産業春秋／母国語を大切に

フレッド・アステアが情緒たっぷりに歌ったジャズのスタンダードナンバー「the way you look tonight」、ポップスの名曲ビリー・ジョエルの「just the way you are」。

これらの名曲には素晴らしい日本語タイトルが付けられている。前者は「今宵（こよい）の君は」、後者は「素顔のままで」。ロマンチックな光景が目に浮かぶタイトルだ。次々と想像が膨らむ。

もしこれらの楽曲が英語タイトルのままだと、さぞかし味気のないものになるだろう。語学に堪能な人ならいざ知らず、言葉の持つ深い意味は母語でないと分からない。我々には先祖が積み上げてきた伝統や文化を背景にした母語がある。日本語の語彙（ごい）数は英語以上との説があるように豊かな言語なのだ。

最近は映画タイトルも英語表記のままのケースが多い。明らかな誤訳やとんでもない日本語よりはましかもしれないが「翻訳」の重要性が忘れられている。

小学校低学年から英語教育を実施するのは結構なこと。しかしその前提として日本語教育にしっかり取り組んでほしい。母語の素晴らしさや奥深さを知ることが教育レベルの向上にもつながる。言葉は「ツール」ではない。