[ オピニオン ]

【電子版】デジタル編集部から(10)「ロボット・オブ・エブリシング」の時代

(2016/9/5 05:00)

お掃除ロボットやソフトバンクの「ペッパー」に代表されるように、ロボットがどんどん日常生活に入り込んでくるようになりました。介護現場で人の移動やリハビリを手伝ったり高齢者の相手をしたり、空港では音声認識機能を使って旅行客の案内をしたり荷物を運んだり…。さらに、2020年ごろには「走るロボット」の自動運転車が本格的に公道に登場すると見られています。それこそ、どこでも・何でも・ロボットの「ロボット・オブ・エブリシング」の時代をわれわれは迎えようとしているのでしょうか。

実は「ロボット・オブ・エブリシング」とは、自動運転車や自律型ドローン、台車型搬送ロボットなどを開発するロボットベンチャーのZMP(東京都文京区)が、ミッションとして掲げているフレーズ。「人が運転するあらゆる機械を自動化し、安全で楽しく便利なライフスタイルの創造」という意味が込められ、それを社長の谷口恒さんは「少子高齢化で人手不足という背景もあるし、人間が本来やるべきでないことをロボットに置き換えようというもの」と説明してくれました。

人間のアシスタントやパートナーとして、もっとも身近な存在になる可能性のあるロボットが、「ペッパー」やシャープの「ロボホン」でしょう。ペッパーの販売実績はすでに1万台を突破し、法人向けの「ペッパー・フォー・ビズ」も1000社を超える企業で活躍中。5月下旬に発売された「ロボホン」は、身振り手振りをしながら対話したり、歩いたり踊ったりできる世界初のモバイル型ロボット電話で、19万8000円(税抜き)という価格にもかかわらず、予約注文は1000台を超えているとのことです。

イノベーションやサブカルチャーに詳しい未来学者の川口盛之助さんによれば、とりわけ人型ロボットを歩いておしゃべりする携帯電話に変えてしまったロボホンのインパクトは大きいといいます。「スマホの最終形態とは(ゲゲゲの鬼太郎の)目玉おやじである、と言い続けてきた。その本質はナビゲートやコーチング、コンシェルジェ機能を持つポケットパートナーということ。ウェアラブル化してオーナーと一体化を目指すモノではなく、いわば信頼できる別人格でもあります。感情移入できるように、少し動ける生き物形態であることは必然でしょうね」(川口さん)と絶賛しています。ただ、「個性を持つことも同じくらい重要なので、カスタム化できるとさらにいい」と注文も付けていました。

ロボホンはもともと、ロボ・ガレージ社長でもあるロボットクリエイターの高橋智隆さんとシャープが共同で開発したもの。高橋さんにはかつて、日刊工業新聞社が2014年3月に開いたイベントで講演していただいたのですが、その中で「ポストスマートフォンはロボット。いずれはスマホに手足が付いて、人型ロボットがその役目を果たすようになる」と強調していたのを鮮明に憶えています。それどころか、その3カ月後にソフトバンクがクラウドにつながる家庭用人型ロボットの「ペッパー」を発表し、ソフトバンクの孫正義社長と高橋さんの考える方向が一致していたことに非常に驚きました。やはり、ビジョナリーと言われる人たちには同じような未来が見えているのでしょう。

さて、人間のアシスタントやパートナー、あるいは社会のインフラとしてロボットがどんどん普及していくのはいいとして、われわれ人間はどうなってしまうのでしょうか。「ロボット・オブ・エブリシング」の時代になったとしたら、のび太が未来ロボットのドラえもんを頼りきったように、人間が精神的に弱体化するような影響はないのでしょうか?

そんな疑問をZMPの谷口さんにぶつけると、「『エブリシング』の意味するところは、あくまで人間が運転する機械のこと。自動運転を使えば、介護タクシーのドライバーは運転ではなく、高齢者の介護に専念でき、一人しかいない離島の医師も運転ではなく診断に集中できる。これからは、単純な物事は機械に任せ、人にしかできないことを人がやる、人間本来の能力や良さを引き出すためにロボットが役立つ時代になりますよ」。

主役はロボットではなく、あくまで人間。「便利で楽しい」という側面に加え、人間としての自立、それにコミュニケーションや専門能力を陰ながら支援するツールとしても、ロボットが社会に受け入れられていくのかもしれません。(デジタル編集部長・藤元正)

(2016/9/5 05:00)

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