インタビュー/宇宙科学研究所所長・国中均氏 はやぶさ2プロジェクトを振り返って

(2023/10/13 12:00)

成功の要因は「企業の技術力」

小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に帰還して12月で3年がたつ。小惑星「リュウグウ」で採取した試料の分析が進んで有機物や水の存在を確認でき、地球や生命の誕生の謎に迫れる成果を得られた。同連載では、探査機の開発や小惑星の試料分析に関わった日本企業や研究機関を取り上げてきた。最終回では宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の国中均所長に、はやぶさ2プロジェクトを総括してもらった。

―リュウグウの試料分析から多くのことが分かりました。

「リュウグウには水や有機物が存在すると仮説し、実際に探査機が小惑星に向かって物的証拠を採取できたことでインパクトのある成果が得られた。分析を通じて仮説を立証するためのピースがそろいつつある。米探査機『オシリスレックス』が小惑星『ベンヌ』で得た試料の分析結果と合わせて、より精密な成果となることを期待している」

―はやぶさ2プロジェクトには多くの若手が参加しました。

「人工衛星の開発・運用ができる研究者は多く存在するが、惑星探査を専門とする人材は少ない。はやぶさ2プロジェクトに若手研究者を割り当て、開発や運用と並行して人材を育成した。20人ほどの人材を育てられ、現在は火星衛星探査計画『MMX』や地球近傍の小惑星での観測計画『デスティニープラス』で活躍している」

―国中所長は探査機の開発時にプロジェクトマネージャを経験しています。

「NECや三菱重工業、IHIなどのシステムメーカーとやりとりすることが多く、JAXAのプロジェクトに長年携わっている企業であるため仕事がしやすかった。図面レベルから議論し合い、不具合の根源となる可能性から仕上がりが1ミリメートル違っても妥協せずに調整ながら開発した。工場に研究者を派遣してデータを見直し、納期が迫っている時には口調が強まったこともあった。企業の技術者は宇宙開発への士気が高く、若手のスピリッツの強さに驚いた」

  • はやぶさ2がリュウグウに到着した時のイメージ(池下章裕氏提供)

―宇宙開発に参画する日本企業は増えつつあります。

「JAXAだけが技術を持っているのではなく、企業が力を付けることで宇宙分野への参画や量産体制の確立などにつながってほしい。ただ惑星探査プロジェクトは約10年に1度しかなく、利益が見込めないため企業は欲しない技術だ。将来のプロジェクトに向けた技術の保有が難しくなるため、JAXAと企業との請負契約の内容を見直す必要がある」

―はやぶさ2プロジェクトにはさまざまな企業が関わりました。

「はやぶさ2プロジェクトが成功したのは企業が持つ技術力のおかげであり、感謝したい。日本の宇宙開発を強化するためにも情報共有することが重要と考えており、研究者が各企業に出向いて現場での使われ方や成果をフィードバックする活動を進めている。はやぶさ2は現在も新たな惑星に向けて旅を続けている。今後の活動も応援してほしい」

(2023/10/13 12:00)

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