度の日本製半導体製造装置販売額は20年度比35.1%増の3兆2200億円を予想した。1986年に統計を始めて、最高値となる。直近の販売額のボトムは、リーマン・ショックを背景に投資抑制が見られた09年度の6528億円だ。日本市場販売額は1兆1800億円を見込む。

DRAMの不足感に加えて、DDR5型規格に向けた対応、NANDフラッシュはDC向け需要、メモリー全般の高水準な投資に期待されている。

半導体産業 高水準で成長

94年以前は産業機械や家電向けが中心だった半導体産業が、ウインドウズ95や98の登場で95年から市場規模が伸びた。

2000年にITバブル崩壊を迎えたが、その後一家に1台のPC、さらに1人が1台の携帯電話端末を持つ時代となり順調に市場が回復した。スマホの登場でリーマン・ショック後に回復するが、その反面スマホの普及はデジタルカメラや携帯音楽プレーヤー、PCなどの市場を奪い半導体の成長率は鈍化した。

しかし、世界で国連の持続可能な開発目標(SDGs)やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を目指す動きが広がり、半導体は技術革新と革新的な製品によって、こうした社会の実現に貢献すると考えられる。これからも半導体産業は高水準で成長が続く。

 

半導体製造装置・リースなどの取り組み

半導体の製造装置・要素部品や材料分野の需要は、半導体デバイスの開発・生産投資にけん引されて好調に推移している。こうした製造装置・要素部品などの企業は設備導入の支援や素材の増産、テスト市場創出など、ユーザーニーズに対応したビジネスを展開している。

顧客ニーズに対応

JA三井リースは半導体デバイスメーカーに向けて、ファイナンスサービスを通じた製造装置の導入をサポートする。半導体産業は開発や生産がグローバル化しているとして、日本と米国、台湾、シンガポールといった対顧客戦略上、重要なエリアに拠点を構築している。

同社は2020年の半導体需要について「一般的にリースと半導体製造装置の需要はリンクしない時期もあるが、双方とも非常に旺盛であった」とし「ハイクラスのパソコンやデータセンター向けサーバーに加え、車載はカーナビゲーションなどのインフォテイメント関係やパワー半導体の需要が堅調であった」と見る。

JX金属は第5世代通信(5G)やデジタル変革(DX)の進展などから、銅・銅合金ターゲット材を用いた先端半導体の需要が拡大しており、茨城県北茨城市の磯原工場で計画している半導体向けスパッタリングターゲット材の増産計画を21年秋に半年前倒しする。

同社はスパッタリングターゲット材を扱う薄膜材料事業や、フレキシブルプリント基板(FPC)用圧延銅箔(はく)を扱う機能材料事業などをフォーカス事業として成長戦略のコアに位置付けており、21年3月期の営業利益は前年同期比約2.1倍の311億円と大幅な伸長となった。

台湾の大手計測器メーカーChromATEの日本法人は、グローバル企業の強みを生かしてウエハーやデバイスのテスタービジネスを国内でも展開する。

ミドルクラスのマイコンを中心に、半導体デバイスメーカーやファウンドリー(半導体受託製造)、OSAT(半導体後工程請負業)など日本ユーザーへの提案を行う。これまで海外で培ってきたテスト環境を背景に、コストメリットと高い性能を両立し試作から量産まで対応する。

特に評価ボードの設計などのサポートに注力しており、既存設備からのエクスチェンジにも柔軟に対応する。

また同社は9月30日、半導体テストセミナーをオンラインで開催予定だ。

木村洋行は欧米の高機能部品を日本に輸入している商社。半導体製造装置に関し、米ケイドンの超薄型ボールベアリングが、製造工程の前・後かかわらず幅広い採用を見せている。オンライン展示会などを通じて、真空環境や高温など厳しい環境でも使用可能なベアリングを提案していく。

コラム/「夢の図書館・マイコン博物館」 技術雑誌・歴史的なコンピューター展示

「夢の図書館・マイコン博物館(東京都青梅市)」は100年分の貴重な技術雑誌をそろえ、機械式計算機や歴史的なコンピューターを展示している。

夢の図書館では1924年(大正13)10月に創刊された子ども向け科学雑誌など、3万冊に届く技術やコンピューター雑誌をそろえている。

  • PC-8001(左)など名機がそろう博物館

吉崎武館長は「30年前の雑誌には青春時代の熱い思いが、70年前の雑誌からは戦争の足音が、100年前の雑誌からは文明化を急ぐ日本の姿が見えてくる」と次の世代へ広く伝えたい思いを述べる。

マイコン博物館はNEC「PC-8001」や富士通「FM-8」、シャープ「MZシリーズ」など1975年頃から85年頃まで名機と呼ばれた国内だけでなく海外の8ビットパソコン(PC)や、2000年発売の米アップル「iMac(アイマック)」などを展示。吉崎館長は「当時のブラウン管モニターを介して、実際に操作することができる体験コーナーを設けている」と話す。

  • Apple1のレプリカモデル

さらに通商産業省(現経済産業省)が570億円の開発費を投入し人工知能(AI)を意識して開発した「第5世代コンピューター」も展示している。また米アップルが「Apple 1(アップルワン)」を、76年に当時の金額で666ドル66セントで発売。同博物館はそのレプリカモデルを常設。レプリカはApple 1同様にボードのみのパソコンで、使用するにはキーボードやモニターが必要になる。

夢の図書館・マイコン博物館は時代を超えて、モノづくりの息吹が感じられる空間で、PCの草創期や発展期に触れることができる。

(2021/7/15 05:00)

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