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深層断面/JR民営化30周年−7社が描く「鉄道の未来」

(2017/3/17 05:00)

JRグループは4月に国鉄分割民営化から30周年を迎える。JR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州、JR貨物は、民営化の際に与えられた車両やネットワーク、サービスを磨きながら事業規模を拡大。それぞれの個性を発揮している。一方、JR北海道やJR四国など、沿線の人口減少などから、厳しい経営環境の中でなかなか自立できない会社もあり、路線の維持に向けた支援体制の構築なども課題となっている。(高屋優理)

  • 輸送力と高速走行、グランクラスの快適さを両立させたE5系

■高速鉄道のネットワーク−個性を発揮、事業拡大

国鉄時代に開業した新幹線は東海道、山陽、東北(盛岡まで)、上越の4路線だったが、分割民営化後、開発が加速し、九州や北海道にも延伸した。今や高速鉄道のネットワークは全国に張り巡らされている。2022年には九州新幹線の長崎ルート、23年には北陸新幹線が敦賀まで、31年には北海道新幹線が札幌まで延伸する計画だ。

JR東海の柘植康英社長は「屋台骨の東海道新幹線を磨き上げてきた」と、30年を振り返る。東海道新幹線は1964年の開業当初、1日当たりの運行本数は60本程度だったが、民営化後、JR東海が車両や地上設備など技術革新を進め、現在は1日約358本と約6倍に拡大している。20年には新型車両「N700S」を導入。13年に運行を始めた現在の最新車両「N700A」以来、約7年ぶりの新型車両投入となる。

新幹線のネットワークに加え、27年には東京・品川―名古屋間で、リニア中央新幹線が開業する。難工事が想定される品川駅、名古屋駅、南アルプストンネルは、すでに着工しており、「リニアの開業を確実に実現し、さらに飛躍する」(柘植社長)と意気込む。リニア中央新幹線は今後のJR東海の行く末も左右する、大事業となる。

リニア中央新幹線は当初、27年の開業から8年後に名古屋―大阪間を着工し、45年に開業する計画だったが、関西の経済界をはじめとした早期開業の強い要望を反映し、工事の前倒しが決定した。政府から財政投融資を活用し、JR東海の財政負担を軽減して着工までの空白期間を短縮。開業は30年代後半になるとみられる。

観光庁の田村明比古長官は「30年前に大がかりな改革をせずに来たら、日本の鉄道システムは衰退していた恐れがある。国鉄民営化によって今日の鉄道ネットワークがある」と話す。

■海外展開−高速・都市鉄道計画進む

安倍晋三首相とインドのモディ首相は15年12月に、ムンバイ―アーメダバード間の高速鉄道計画において、日本の新幹線方式を採用し、23年に開業することで合意した。16年11月には、すぐに設計に入り、18年に着工することも決定。このプロジェクトには、JR東日本がグループの日本コンサルタンツを通じて参画しており、同社が設計を手がけている。JR東日本は今後、開業後の運行支援などで、参画を想定している。

  • 海外展開はインフラ輸出の期待を担っている

JR東日本の冨田哲郎社長は「社員が活躍できるフィールドを広げたい」としており、海外事業の展開は高速鉄道に限らず、都市鉄道でも進んでいる。JR東日本は16年8月に開業したタイ・バンコクの都市鉄道「パープルライン」のプロジェクトに参画。車両を供給したほか、メンテナンスなども手がける。都市鉄道では、JR西日本がブラジルのプロジェクトに参画。JR西日本の来島達夫社長は「海外を含めた新たな事業展開を検討する」と今後のさらなる進出に意欲的だ。

このほか、JR東海が米国で海外事業を展開。テキサス州のダラス―ヒューストン間の高速鉄道計画について、現地法人を設立し、技術支援などを進めている。また、米国ではリニアをワシントン―ボストン間の「北東回廊」へ導入することを目指している。

■観光列車−外観・内装とも贅尽くす

17年は豪華観光列車の運行ラッシュ。5月にはJR東日本が「トランスイート四季島」、6月にはJR西日本が「瑞風」の運行を始める。両社ともに、企画から運行開始まで3年以上をかけ、外観、内装ともに贅(ぜい)を尽くした列車となっており、料金は1人100万円以上するコースもある。JR東日本の冨田社長は「乗ることが目的の列車を作ることで、新たな需要を掘り起こしたい」と話す。

  • ななつ星の成功が豪華列車競争に火を付けた

こうした観光列車の火付け役は、JR九州だ。JR九州は「D&S(デザイン&ストーリー)列車」と称して、人口減少で厳しい経営環境にある路線に趣向を凝らした列車を次々と走らせ、鉄道事業を活性化。路線網の維持につなげている。

その集大成が13年に運行を始めた「ななつ星in九州」だ。ななつ星は1泊2日で25万円を超える価格帯や、工業デザイナーの水戸岡鋭治氏による車両のデザインなど、話題を集め、予約倍率は最高で37倍と、人気を博している。観光列車は収益に直結するものではないが、JR九州のブランド力を上げ、上場の原動力にもなった。 JR九州の青柳俊彦社長は「JR東日本やJR西日本も豪華列車を走らせるが、お客さまの獲得には自信がある」と先駆者としての意地をみせる。

■課題−北海道・四国、経営厳しく

JR北海道は16年3月に北海道新幹線を開業する一方で、16年11月に単独での維持が困難な赤字路線として、10路線13区間を公表。3区間は廃止を前提とし、8区間は路線維持について、沿線の自治体と協議に入る方針を示した。

  • 温暖化ガスを抑制し、ドライバー不足にも対応する21世紀型ビジネスを担えるか

島田修社長は「19年度末ごろまでに自治体と一定の合意形成ができるよう努力したい」としている。全路線の約半分が対象となっており、JR北海道の窮状を物語る。JR四国も民営化の際に設置した経営安定基金の運用益に依存しており、厳しい経営状況は同じだ。

一方、間もなく出口が見えそうなのはJR貨物。トラックのドライバー不足などを背景に、トラック輸送から鉄道輸送に切り替えるモーダルシフトを推進し、17年3月期は発足以来初めてとなる、鉄道事業の黒字化を見込む。田村修二社長は「何がなんでも黒字化する」と自信をみせる。JR貨物では18年度をめどに経常利益100億円(15年度59億円)を達成し、上場を目指す。

(2017/3/17 05:00)

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