75回目を迎える インド独立記念日

(2021/8/16 05:00)

業界展望台

1947年8月15日に英国から独立したことを祝う「インド共和国独立記念日」が今年75回目を迎える。2020年9月に起きた新型コロナウイルス感染症の第一波から一時収束はあったものの、今年4月~5月の第二波では急激な感染拡大が起きた。日本政府や企業は酸素濃縮器の緊急援助など、日印間の国際的な連携・協力を行っている。

 

第75回インド独立記念日に寄せて

サンジェイ・クマール・ヴァルマ 駐日インド大使閣下

パートナーシップ深化

第75回インド独立記念日に際し、天皇皇后両陛下、日本政府と日本国民の皆さまに心からごあいさつ申し上げます。またこの機会に、進歩的な印日特別戦略的グローバルパートナーシップの重要なステークホルダーである在日インド人の皆さまにも特別なごあいさつを申し上げます。

新型コロナが課題とともに新たな機会を世界にもたらす中、印日パートナーシップはさらに深化しました。インド政府の積極的な対策が功を奏し、インドの100万人あたりの新型コロナ感染者数と死者数は、100以上の国を下回る水準まで下がっています。インドはこれまで国民に国産コロナワクチンを約5億4000万回接種しており、さらに「COVAXファシリティ」を通じて、95カ国以上に6600万回分のワクチンを供給しています。インドにおける新型コロナワクチン接種は、デジタル技術を用いた効率的な「新型コロナワクチン・インテリジェンス・ネットワーク」(Co-WIN)により監視されています。

  • ワクチン接種会場(無償接種会場の屋内) (ジェトロニューデリー事務所提供)

日本はインドが第二波に見舞われた時、2800台の酸素濃縮器、1800台の人工呼吸器などの供与を通じ、信頼できるパートナーでいてくれました。両国は、新型コロナ対応のための国際的な取り組みを通じた協力を続けています。印日米豪の四カ国協力枠組み「クアッド」は、2022年末までに発展途上国に10億回分のワクチンを提供することを目指しています。

印日特別戦略的グローバルパートナーシップは、民主主義、自由、法の支配への尊重といった両国が共有する価値観を強固な礎としています。私たちの戦略的パートナーシップの性格は、年次首脳会談、外務防衛閣僚会議(2プラス2)を含む多様な制度的メカニズムに反映されています。22年は印日国交樹立70周年に当たります。この重要な年を前に最近立ち上げられた「印日フォーラム」は、両国のシンクタンク、学者、ビジネスリーダー、報道関係者、政府関係者を招待し、パートナーシップの強化についての会議を主催しました。

日本はインドのインフラ開発を支援する自然なパートナーです。日本の支援のもとに実施されているデリー・メトロや、新幹線技術を活用するムンバイ・アーメダバード高速鉄道は、インドで最も象徴的なインフラ開発計画です。両国の人口統計学的属性には補完性があります。これを活かすため、両国は、特定技能制度の運用のための協力覚書を締結しました。日本は、17カ所の「日本式ものづくり学校」や7件の「日本寄付講座」などを実施するなど、インドにおける能力強化に顕著な貢献をしています。

インドは24年度に5兆ドルの国内総生産(GDP)を達成するという目標を視野に入れ、高度成長軌道を維持するため積極的な施策を実行し続けています。私たちはビジネスのしやすさを向上させるため、労働、税制、投資に関する一連の法律改正を行いました。これらの取り組みが功を奏し、インドは世界銀行のビジネス環境調査報告書において、15年度版の142位から、20年度版では63位まで順位を上げました。未来への進路に関しては、印日間の需要と供給の力学、そして補完性が、新しく、革新的で、代替的なパートナーシップのモデルを促進していくでしょう。両国はそれぞれの強みと競争力を組み合わせ、国内市場と世界市場において「共同イノベーション」「共同クリエーション」「共同生産」に取り組まなければなりません。

未来志向の印日パートナーシップのもう一つの柱となっているのが、日本が提唱する「ソサエティ5・0」と、インドの「デジタル・インディア」「スタートアップ・インディア」「スキル・インディア」政策とのシナジーを追求する「印日デジタルパートナーシップ」です。インドでインターネット利用者が急増している現在、第5世代通信(5G)、ビッグデータ解析、量子コンピューターなどの先端技術分野には、成長が期待できます。5万社以上のスタートアップ、1万社以上の技術系スタートアップが存在するインドには、世界第3位の規模を誇るスタートアップ・エコシステムがあります。インドはイノベーションの拠点として台頭しつつあります。スタートアップ企業の45%は、女性起業家を含む経営陣が率いています。

インドは「地域のすべての人々のための安全保障と成長(SAGAR)」という概念に基づいた、自由で開かれた包摂的なインド太平洋を構想しています。インドの「インド太平洋海洋イニシアチブ」(IPOI)は、海洋安全保障、海洋生態学、海洋資源、能力構築・資源の共有、防災・減災・災害管理、科学技術協力・学術協力、貿易接続性・海上輸送からなる七つの重点分野を強化するための、既存の地域協力メカニズムに基づいた有用性の高い枠組みです。日本はこのイニシアチブの「接続性」分野を主導しています。

ソリューション探求

  • 独立記念日を祝う大型商業施設。第二波が落ち着き、人出が回復(ジェトロ・ニューデリー事務所提供)

「世界は一つの家族」という精神を持つインドは、国際太陽光同盟、災害に強いインフラのためのコアリション(連合)、サプライチェーン・レジリエンス・イニシアチブなどの主要なイニシアチブを通じ、パンデミックへの対応から気候変動対策に至るまで、さまざまな世界的課題へのソリューションを探求し続けています。今日、インドの設備容量に占める再生エネルギーの割合が38%となっていることは、私たちのクリーンエネルギーや気候変動への真摯(しんし)なコミットメントを示しています。

インドの伝統医療・アーユルヴェーダは、日本や世界で人気を得ています。ヨガは言うまでもなく、多くの日本人の生活の一部となっています。今年の「国際ヨガの日」の前には、東京スカイツリーでの祝賀行事を含む900以上もの祝賀行事が日本国内で開催されました。毎年日本のヨガ実践者が50名以上、インド中央政府が主宰する検定試験に合格しインド政府公認ヨガ指導者の資格を得ていることは、日本にヨガへの根強い関心があることを示しています。

独立75周年という記念すべき年に向かい、インドは活気あふれる経済、若い人口、躍動的な民主主義を糧に新たな活力を得ようとしています。独立後の75年間、日本はインドの重要なパートナーであり続けてきました。印日パートナーシップが拡大しつつある人的交流を通じ、これからも成長し続けることを確信しています。

 

インドのデジタル力 グローバル市場で打ち勝つカギ

  • 進むワクチン接種(ジェトロニューデリー事務所提供)

インドでは3月下旬から新型コロナの感染者が急増し、第二波が発生。ピーク時の感染者は1日40万人を超え、サービス業など制限措置をとられた産業では甚大な影響を受けた。一方でこのコロナ禍で、デジタル産業の成長が加速。ワクチン普及システム、リモート診療やECサイト普及などに加え、研究・技術開発の分野においてもエネルギー分野でのIT制御や、人工知能(AI)の自動車への適応など活発化。海外からインドのデジタル力への注目も一段と高まっている。

エネIT制御・車向けAI 研究・技術分野でも加速

インドにはマイナンバーシステム「アダール」があり、国民の個人情報(ID)を携帯番号や銀行口座にひもづけ、デジタル上で取引ができる。アダールと連携し、新型コロナの感染者との接触履歴などが把握できるアプリ、ワクチン予約やデジタル証明書が届くプラットフォーム(Co―WIN)が迅速にインド全土に普及している。アダールのような基盤を生かして開発・導入を行い、緊急事態に早期対応していけるのがデジタル力のあるインドの強みだ。

インドのイノベーションやIT人材に目を付け、2019年度はアリババなど中国企業、20年度はグーグルなど米国企業がスタートアップへの投資の大部分を占めた。

コロナ以前よりインドには貧困格差やインフラの不備、不良債権問題など課題も多く残る。ジェトロ・ニューデリー事務所の村橋靖之所長は「それでもインドは長期的にみて確実に成長する国」と、インドの持つ可能性を語る。50年には国内総生産(GDP)は米国を超え、世界第2位になると予測されている。

村橋所長は「デジタル力や人材に、米中などが率先して投資を進める中、日本企業はインドの力をどのようにビジネスに取り込むか、これまでの東アジアでの成功体験とは違った視点でインドに向き合うことがグローバル市場で打ち勝つポイント」と強調する。

日本国内のデジタル人材の不足解決や産業強化、社会貢献活動などとして、今後着実に成長していくインドと機動的にビジネスの関係性を築いていくことが、日印の経済的関係の強化および発展へとつながる。

 

日印連携でモノづくり人材育成

日本・インドの両政府は官民連携のもと「ものづくり技能移転推進プログラム」を進めている。プログラムの狙いは、インドに進出する日系企業が求める質の高い現場人材の確保と、モディ首相が掲げる“メイク・イン・インディア"と若年層のスキルアップを図る“スキル・インディア"政策への貢献だ。「日本式ものづくり学校(JIM)」と「寄付講座(JEC)」の実施を通じて、10年間で3万人のモノづくり人材育成を目指す。

JIM・JEC実施 / 現場リーダー育成・専門教育

  • グジャラート州の大学内にJIMを開校しているマルチ・スズキ・インディア

JIMは若い人材に日本式モノづくりの考え方や技能を取得させ、将来の製造現場のリーダーを育成する。経済産業省の認定を受けた日系企業が、工場など既存施設を活用しITI(産業訓練校)出身の若者などを対象に座学やジョブトレーニングを行う。2017年にスズキやトヨタ自動車などが設立したJIMが第1陣として認定。現在17校が開校されている。

一方のJECは、将来的に管理職やエンジニアの中核を担う可能性のある学生に対し、モノづくりに限らずITセクターの人材育成、高度な専門教育を提供する。明電舎やパナソニックをはじめ、現在7講座が展開されている。コロナ禍の現在はオンラインでの実施対応などを進めている。今月には光生アルミニューム工業がJIM、セントラル情報センターと日吉がJECを新たに開校した。コロナ禍でもインドを長期視点での戦略拠点として、着実な人材育成に取り組む日本企業が出てきている。

同取り組みを通じ、日系企業は中長期的な技術指導により学生の能力を見極め、優秀な人材の将来的な採用につなげられる。またインドの会社法では、企業はCSR活動への資金支出が義務付けられており、人材育成をCSR費用として拠出することができる。

学生は日系企業から技術指導を受けられるだけでなく、JIMによってはインド政府の職業訓練認定などの取得や手当の受給といったメリットを得られる場合がある。

人材育成事業は途上国でも展開されているが、JIM・JECのユニークな取り組みはインドのみで実施されている。主導する経産省貿易経済協力局は、企業の人材育成の取り組みに対し、現地で指導を行うトレーナーの育成・派遣費用をはじめ支援を行っている。「日系企業の進出、活動のサポートを進め、現地の産業発展につなげていきたい」と取り組みに力を込める。

(2021/8/16 05:00)

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