[ 自動車・輸送機 ]

トヨタ・ホンダ、“自前主義”脱却−自動運転開発にオープン化の新潮流

(2017/1/1 05:00)

  • トヨタネクスト発表会での村上トヨタ常務役員(中央)

トヨタ自動車とホンダがオープンイノベーションを強化している。トヨタはサービスの共同開発先の公募をはじめ、ホンダは都内に研究拠点の開設し、シリコンバレーではベンチャーが開発しやすい環境を整える。自動運転やつながる車などの新分野の台頭でオープンイノベーションが求められているのは車業界に共通した事情。だがとりわけ自前色の強いトヨタとホンダのオープン化からは業界に押し寄せる変化の大きさが垣間見える。(池田勝敏、名古屋・伊藤研二)

■トヨタ、共同開発先を公募

【強い危機感】

トヨタ自動車は国内での新たなモビリティーサービス開発に向けオープンイノベーションプログラムを始める。これまで自社ですべてを賄おうとする「自前主義」へのこだわりが強かったトヨタが、外部の企業や研究機関などにアイデアを求める。背景には自動車産業が激変する中、トヨタは自前だけでは生き残っていけないとの強い危機感がある。

「トヨタが80年間続けてきたビジネスモデルだけでは、もはや通用しない時代に突入しつつある」。2016年12月、オープンイノベーションプログラム「トヨタネクスト」の発表会で村上秀一常務役員は、こう強調した。

自動運転、電動化、つながる車などの進展によって、自動車産業は100年に一度とも言われる大転換期を迎えようとしている。トヨタは自らのビジネスモデルを変革しなければ、そうした社会の変化に追随できなくなるとの危機意識を抱く。

これまで自前で開発し提供してきた国内のサービスについても「お客さま目線で開発できていないサービスや、世の中の変化に柔軟に対応できていないサービスがあった」(村上常務役員)。トヨタは真に求められる新しい発想のサービスを、スピード感を持って創出するため外部の力が不可欠と考えた。

【当たり前を覆す】

高齢者らの事故低減や車の利用促進などをテーマにアイデアを募る。企業の規模の大小は問わず「トヨタが持っている自動車業界の当たり前みたいなものを覆してやるといった気概を持った方と一緒に仕事をしたい」(浦出高史デジタルマーケティング部長)と呼びかけた。トヨタはつながる車から取得するビッグデータや国内約5200店の販売店網などの資産を提供し、選定した企業と共同で新サービスを創出する。

サービスだけではない。「外部のいろいろな方々から学ばせていただきたい」(村上常務役員)と協業を通じて自社の仕事の進め方変革を図る。村上常務役員は「デジタル化社会などの流れから見ると、トヨタという会社はアベレージ以下」との認識を示す。外部のパートナーと新サービスを開発する過程でそのパートナーの仕事のスピード感などを学び、大企業病に陥りつつあるトヨタ自身の変革にもつなげる考えだ。

  • 車内で決済できるシステムをビザと共同開発

■ホンダ、完全自動運転・AIで連携

【都内に拠点】

ホンダも最近、オープンイノベーションを打ち出している。先月は米グーグルと完全自動運転の公道試験を一緒に進めると発表。昨夏には車が感情を持って運転者と会話する人工知能(AI)の研究をソフトバンクと始めたとも発表した。ソフトバンクの説明会で松本宜之ホンダ専務執行役員は「オープンイノベーションをさらに強化する」と強調。AI研究強化に向け人材を確保しやすい都内にオープンイノベーション拠点を開設する計画。

イノベーションの聖地シリコンバレーの拠点では成果が出始めている。ホンダシリコンバレーラボ(HSVL)の杉本直樹シニアプログラムダイレクターが「車を決済端末にしてしまおうという発想から始まった」というのはビザとのコラボ。車で買い物ができるシステムだ。有効なシーンは例えばファストフードのドライブスルーだという。米国では時間帯によっては行列ができる。「機会損失を減らすために走っている最中に注文して支払いも済ませてしまう。並ぶ必要もない」(同)。

アプリ開発ベンチャーと組んでスマホ本体をダッシュボードに簡単にはめ込んだり外したりでき、ハンドルにあるボタンで操作できるシステムも開発中だ。スマホは持っているが車に極力お金を掛けたくない客層に訴求できるという。いずれも市販化の検討中だ。

スマホと車の連携と言えば、車載モニターを通してスマホが使える米アップルの車載ソフト「カープレイ」やグーグルの同「アンドロイド・オート」がすでに商品化されており、ホンダだけでなく各ブランドで採用が広がっている。杉本氏はプロジェクトの初期段階から参画しており「商品の魅力向上につながっている」(同)という。

【スピードが勝負】

HSVLでは協業先のベンチャーに、試作費用やテスト車両、ホンダ開発者の経験を提供しアイデアを早期に実現しやすい環境を整える。「スピードが勝負。ベンチャーが自由に商売につなげられるような環境にしないといけない」(同)という。「いつまでも全部自前で生きて行けない」とはホンダ幹部。独自路線を歩んできたホンダもオープンイノベーションを重視する姿勢を鮮明にしている。

だがオープンイノベーションは10年以上前からIT分野で先行していて車業界でも今に始まった潮流ではない。周囲のオープン化をよそにトヨタとホンダは「系列という垂直統合モデルで成功してきた異質な存在だ。だが弱い分野は異業種の力を借りざるを得ない」と指摘するのはサプライチェーンやイノベーションに詳しい立命館大学の佐伯靖雄准教授。

自前色の強い両社でさえオープン化を余儀なくされるほど自動車業界は変革を迫られている。

(2017/1/1 05:00)

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