[ 機械 ]

【別刷特集】迅速試作を支援するCAMソフトウエア技術

(2016/12/13 11:00)

 コンピューター利用製造(CAM)や機械シミュレーションなど、機械加工を支援するためのソフトウエア技術は成熟期を迎えており、今後は各ソフトウエアベンダーから提案される独自の機能による差別化が進むものと思われる。さらに付加価値の高い機械加工を実現するためには、現場のニーズに真摯(しんし)に対応したCAMソフトウエアの機能の拡充が不可欠である。

◇電気通信大学大学院 情報理工学研究科 准教授 森重 功一

工具と工作物の干渉を考慮

  • 図1 同時5軸制御によるクローズドインペラの加工

近年、国内の製造業においては、大量生産による仕事が中国や韓国、東南アジア諸国などに流出する中、試作に関わる仕事の比率が高まりつつある。ラピッドプロトタイピング(RP)の一手法として積層造形法が実用化され、現在では「3Dプリンター」として広く普及しつつある。

 しかしながら現行の3Dプリンターは、樹脂や金属などの材料の制約や、加工方法に起因する問題などから、精度や強度などの機械的な性能が製品と同等の試作品を、低コストかつ迅速に提供することは難しい。そのため、製品と同じ材料を高精度に加工することができる切削によるRP技術の整備が重要になると思われる。

 複雑な形状を効率よく加工するための手段として、図1に示すような5軸制御加工が普及している。5軸制御加工の場合、機械の複雑な動きを実現するために、CAMソフトウエアを利用して作成した数値制御(NC)プログラムを事前に用意することになるが、作業者が意図する加工動作を反映したNCプログラムを作成するためには、多くの知識と時間が必要となる。

 最近では、加工そのものにかかるコストよりも、NCプログラムの作成にかかるコストの方が問題となりつつある。特に、試作品のような一品ものを加工する場合など、一度しか使用しないNCプログラムの作成に時間を要するのは好ましいことではない。

 5軸制御加工においては、ホルダーや主軸を含んだ工具側と、治具やテーブルを含んだ工作物側の干渉を考慮する必要がある。現在市販されている5軸制御加工用CAMソフトウエアは、工具、ホルダー、工作物の干渉を回避する機能を提供しているものが標準となりつつある。

処理の並列化と高速化の流れへ

  • 図2 機械シミュレーションによる構造干渉の検証

 今後の課題としては、主軸やテーブルなどの機械構造に対する干渉への対応があげられる。現在は、図2に示すように、用意したNCプログラムによって工作機械がどのような運動をするか確認することができる機械シミュレーション・ソフトウエアが提供されており、機械構造に対する干渉の有無を事前に確認して、それを確実に回避することが可能となった。

 しかしながら、機械構造の干渉が判明しても、それを回避するようにNCプログラムを修正することは難しい。機械構造干渉の有無を考慮しながらNCプログラムを作成できる機能の開発が望まれる。

 NCプログラムが出力されるまでの計算時間の短縮も重要な課題である。5軸制御加工用CAMソフトウエアは、3軸制御加工と比較してデータ量が多い上に、頻繁に行われる干渉チェックなどの処理では、STL形式などの離散的な形状データを用いているため、大量のメモリーと膨大な計算量が必要となる。

 今後のCAMソフトウエアにおいては、マルチコアCPUやGPU(Graphics Processing Unit)などを利用した処理の並列化および高速化への流れは必然であるといえよう。

 CAMソフトウエアに関しては、工程・作業設計におけるコストの削減に直結する課題が数多く残されており、関係するソフトウエアベンダーおよび研究者のさらなる尽力が不可欠である。

 今後、多軸・複合加工技術と連携したソフトウエア技術の進化によって、付加価値の高い加工技術が開発され、それの技術を利用した高付価値製品が創出されるなど、日本の製造業の活性化につながることを期待したい。

【11/16付本紙別刷「JIMTOF2016特集」より】

(2016/12/13 11:00)

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