高分解能化が進む オシロスコープ

(2021/9/17 05:00)

業界展望台

  • オシロスコープは自動車や産業機械の開発に欠かせない

オシロスコープは電気信号の時間的な変化を波形表示する基本の電気測定器。「見えない電気信号」を観察する。産業のマザーツールの一つとして、エレクトロニクス分野の研究開発から生産、保守、学校教育まで幅広く活用されている。電気自動車(EV)の普及拡大に伴い、搭載されるインバーターやモーター、次世代半導体、高速化する車載通信などで解析が求められている。高い解像度に加えて、8チャンネルのオシロ需要が高まりを見せている。

8チャンネル・12ビットに引き合い活発

  • 8チャンネルオシロでGaNを搭載した評価基板のスイッチング測定

オシロは電気信号が時間とともにどのように変化するのかを示し、基本形は縦軸が電圧、横軸が時間を表す。波形からは信号の時間と電圧や周波数、回路の可動部分、特定信号の発生頻度、正常に動作していない部品による信号影響、ノイズ成分の大きさやその時間変化などが判断できる。

日本電気計測器工業会(JEMIMA)が発表した「中期見通し」によると2021年度のオシロの売上高は20年度見込み比5.0%増の66億円、24年度は73億円と増加傾向を見込んでいる。第5世代通信(5G)サービスを活用したIoT(モノのインターネット)機器の拡大、自動車の電動化の加速、パワー半導体の量産化・低価格化に対応したパワーエレクトロニクス関連の設備投資需要が見込めるとしている。

5Gの世界的な普及やIoTはオシロの新市場を創出する。また、EVの普及拡大を背景に搭載するインバーター、モーター、パワーエレ、さらには先進運転支援システム(ADAS)を実現する車載イーサーネット「100BASE-T1/1000BASE-T1」やシリアル信号などの測定・解析需要の増加が見込まれている。

■進化するオシロ

オシロはエレクトロニクス産業の発展と共に進化してきた。岩崎通信機と米テクトロニクスは垂直分解能が12ビットで、アナログのチャンネル数が8チャンネルのモデルを市場に投入している。高分解能化ではより微細な信号変化や高速信号を確実に捕捉し、細部まで観測できる。

またDDR4型のDRAMを搭載したモジュールや産業機械の開発では、微細な電圧で大電流化の設計になるため、高速信号を確実に捕捉する必要がある。こうした基板上に流れる信号の電源品質(パワーインテグリティー)の解析要求が高まっている。

インバーターや三相モーターでは、電圧・電流の測定に6チャンネルが必要とされる。さらにセンサーやノイズなどの信号を解析するとなると8チャンネルが求められる。

■メーカーの対応

岩崎通信機は次世代半導体の炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などのパワーエレ分野に注力している。

次世代半導体デバイスや車載インバーターなどのピーク電圧やピーク電流、微細な漏れ電流などを評価するカーブトレーサーを発売する中、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)で省エネルギー化に注目が集まっている。

同社は相乗効果を狙い12ビット・8チャンネルを提案。21年4~7月はインバーターやそれに搭載される交流/直流(AC/DC)変換器だけでなく、蓄電池の開発向けに引き合いが活発になっている。

こうした要求信号を正しく測定するプローブを多彩にそなえる強みを生かし、ユーザーが真に求める測定に対して測定アドバイスで応えていく。

米テクトロニクスの日本法人は自動車・車載、通信を中心に測定や解析をサポートしている。オシロ市場では自動車と産業機器の分野に注力。

この分野では内部インターフェースが高速化しておりイーサーネットやPCIExpress(PCIE)の採用が増加。そのため新たな計測や測定課題が発生し、加えて電力効率も重要な課題になっている。同社は計測器単体からソリューション提案へと移行を進めており、それを一層強化してユーザーの課題に対応を図る。

■半導体供給課題

半導体デバイスや部品・部材の不足や値上げの影響に関して、メーカーは予想して前倒しで発注した。販売会社は多くの在庫を先行的に計画発注するなど、ユーザーの開発や生産を止めないための努力を展開している。

納期の影響はないが、秋以降から遅延を心配する声がある。これからも先行手配や在庫対応を図る一方、販社はメーカーと連携してユーザーの測定課題に遅延することがないように状況把握に努めていく。

テレワーク時代の機能

  • パソコンでリモート解析

主要オシロメーカーはユーザー要望に対応し、開発や生産で必要な性能・機能を、半歩先を見据えて提案している。テレワーク時代を迎えて、オシロで取り込んだ波形をネットワークを通じて外出先のパソコンで解析する動きが始まっている。リモートワークが増え、在宅で解析を行おうと、引き合いが急増している。

米テクトロニクスの「TekScope」は実験室のオシロで取得した波形やデータを、オフィスのパソコンで解析できるほか、チーム間でもシェアできる。リモートの解析環境を重視して、複数の計測器をネットワーク越しに操作・制御できる機能を追加・強化した。

岩崎通信機のリモートアプリケーション(応用ソフト)は、USBやLANなどのネットワークを介してパソコンでオシロの操作やカーソルによる測定、波形データの出力などができる。学校教育では教師側のパソコンで、学生側の全てのオシロの観測状況を一括して把握できる。

ロゴマーク物語(テクトロニクス)

  • 図1(丸形ブラウン管)

テクトロニクスは1946年、米オレゴン州で創業し、47年にオシロスコープの原形といわれ、現在のオシロに近い機能を搭載した「トリガー式オシロスコープ」を世界で初めて商用として開発した。初期のロゴマークはオシロに使用する丸形のブラウン管と波形を表し(図1)、67年まで使用された。その後はブラウン管の技術進歩により、角形ブラウン管に変更(図2)。76年まで、テクトロニクスの顔として広く世界に認知された。

  • 図2(角形ブラウン管)

オシロだけでなく幅広い電気測定器の開発や販売に携わることから、77年に社名「Tektronix」のロゴに刷新。93年にデジタル時代に合わせたロゴに、2016年は会社ビジョン「次世代のお客さまの技術革新を可能にする」を基にした新しいブランディング戦略として現在のロゴに改めた。

1965年には現在の同社日本法人の前身となるソニーとの合弁「ソニー・テクトロニクス」が設立されている。

ソニー・テクトロニクスは業界に先駆けて、高周波(RF)を定常信号で測定するリアルタイム式のスペクトラムアナライザー(RSA)を企画・開発している。ソニー・テクトロニクスの創業以来初の生え抜きとして、今年6月に就任した瀬賀幸一日本法人社長は「ロゴマークの編さんは顧客の測定要求に応える当社の技術チャレンジの歴史」とし「エンジニアが必要とする計測ソリューションの提供、顧客のイノベーションの実現と未来を変える技術開発を支えていく」と話す。

販売会社の声

販売会社はメーカーとユーザーの架け橋として非常に大切なポジションにある。販社はオシロスコープなど電気測定器を中心に取り扱い、ユーザーのモノづくり要望に応えている。昨年は新型コロナウイルス感染症による設備投資抑制が見られたが、今年の4―7月は研究開発や設計、生産、大学などからの需要が高まった。

日本電計は大学の購買活動の前倒しでハイエンドモデルがけん引するなど需要が伸長している。また通信分野と半導体分野が昨年から継続して活発な動きを見せており、加えて主要オシロメーカーの新製品投入を好材料に、21年4―7月は前年同期比倍増で推移している。注力市場の一つであるカーエレクトロニクスのソリューションが、建設機械や農業機械まで電子化の広がりを見せておりビジネスチャンスと捉える。

東洋計測器(東京都千代田区)は昨年から顧客にオシロを貸し出すことで、コストメリットや性能などの理解につなげて実販売に結びつけている。自動車の電気化(EV)の加速は、オシロだけでなく電気測定器全般の需要が見込まれる。モーター駆動時の電流波形や各種センサーが発する信号の波形観測ニーズに期待している。今後は5G関連向け市場の提案を視野に入れる。

穂高電子(横浜市港北区)は高周波や通信市場向けが堅調な動きを見せている。産業機器やIoT市場などでオシロが必要とされ、市場の広がりが需要をけん引いていると分析する。同社は自動車や車載・5G・学校を重点市場に置き、カーボンニュートラルに伴うビジネスが新たな市場になると見込んでいる。

東日本電子計測(仙台市泉区)では電子部品や車載市場に活発な動きがみられた。今後は電子部品のニーズとして微細な信号解析があり、多チャンネル・高分解能のオシロを提案する。

国華電機(大阪市北区)はオシロの機能向上やメーカーの販売キャンペーンを背景に、ユーザーの購買意欲の高まりで需要が伸長した。今後の国内営業施策は、EV車載関連と二次電池市場向けに多チャンネル・ロングメモリー・高機能モデルを、パワーエレと電磁環境適合性(EMC)市場向けに高精度・高周波対応モデルを、教育・実験現場向けに8チャンネルや高精度のモデルを提案する。

服部(神戸市灘区)は8チャンネルで12ビット以上の高分解能のモデルなどが好調に推移し、オシロ需要が高まっている。オシロで取り込んだ波形を外出先のパソコンで解析できる機能を持つモデルは、テレワークを背景に需要が増えている。カーボンニュートラルに伴い、エネルギー関連の開発では周波数帯域500メガ―1ギガヘルツクラスで引き合いが活発化している。

九州計測器(福岡市博多区)は情報伝送速度の高速化により、伝送機器の検査向けにオシロ需要が増加している。さらにパワーエレクトロニクスの研究開発投資が後押しした。こうした中、車載や農機、船舶、家庭向けの蓄電池の小型・大容量化が加速しており、パワーデバイス試験にオシロが重要視され、8チャンネルタイプの需要が伸びると期待する。

(2021/9/17 05:00)

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