[ 機械 ]

工作機械産業 発達史-絶えざる高度化で世界トップレベルに(下)

(2017/6/30 12:30)

  • 初期のNC立てフライス盤(1973年製、牧野フライス製作所、NC装置はファナック)

 わが国の製造業は世界トップレベルを維持しているが、新興工業国の追い上げも厳しく、常に新発想に基づく高品質で高付加価値の工業製品を他国に先がけて作り、適切な価格で提供することが必要である。そのためには生産技術、特に工作機械の絶えざる高度化と、継続的人材育成が必須である。ここでは工作機械の歴史と工作機械産業の発展について、筆者勤務の博物館が保存展示している、製造業発展に貢献した歴史的価値ある工作機械のいくつかを紹介しつつ解説する。

【日本工業大学 理事 工業技術博物館長 松野 健一】

→工作機械産業 発達史-絶えざる高度化で世界トップレベルに(上)

政府の工作機械支援策と技術提携

 第二次世界大戦終結後の復興期は、外貨不足の中で欧米諸国からの各種機械の輸入で乗り越えた。しかしながら、国産工作機械が欧米機に大きく遅れていることを認識した政府は、1950年代に国産工作機械の技術水準向上を緊急課題として支援を決定。機械工業振興策を工作機械産業にも適用して、海外機の性能検査・分析、試作補助金の拠出などを行った。また、51年に設立された業界団体である日本工作機械工業会も欧米に視察団を派遣して、数多くのメーカーの最新技術情報の収集に努めた。

 さらに、国内メーカー各社は50―70年代に欧米メーカーとの技術提携(実際は技術導入)を盛んに(合計115件の提携を実施)行って、先進技術を吸収した工作機械の開発に取り組んだ。52―76年に提携した106件の提携先企業の国籍は、米国46件、フランス25件、旧西ドイツ18件、スイス10件、その他7件で、提携国内メーカーは50社以上、商社は数社にのぼった。その結果、わが国の工作機械の技術レベルは次第に向上し、自社の独創性を加えた機械も出現するようになった。

独自に発達した放電加工機

 このように、輸入に始まり技術提携で成長したわが国の工作機械産業であるが、放電加工機だけは欧米とほぼ同時期に実用開発が行われた。54年には最初の型彫り放電加工機の実用機が製造された。翌年にはプレス金型への適用が実証されてロット生産が始まり、販売台数が急増した。57年には改良機種が米国航空機製造会社への輸出第1号に決定し、新聞で大ニュースとなった。欧州で64年に開発されたワイヤ放電加工機にもすぐに取り組み、わが国における両放電加工機の普及率は現在、世界トップともいわれている。

NC技術への取り組みで急成長

 52年に米国のマサチューセッツ工科大学が開発した工作機械への数値制御(NC)技術の適用に、わが国はただちに産学官で積極的に取り組んだ。その結果、56年には国内最初のNC装置、58年にはNCフライス盤が開発され、70年代後半になると日本製のNC装置付き工作機械の性能が世界市場で高く評価されるようになった。

 その後、コンピューター数値制御(CNC)装置付きへと進展し、82年には米国を抜いてついに工作機械生産額が世界一位に達し、以降2008年まで実に27年間維持し続けた。リーマン・ショックの影響で09年には中国、ドイツに次ぐ3位に落ちたが、すぐに復調して現在も2位を維持しており、技術面では長年世界トップレベルを維持している。

  • 大正から昭和まで東京・葛飾にあった工場設備を博物館内に移転

◆工業技術博物館

 日本工業大学の工業技術博物館は、1987年度に生産技術の重要性・面白さを啓蒙するために開設された。無料公開している当博物館は、製造業で長年活躍した貴重な生産機械など、特に各種工作機械を250台以上収集し、機種別・年代順に展示している。

 国の登録有形文化財や近代化産業遺産となっている機種も多く、その約7割を動態展示している。工場形式の展示もあることが他国にもない大きな特徴である。年間来館者数は約9000人に達しており、工業高校の生徒や大学工学部学生の見学、製造業の新人研修などにも活用されている。読者の方々もぜひ、一度ご来館いただきたいと思っている。

日本工業大学工業技術博物館(埼玉県宮代町)

休館日/日・祝、8月中旬-下旬、年末年始 入館無料

(0480・33・7545)

(2017年3月15日 日刊工業新聞第2部「工作機械産業」特集より)

→ MF-Tokyo2017特集

(2017/6/30 12:30)

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