(2024/11/25 00:00)
PwCコンサルティングは、大阪・梅田のグランフロント大阪で「R&D/PLM FORUM関西2024」を10月23日に開いた。世界規模でさまざまな変化が起こりつつある昨今、変化による競争激化への対応や既存ビジネスモデルからの脱却が求められている。「次世代開発・生産実現に向けたR&D(研究開発)、PLM(技術情報基盤整備)を考える1日。」と題し、ホンダ、ニッパツの担当者が事例紹介したほか、パネルディスカッションも実施した。(敬称略)
ごあいさつ
インタラクティブ(双方向)の場に
PwCコンサルティング
寺島 克也 氏
本日はご参加いただき、ありがとうございます。PwCコンサルティングにはいろいろな専門チームがあり、このフォーラムはR&D/PLM CoE(センター・オブ・エクセレンス)が企画いたしました。インタラクティブ(双方向)の場にしたいので、皆さまの日々の悩みや課題などを積極的に投げかけていただき、少しでも参考になるような情報を持ち帰っていただきたいと思います。
製造業を取り巻く環境変化と、R&Dイノベーションの重要性
R&Dは10年後、20年後の未来を構想することが起点
PwCコンサルティング
渡辺 智宏 氏
グローバル化が進展し、世界各地の遠い話が、製造業のサプライチェーン(供給網)という目先の問題にリンクする傾向が強まっています。こうした問題に対応するには、R&Dの段階で未然に防止することが求められます。将来を見据えた技術、事業、製品、生産技術を俊敏に改善し続けることが重要です。
R&Dは、10年後、20年後の未来を構想することが起点になります。同時に取り組んできたテーマがどれぐらいの付加価値を生んでいるかを把握し、この結果を生かして改善することで、新たな企画の精度が上がると思います。実は、この振り返りができていない会社が多いと感じています。
また、新規事業を立ち上げる時、既存技術をどう価値に変えるかを検討していると思いますが、実際に技術と市場、顧客がひも付いているかというと、まだプロダクトアウトになっていることが少なくありません。古くて新しい課題ですが、工夫する余地があると思います。
当社はR&D領域で、新規事業において「技術を強みとした新規事業開発」を、既存事業において「R&D業務改革」と「R&Dデジタル改革」を柱とし、事業・商品企画からプロセスまでの改革を支援しています。
対談/5年間の業務改革活動を通じて得られた教訓
しっかりと伝えて、しっかりと聞くことが重要
ニッパツ
大山 誠司 氏
シート生産本部の業務改革プロジェクトでは、この5年間でどのような成果がありましたか。
量産初期のトラブル、設計効率化などの課題を解決するため、業務のフロントローディング化による品質の早期作り込みに取り組みました。この結果、自責設変件数30%減、設計工数24%減、試作費54%減の定量効果がありました。しっかりと伝えて、しっかりと聞くことが重要で、意見が異なっていても、思いの根っこは同じということがたくさんありましたね。
現在はデジタル変革(DX)推進プロジェクトに取り組まれていますね。
DXを「仕事を変革する」ことと捉えて、Dがなくても、Xができればいいと考えています。とはいえ、業務改善活動だけでは、世の中のスピードについていけないような感覚もあり、業務改善とIT導入のバランスを試行錯誤しながら、開発・設計や生産・製造の全8テーマに取り組んでいます。
社内の受け止めは。
「わからないことは片っ端からデータを取ればわかる」、「データを取るにも『仮説』がないとダメだ」といった声があります。私は、DXの本質は仮説を検証して原理解明し、問題解決することと考えています。仮説の検証により、怪しいところの見当をつけられると思っています。
ありがとうございました。
Hondaの自動車開発におけるMBSEの取り組みとRFLP活用事例の紹介
開発対象の新規性に応じて開発手法を使い分け
Honda
大久保 宏祐 氏
自動車開発は、既存領域である自動車の開発効率化と、新規領域であるソフトウエア定義車両(SDV)や自動運転などのモビリティーシステムの開発課題の解決が急務になっています。当社は開発初期に要求を明確化し、製品開発にブレークダウンするシステムズエンジニアリング(SE)をベースにした変革に取り組んでいます。
既存領域は経験やノウハウで差分開発していましたが、新規領域はシステムの複雑化などにより、それではカバーできなくなっています。このため、既存領域はRFLP(要求・機能・論理・図面)型で、新規領域は要求を網羅的に分析して設計に反映するモデル・ベース・システムズ・エンジニアリング(MBSE)型でと、開発対象の新規性に応じて開発手法を使い分けています。
バッテリー電気自動車(BEV)開発は、ボディー領域にRFLP型を適用しています。例えばスライドドア開発では、立て付け剛性の性能予測モデルにより、開発工数を削減しました。ボンネットフードでは、3次元CAE(コンピューター利用解析)の結果を人工知能(AI)に学習させるサロゲートAIを活用しました。サロゲートAIにより、開発期間と工数削減を図れるため、今後はさまざまなCAEに適用したいと考えています。
パネルディスカッション
パネルディスカッションは、皆さまへのアンケート結果を受けて進めます。最初の質問では会場の約70%の方が業務改革に取り組んでいるとのことでした。続く質問で、業務改革の目的は「コスト低減による利益確保」と「新技術・新商品のリソース確保」が上位を占めました。ニッパツとHondaの場合はいかがでしたか。
工数低減などによるコスト低減が重要との認識でしたが、設計者のモチベーションを上げたいとの気持ちもありました。
当社はリソース確保でした。新しい領域にリソースを割くためには、既存領域の開発を効率化しなければならないというのが明確でした。
業務改革をうまく進められない場合の課題については、約75%の方が「プロジェクト体制の問題」と回答しています。
大山さんは困られたことはありましたか。
チームによって濃淡があったので、体制づくりは大変でしたね。
ニッパツの場合、業務改革はトップダウンとボトムアップのどちらでしたか。
当時の社長から課題解決の指示があったので、その意味ではトップダウンでしたが、実際にどう取り組むかといった指示はありませんでした。現場の声を聞いてテーマを決め、テーマごとにメンバーを集めたので、プロジェクトはボトムアップでしたね。
大久保さんはいかがですか。
当社は現場主導でエビデンスを集め、経営層に「だから、こうした方がいい」と提案すると、その実行を指示されるといった感じで、いわばミドルアップのパターンが多いですね。体制づくりでは、前向き2割、どちらでもない6割、後ろ向き2割といった状況になるので、やはり前向きな人材を確保するのが重要ですね。
実際にQCD(品質・コスト・納期)の効果がありましたかという質問では、コストが約50%を占め、納期、品質と続いています。
ある社長から「コストをかけずに、効率良く品質を向上するにはどうしたらいいか困っている」といった声を聞いたことがあります。
設計の場合、優秀な設計者の思考を突き詰めていくと、「自分はそこを考えていなかった」とか、「順番が逆だった」とかがよく分かります。何をしているのかを知ることは、とても参考になると思います。
限られた領域ですが、エキスパートの判断ロジックをモデル化し、新人に設計させたら、エキスパートと同じ精度、短時間で設計できました。ただ、人間の思考を分解し、構造化してモデル化するのは、なかなか大変な作業でした。
バーチャルエンジニアリングについての質問では、現状について「3DCAD(3次元コンピューター利用設計)を普及しているが、目立った活用はできてない」、課題について「設計以外の部署への連携や活用方法の浸透」という回答が首位でした。
両社は設計部門以外でどう活用されていますか。
最近、生産技術で3Dデータを使い出しました。設計部門以外でも3Dの良さが分かってきた感じがありますね。開発・設計から生産技術まで3DCADを使うことが正しいとは思わないし、否定するつもりもありませんが、それぞれの領域で3Dを活用する余地はあると思います。
ウエブサイトのカタログで、自動車を360度の方向から見られるといったことに使っています。3Dにすることで、やれることが増えると思います。
本日はありがとうございました。
(2024/11/25 00:00)