「学問は批判も取り込んで進化」早稲田大学総長・田中愛治氏

(2024/1/26 12:00)

子どもの頃は理科系に進むと信じていた。小学校で理科の先生が担任になり、実験も多く深く考えさせる教育だった。なぜ電流はプラスからマイナスに流れるのか、なぜ鉄の塊の飛行機が飛ぶのか。子ども向けの物理の本に戦慄(せんりつ)を覚えた。論理的思考が性に合っていたと思う。武蔵高等学校中学校でさらに自ら調べ、自ら考える姿勢をたたき込まれたが、物理や化学の勉強は厳しくなってきた。同時に関心は政治や経済など社会へ変わっていった。

面白かったのはチャールズ・ディケンズの長編小説『二都物語』だ。フランス革命前後のパリとロンドンを舞台にした若者らの話だ。リーダーや庶民の悩み、革命による犠牲などその時代のものではあるが、物語を通じて自分なりに考えた。世界史も政治学者の道を選ぶ上で影響したかもしれない。

米国の大学院は、統計学を重視して大型計算機を多用する中西部の大学を選んだ。東海岸の大学で伝統的な政治哲学や外交史などでなく、人間の心理によって行動が関わり、原因と結果で動く政治に関心を持っていた。

渡米した際にG・A・アーモンドとS・ヴァーバの共著『現代市民の政治文化 五カ国における政治的態度と民主主義』を英語版で手にした。1960年代の米独などの国民の政治意識を、世論調査のデータ分析で明らかにしており、まさに私がやりたい研究だった。

興味深いのは80年代にこの分析を批判する本が出たことだ。民主主義の強い米国や英国、権威主義のドイツという超大物研究者の以前の分析に対し、「ドイツは70年代に民主化が進んだ」「政治文化は大きく変わるのに傲慢(ごうまん)だ」と中堅研究者が反論した。学問は批判も取り込んで進化する科学的なものだと感じた。

データなどエビデンスに基づいて次を考えることは重要だ。教職員には「これまでの取り組みが正しいと思ってはいけない」と言いながら、大学改革に取り組んでいる。

(2024/1/26 12:00)

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