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深層断面/RoHS規制の脅威再び−パナソニック、7次サプライヤーの電気ケーブルまで管理できず

(2016/9/15 05:00)

日本の電機メーカーが再び、欧州特定有害物質規制(RoHS)の脅威にさらされている。RoHSが改正され、2019年7月から電子機器へのフタル酸エステルの使用が制限されるからだ。フタル酸エステルは電気コードやケーブルに使われている物質で、使用製品が多い。しかも海外調達に頼っており、06年に始まった鉛の規制よりも対応の難易度が高い。(編集委員・松木喬)

  • 電気コードやケーブルには可塑剤としてフタル酸エステルが使われている

  • 電機各社はRoHS改正への対応を急ぐ(パナソニック本社)

  • 電機各社はRoHS改正への対応を急ぐ(東芝本社)

■サプライヤー監査に限界

14年、パナソニックが納入品のフタル酸エステルの含有量を分析してみると、衝撃的な結果が出た。購入先から含有ゼロと伝えられていたホースに10万ppm(重量比10%)を超える濃度のフタル酸エステルが入っていた。含有の判明以上に、RoHSの規制値である1000ppmを大幅に超えていた事実に驚かされた。

ゼロと申告された他の部材でも含有が判明。逆に含有していると申告されたが、分析すると含有を確認できなかったコード類もあった。他にも申告と分析値との隔たりが次々に明らかになった。申告通りの部材も多いが、申告への信頼が揺らいだ。

パナソニックに部材を納入した取引先に原因があるわけではない。電子機器に搭載されるコードは5次、6次、7次のサプライヤーが製造者だ。含有情報は、サプライチェーンの上流側に位置する製造者から伝達されてくる。フタル酸エステルは規制物質ではないため、サプライチェーンの途中で検査されることなく、情報がそのまま届いていた。

日本の電機各社とも状況は同じ。06年施行のRoHSで規制された鉛は、プリント基板に使われる物質なので1次や2次サプライヤーが扱うことが多く、監査に出向いて製造現場を確認できた。5―7次だと監査はできない。しかもコードは汎用的な部材で海外調達が一般的となっており、サプライチェーンをさかのぼって製造元を突き止めることも困難だ。

改正RoHSで電子機器への使用が規制されるのはフタル酸エステル4物質。最大で1000ppm(重量比0・1%)までの含有しか認められず、事実上の使用禁止だ。

フタル酸エステルは樹脂を柔らかくする可塑剤として普通に使われている。パソコンやテレビの電源コード、製品内部の電気コードやケーブルが主な用途となっている。

【パナソニック/受け入れ検査実施】

パナソニックは6月末、改正RoHSへの対応方針を固めた。品質・環境本部製品法規課の川上哲司主幹は「今年がラストチャンスだった」と明かす。

同社はエアコンや冷蔵庫、テレビ、照明などコードを使う製品が多い。接着剤や塗料にもフタル酸エステルが含まれるため、日常的に扱う含有製品は種類、量とも膨大だ。海外へ伸びたサプライチェーンへの周知を考えると、早めに対応をしないと手遅れになる恐れがあった。

フタル酸エステルが入った製品の納入停止を18年7月に設定し、サプライヤーに呼びかけた。規制開始の1年前に停止しておかないと、含有製品が在庫となって存在し、規制後に出荷される可能性があるからだ。

「悩ましい」(川上主幹)のが、納入品の検査。フタル酸エステルは樹脂に混ざると判別が難しい。高度な分析装置なら調べられるが、装置の導入には費用がかかる。迷ったが「方針を出してほしい」という社内の声があり、17年度から必要に応じて分析装置を導入することにした。

【東芝/簡易評価法を開発】

東芝はもっと早く、17年1月にフタル酸エステル含有製品の調達をやめる。早めにフタル酸エステルの代替物質を評価し、代替可能かどうかを判断するためだ。RoHSでは技術的に代替が難しい製品があると、規制の適応を猶予する「適応除外」がある。18年1月の申請期限までに評価し、必要に応じて適応除外を求める。

代替物質はトリメリット酸系(TOTM)やアジピン酸系(DINA)など。コードは曲げ伸ばしを繰り返すため、耐久性など品質を見極めないと正式採用に踏み切れない。同社は対応方針を早く決めたおかげで、既に販売時点情報管理(POS)システム、オフィス複合機、テレビ、パソコンの一部機種で代替化が完了。それでも66製品群のうち、56製品群に対象製品がある。19年7月までに対象外の製品も含めて代替化する方針だ。同社環境推進室の池田理夫参事は「フタル酸エステルは有用な物質なので影響が大きい」と話す。

また、含有を検査する簡易スクリーニング手法も開発する。高度な分析装置を使わずに確認できるという。納入品の全数検査ではなく、材料の切り替え時などに絞って簡易スクリーニングをする方向だ。池田参事は「非含有の担保は難しい。どこまでデューデリジェンス(リスクの洗い出し)をするのか悩ましい」と打ち明ける。

■納入禁止・代替化を前倒し

富士通は6月末、フタル酸エステル4物質の使用を回答してもらう調査票を作成し、取引先に配布した。含有製品の調達禁止は19年1月だが、前倒しで代替化していく。同社環境本部の永宮卓也氏は「長いサプライチェーンのことも考え、早めに動きだした」と話す。

ソニーは18年4月から納入を禁止する。NECは原則18年7月からの納入をやめる。三菱電機は18年末までに購入品の代替化を完了させる予定だ。日立製作所は19年1月にグリーン調達基準を見直し、グループ各社が取引先に使用禁止を求める。

欧州連合(EU)の緊急情報システム「RAPEX」のウェブサイトに化学物質規制違反の摘発情報が掲載されている。

パナソニックによると1300件以上の摘発があった。ここ数年、日本企業の摘発例はないが、加盟国は常に目を光らせている。もし摘発されるとリコールに発展し、回収費用が発生する。最悪だと市場から閉めだされる。

RoHSが施行された06年当時と違い、海外調達が増えた現在は、サプライチェーンの上流側の企業との関係が希薄になった。その分、製品へのフタル酸エステルの混入リスクが高まる。対応のために、サプライチェーンの見直しも迫られそうだ。

(2016/9/15 05:00)

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