BULL、ロケットの宇宙ゴミ化防ぐ 軌道離脱 大気圏で焼却 低コスト装置開発へ

(2024/1/26 12:00)

BULL(ブル、宇都宮市、宇藤恭士社長)はロケットの宇宙ゴミ化を防ぐ「PMD装置」を開発するスタートアップ企業。2020年代半ば以降の販売開始を目指しており「自動車のエアバッグと同様、ロケットに必須の装置となる」(宇藤社長)と予測する。栃木県内の産官学と連携で事業を進めており、装置の製造は県内の製造会社に委託する予定。宇宙産業を地域に根付かせる「うちゅうのみや」構想の実現を目指す。

  • 「惑星間輸送に関わる装置は全て手がけたい」と宇藤社長

軌道上の宇宙ゴミは大きさ1ミリメートル以上のものが1億3000万個以上あると言われる。ピストルの弾丸より約10倍速い秒速7キロ―8キロメートルで周回しており、人工衛星と衝突する事故が発生するなど、宇宙開発の障害となっている。

BULLが開発しているのは打ち上げ前に搭載する装置で、ロケット専用。ロケットが役目を終えた後に起動し、紙製オモチャの「吹き戻し」のように展開する。大気の抵抗力によって周回にブレーキをかけ、ロケットは軌道から離脱。大気圏で燃え尽きる。

PMD装置は推進システムや燃料が不要なため、宇宙ゴミを捕まえにいく「ADR装置」と比べ低コストで開発、販売できると見込む。7月には宇宙空間に似せた微小重力下で装置の展開を実証実験。9月には宇宙ゴミ化を防ぐ技術開発・実証事業が文部科学省による2028年3月まで最大40億円の助成事業に採択され、装置完成への道筋がより鮮明になった。

創業地の栃木県は「戦略3産業」の一つに航空宇宙を据えるが、宇宙産業をメインに手がける会社は少ない。PMD装置が完成すれば、製造は県内製造会社に委託し、宇宙産業を地域産業界に根付かせるきっかけとしたい考えだ。宇藤社長は「成功体験を一緒に積み上げたい」と展望を語る。

  • 帝京大学理工学部の「TeikyoSat-4」(帝京大学総合博物館提供)

いずれは、PMD装置をハブ事業として、宇宙関連で事業の幅を広げる方針。非回収型で低コストな小型国際宇宙ステーション(ISS)の研究開発に取り組んでいる。工学などエンジニアリングの実験には不向きだが、医学、創薬、食品などプロセス重視の宇宙実験フィールドとして活用を見込む。PMD装置とISSの機能とをかけ合わせ、宇宙ゴミ化の防止と実験を同時に行えるモデル開発も構想する。

BULLは22年11月創業。宇藤社長は防衛省出身で、退官後は産業コンサルタントとして勤務していた。「宇宙産業はまだ確立されておらず、これから世界と戦える」とみて宇宙産業に足を踏み入れた。

帝京大学理工学部の河村政昭准教授らと起業した。河村准教授は帝京大学で超小型人工衛星を開発する「TeikyoSat―4」プロジェクトを主導しており、BULLでは最高技術責任者を務める。政策渉外の経験値と、宇宙開発の技術力を強みに、新規参入の高い壁を乗り越え「惑星間輸送の装置は全て手がける」(宇藤社長)ことを目指す。

(2024/1/26 12:00)

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