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深層断面/東芝、米原発で数千億円の特損−メモリー事業の分社・上場論も

(2016/12/28 05:00)

東芝の経営再建が暗礁に乗り上げている。米国の原子力発電設備事業に関連して数千億円規模の減損損失を計上する可能性があると27日発表した。19日には東京証券取引所から特設注意市場銘柄の指定期間延長の決定を受けたばかり。市場からの資金調達が事実上できない状態が続いており、財務健全化への道は遠い。悪影響は半導体メモリー事業にも広がる。設備投資を継続できなければ競争力を失いかねない。(後藤信之、政年佐貴恵、梶原洵子)

  • 会見する(右から)綱川社長、平田政善代表執行役専務、畠澤守執行役常務

  • 東芝本社ビル(奥)。半導体とエネルギーが事実上の柱

■新興国軸に新機受注狙うも…/原発市場に漂う不透明感

「原発事業の社内での位置付けについて現時点で変更は考えていないが、必要に応じて見直すこともあり得る」―。27日会見した綱川智東芝社長は厳しい表情で語った。

東芝は原発関連のグループ会社である米CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)ののれんについて、2017年3月期連結決算業績で数千億円の減損損失を計上する可能性があることを明らかにした。

原因はプロジェクトにかかるコストの大幅な増加。「物量、現場作業員の効率、現場作業員と管理者の比率に大きな差が生じた」と畠澤守執行役常務は説明した。

東芝は不適切会計問題の発覚を契機に構造改革を実施し、半導体、エネルギー、インフラの3分野に集中して経営再建に取り組む方針を示した。インフラ分野はまだ収益性が低く、残りの2分野が事実上の柱だ。

エネルギー分野では原発事業に注力し、新興国を中心に新規受注の獲得を狙う戦略を掲げる。同分野全体で18年度に売上高1兆9300億円(15年度比21・8%増)、営業利益750億円(15年度は3463億円の赤字)に引き上げる目標だ。

ただ世界の原発市場は不透明感が漂う。一つはS&Wの減損リスクの要因にもなったコストだ。モノづくりや設計で安全対策コストが増加している。ベトナムでは資金難などを理由に新設計画が白紙になった。

また原発設備メーカーの競争も激化しており、海外では中国、韓国、ロシアの企業が攻勢を強めている。また原発は事故や故障などの際に生じるコストが膨大で、ハイリスクのビジネスといえる。

東芝の原発設備事業を巡っては16年3月期決算でも米原発子会社のウエスチングハウス(WH)本体で約2600億円の損失を計上した。東芝の格付け低下に伴い資金調達のコストが上がり、収益が圧迫されていることが理由で事業性には問題なしと説明していた。それにも関わらず、今回、原発関連で追加損失を迫られた格好で、事業性そのものにも疑問符が付く。

今後の原発設備事業の収益性について綱川社長は「必要に応じて見直しはある」と述べるにとどめたが、東芝の経営再建の柱として原発事業の存在感は薄れている。

■東芝会見/影響額、現地で精査中

―東芝が債務超過に至る可能性はあるか。

平田政善代表執行役専務 現在、影響額を現地で精査している。今、回答できる状況ではない。

―損失計上は最大でいくらか。

綱川智社長 精査中だ。

―資本政策の必要性は。

綱川社長 それも含めて検討していく。

―綱川社長がこれをリスクと認識したのはいつだったか。

綱川社長 報告を受けたのは12月中旬。至急分析し、開示が適切だと認識した。ただ、(報告までの)チェックは遅かったと思う。

―特設注意市場銘柄である状況で、米CB&Iストーン・アンド・ウェブスターの買収を実施した判断は正しかったのか。

綱川社長 このほど同銘柄の指定継続の決定を受けたことは、重く受け止めている。買収は15年10月に決断し、12月に完了した。リスクを上回るメリットがあり、適正な判断だった。現在は財務基盤が脆弱なため、新たな買収は考えられない。

―経営責任は。

綱川社長 責任を痛感している。現在は、この件に真摯にあたっていく。

■稼ぎ頭の半導体/揺らぐ財務基盤、投資にリスク-メモリーは分社・上場も

  • 7月に完成した東芝四日市工場(三重県四日市市)の新棟

原発設備事業での巨額損失は、好調な半導体事業の先行きも曇らせそうだ。半導体事業は主力のメモリーが好調で、17年3月期の業績予想を上期で3回、通期で1回、上方修正した際の立役者だ。

最大市場であるスマートフォンの大容量化や、クラウド利用の増加によるデータセンター向け、フィンテック(金融とITの融合)など新分野の伸長が、メモリー需要を押し上げている。好調な環境は17年度上期までは続く見通しで、「賭ければ勝利が確実な市場」(半導体装置メーカー首脳)との声がある。

一方、両翼の片方であるはずの原子力事業は、これまでと今回の相次ぐ減損で、経営の柱たりえない状況が鮮明になった。16年4―9月期の全社の営業利益率が3・7%なのに対し、半導体事業の利益率は9・8%。半導体の利益が全社の底上げに使われているのが実情だ。東芝幹部は「好調なメモリー事業は今や東芝の中心になっている」と漏らす。

東芝はNAND型フラッシュメモリー市場で、韓国サムスン電子に次ぐ2位につけている。両社は現在、大容量化など性能向上が可能な3次元構造NAND(3DNAND)で設備投資を加速しており、手を抜けばシェア争いに敗れてしまう。

東芝は生産面で協業する米ウエスタンデジタルとの合計で、18年までに約1兆4000億円を投資する計画を打ち出した。しかし東芝本体の財務が脆弱(ぜいじゃく)な今、原発設備事業がより悪化すれば、投資もままならない状況に陥るだろう。そこで現実味を帯びるのが、メモリー事業の分社、上場論だ。とはいえ稼ぎ頭が抜けてしまえば、東芝本体が存続できない。分社して半導体メモリー市場で勝ち抜く道を取るのか、東芝の稼ぎ頭として残るのか。判断の日は近い。

(2016/12/28 05:00)

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