[ 科学技術・大学 ]

東大・東北大など、アルツハイマー病・ALSの研究成果相次ぐ 創薬開発に期待

(2017/5/26 05:00)

  • 疾患モデルマーモセットの頭部MRIでみられた第4脳室(矢印)の拡大。患者の頭部MRIでは、小脳やその周囲の脳部位の萎縮を反映して、第4脳室の拡大がみられる(精神・神経医療研究センター提供)

高齢化社会の進展により、アルツハイマー病や全身の筋肉が衰える筋萎縮性側索硬化症(ALS)など、加齢と関係の深い神経変性疾患の患者数の増加が問題になっている。大学などの研究機関は、疾患の原因解明や治療法の開発に向け、東京大学や東北大学などが研究成果を相次いで報告している。こうした取り組みが疾患の研究を加速させ、原因解明や創薬、治療法確立を後押しする。科学技術イノベーションによる解決が期待される。(安川結野)

【患者増加の一途】

神経変性疾患は、神経細胞の機能に障害が生じて認知機能や運動機能が低下する疾患。高齢化の進む先進国ではさらに患者数が増えると予測される。患者本人の問題だけにとどまらず、ケアする家族や医療費の増大など、広範囲に及ぶ社会的負担を生み出す。

【G7共通課題に】

5月26、27の両日、イタリア・タオルミナで開催のG7サミット(主要国首脳会議)に先立ち、日本学術会議は政府に各国の学術会議の共同声明を提出した。その中には、同疾患の課題が盛り込まれており、予防や治療法の開発に向け、各国に「研究の方向性を支援し奨励する」ように求めた。同疾患は、高齢化社会に直面する世界共通の問題であり、解決に向けた取り組みが求められる。

3月に国立精神・神経医療研究センターの研究チームは、歩行時のふらつきなどの症状が出る脊髄小脳変性症を再現したモデル動物を、マウスよりヒトに近い小型霊長類「コモンマーモセット」で作ることに成功したと発表。

この技術を発展させると、「アルツハイマー病など他の神経変性疾患モデルもマーモセットで作れる可能性がある」(同センター神経研究所・モデル動物開発研究部の関和彦部長)。霊長類を使った研究が進めば、疾患の病態解明や治療法開発につながる可能性がある。

5月には東北大学の研究チームが細胞内で作られた異常たんぱく質を解きほぐし、分解を促進するメカニズムの解明を公表した。同疾患は細胞内に異常たんぱく質が蓄積し起きることが知られるが、同大多元物質科学研究所の稲葉謙次教授は、「蓄積する異常たんぱく質の構造解析が進む可能性がある」と期待する。

【新たな治療戦略】

5月には東京大学の研究チームが、運動機能の低下などを起こすALSが、運動神経と骨格筋の接合部を増強する治療で病態が改善し、延命効果があることをマウスの実験で明らかにした。運動神経と骨格筋接合部増強という新しい治療戦略が見込まれる。

疾患の原因解明に関する研究が進むとともに、治療法確立につながる可能性のある成果も着実に出てきている。

前臨床試験の環境も整いつつあり、今後、飛躍的に課題解決が進むかもしれない。

(2017/5/26 05:00)

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