[ 機械 ]
(2016/12/22 10:30)
現在のモノづくり産業の分野では、複雑な形状を短時間で仕上げるといった高い生産性が求められている。一方、実際の加工現場では熟練した作業者が減少し、経験が少なく加工に不慣れな初心者が作業を行うことが増えている。それらを踏まえて、加工現場の安全作業について考えてみたい。
◇海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所(環境・動力系) 平田 宏一
作業者のけが防止へ 長そで・長ズボン必須
旋盤は主に円柱や円筒形状の工作物を加工する機械であり、機械加工の最初の工程から仕上げの工程に至るまで、多くの加工現場で使われている。旋盤加工はフライス加工などと比べて加工量が大きく、加工速度が速いといった特徴がある。
加工現場における安全作業とは(1)作業者本人あるいは周囲の人へのけがの防止(2)工作機械や工具の破損防止(3)工作物の破損防止―などを考えることである。人的被害をなくすために最善をつくすことはもちろん、工作機械や工具、工作物への被害をなくすことも考えておく必要がある。
旋盤には刃物の移動を手動で操作する汎用旋盤と、コンピューター制御による自動運転ができる数値制御(NC)旋盤とがある。これらに共通した主な安全対策は次の通りである。
(1)長そで・長ズボンは必須で、そで口や上着のすそが機械や工具に巻き込まれないようにする。加工時の軍手の着用は厳禁である。
(2)工作物の取り付けや工具の交換など加工前の段取り工程では、指先のけがや重量物の落下事故に注意する。
(3)加工後、切りくずの掃除をする際、指先のけがに気を付ける。また高圧空気で工作物の切りくずを吹き飛ばす場合などは、切りくずが顔や目に当たらないように気を付ける。
家電製品と異なり危険の認識が重要
汎用旋盤の加工では立ち位置を確認
汎用旋盤は部品の量産には適していないが、加工の自由度が高く、高い技能があれば高精度の部品を加工することができる。ただ、汎用旋盤は回転している工作物の目の前で作業をするので人的被害の危険性が高い。汎用旋盤で加工する際の安全作業の基本は、切りくずが飛んでくる位置に立たないこと、加工している刃物に顔を近づけないことである。
NC旋盤では工作物の固定と切りくずの処理に注意
NC旋盤は工作物の固定やプログラミングなどの段取りが終わってからの操作であれば、初心者でも比較的簡単に扱うことができる。また通常、NC旋盤の加工は保護扉の中で行われるため、加工中に切りくずや工作物が作業者の方に飛んでくることはほとんどなく、人的被害の危険性はかなり低い。しかし扱い方を間違えれば大事故につながることを忘れてはいけない。NC旋盤の主な安全対策は次の通りである。
(1)NC旋盤では工作物の固定に油圧チャックが使われることが多い。油圧チャックは把握力がわかりにくいので、加工中に工作物が外れないように注意する。
(2)自動運転をしていると多量の切りくずを工作物やチャックに巻き込んでしまうことがある。適切に切りくずの処理をしないと、工作物や工具を破損させてしまう。
(3)運転前にNCプログラムが間違えていないことを入念に確認する。例えば、座標の数値や方向を間違えたり工作物が回っていないのに刃物を工作物に当てたりすることは、NC工作機械の特有のミスである。
危険を想像することが安全への第一歩
工作機械は掃除機や洗濯機などの家電機械とは異なり、誰もが安全に使える機械ではない。自動車の運転と同様、操作する人間の心がけ次第で安全運転もできれば危険な運転もできてしまう。
鉄を削るための工作機械が人の皮膚や肉を削り取れることは容易に想像できる。危険な行為を危険であると認識していることが重要である。
【11/16付本紙別刷「JIMTOF2016特集」より】
(2016/12/22 10:30)