進化する積層造形技術 従来にない金型を実現

(2020/8/27 05:00)

業界展望台

金沢大学 設計製造技術研究所 教授 古本達明

金属AMと歩むこれからの金型製作

金属材料を用いた積層造形は、わが国の第5期科学技術基本計画で示された「超スマート社会」の構築に向けて、生産現場の革命を実現しうる技術と捉えられている。各産業分野で実用部品の造形事例が報告されているが、各種金型もまた本技術を生かせる分野である。製作時間の短縮のみならず、CADによる構造最適化法を用いた高機能化、造形条件を考慮した新しい機構の付与など、従来手法では得られない特徴的機能を有した金型が実現できる。

航空宇宙・医療で適用進む

  • 各種金属AMの特徴

3Dプリンターや付加製造法とも称される積層造形(アディティブ・マニュファクチャリング=AM)は、溶接や溶着と同じ付加加工に分類され、バルク材から切りくずを排出しながら立体形状を創成する除去加工とは、対極的な加工法である。

近年は、金属材料を対象とする造形装置の性能向上に併せて、航空宇宙や医療をはじめとした各分野で実用部品の製作が進んでいる。その中で、金属AMを用いた金型の造形品市場規模は、2030年に航空宇宙と医療分野を合算した造形品市場規模になるという予測も出され、AM技術の特徴を最大限に生かせる適用分野であると考えられている。

金属AMは材料の形態や供給方法、熱源などによって複数の手法に分類(表)され、それぞれ造形精度、造形速度、異種金属の使用可否などの特徴が異なっている。そのため、AMを金型製作へ適用する時、従来の製作手法と比較しながら形状、大きさ、使用環境に応じて適切なAM手法を選択する必要がある。

切削との複合で金型製作を効率化

主な金属AM法は、粉末床溶融結合法 (PBF)と指向性エネルギー堆積法(DED)である。PBFは粉末をプレート上に薄く堆積して選択的にエネルギー供給を行い、DEDはノズルからシールドガスとともに供給した粉末に対してエネルギーを供給する。それぞれ、切削加工と組み合わせた複合加工機が商用化されており、AM技術による金型製作に対する最大の貢献は、これらの複合化によるところが大きい。

PBFと切削の複合加工機では、10層程度の造形と得られた造形物表面の切削加工を交互に繰り返しながら金型を製作する。そのため、深いリブを有する金型も刃長の短い小径工具で加工でき、加工方法の制限による金型分割が必要ない。また、深リブ形状を得るための放電加工が不要となるため、製作期間やコストの削減につながる。さらに、造形プレートを金型の一部として使用できること、切削加工によって従来法と同等の造形物表面が得られることなどが相まって、設計・製作にかかる時間が60%程度短縮されたとの報告もある。

金型内の水管を自由に配置

  • 図1 離型材塗布気孔を付与した金型入れ子

一方、AMプロセスに起因した特徴として、金型内部に配置させる冷却用水管の自由設計や内部気孔を積極的に用いた通気性造形物の製作が挙げられる。従来法では、工具や加工法の制限により、最適な位置に水管が配置できない場合があったが、金属AMではこれらの制限がなく任意の位置に水管が配置できる。水管断面も任意に決定できるため、成形時の金型内部温度や冷却速度を考慮した水管配置の最適化手法も提案されている。

また、造形パラメーターの検討により造形物内部に気孔が形成できることは、PBFの最大の特徴である。ポーラス(多孔質)造形は、投入エネルギーが少ないため造形が速くなり、金型内部に配置して造形時間を短縮させることができる。この他、条件によってポーラス部に通気性が生じることがわかっており、成形時のガス抜き機構としての適用が提案されている。

本学が参画しているプロジェクトでは、ポーラス部をダイカスト鋳造時の離型材染み出し機構として採用することを検討し、高機能なダイカスト金型の製作(図1)に向けて取り組んでいる。

高精度化に向けた課題

  • 図2 金型内部水管の内面加工装置概要

このように、AMによる金型製作は従来法では実現できない多くの特徴があるが、高精度化に向けて課題を有していることも事実である。例えば、金型内部に配置させる水管内面は、複合加工機でも逆テーパー部を切削することができない。そこで、本学では水管内部に遊離砥粒(とりゅう)を流動させて内面性状を改善する装置(図2)を開発した。

油圧ポンプを用いて容器に充填した砥粒を押し出し、高圧・高速流動研磨の効果によって内面が加工できる。水管位置による加工のバラつきはあるが、未加工水管と比較して良好な金型冷却特性が得られている。また、AMによる水管設計では内面に突起が付与できるため、砥粒流れを変えて加工品質を改善する提案も行っている。

この他にも、AMプロセスに起因した残留応力の発生や粉末やプレート材質に起因した組織変化など、高精度化に向けてクリアしなければならない課題もある。また、金属AMの適用により全ての金型製作にメリットが出るわけではなく、代替可能な領域はまだ少ない。

しかしながら、各課題に対してプロセスやメカニズムを考慮しながら対応することで、金属AMによる金型製作のさらなる高精度化が実現できると考えている。金属AMは、モノづくりの流れを根底から変える革新的な技術であり、AM装置や粉末の開発が推進されて金型製作の適用領域が増えることを期待している。

(2020/8/27 05:00)

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