[ 機械 ]

【型技術】開発ものがたり/電池用外装缶の画期的な製造技術-独自のダブルプレスで生産性を向上

(2017/7/7 13:30)

  • ダブルプレスの金型。前後2列に並んでいる

 第一金属工業㈱(横浜市中区、045-623-6700)は、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池、アルカリ電池などの金属外装缶のメーカーである。電池の外装缶を専門に製造するのは国内に数社しかなく、なかでも同社の斬新な金型製作、プレス加工は業界内外から注目されている。主要取引先はFDKエナジー㈱、古河電池㈱など。国内生産だけでなく、海外にもプラント(主に金型とプレス機械)を輸出している。

【森野 進】

外装缶専門のメーカーへ

 創業は1950年。第一金属工業所として横浜市中区小港町で乾電池用メタルトップ(電池の蓋部分)のプレス加工を始めた。創業者の宮本宗宣氏が川崎市で営んでいた商売を通じて、東芝の取引会社から声をかけられたのがきっかけだった。53年に法人化し、58年に現在の社名になった。

 電池の需要拡大とともにメタルトップの加工から電池用金属ケース(外装缶)にも事業を拡大。71年には工場が手狭になり、現在の中区かもめ町に本社工場を移転し、業務内容を付加価値の高い外装缶の量産加工に一本化した。77年からは外装缶製造プラントの輸出に乗り出し、現在までにフランス、中国、台湾、香港、インドネシアなどに40数セットを輸出している。

差厚缶の製造技術で特許を取得

 電池の外装缶は、JISでサイズが決められている。したがって、性能を高めるには缶のサイズはそのままで、内容積を大きくする以外にない。そのため、同社では板厚を薄くすることによって内容積を大きくすることに取り組んだ。ただし、電池の上と下の接点になる部分は強度を保ちたい。そこで、上と下の部分は元の板厚のままで、外装缶の真ん中の部分だけを薄くすることにした。

 元の板厚が0.3mmの場合なら、真ん中部分の厚さだけを0.2~0.15mmにする。上下部分と真ん中部分の板厚に差を設けるため、「差厚缶」と呼ばれる。具体的には、トランスファープレスによる絞り、しごき、成形などの多工程を経て最終的に求める形状にする工法を確立した。2000年に取引先であるFDKエナジーと共同で、この工法を用いた円筒缶の製造技術で特許を取得している。

  • ダブルプレスによる製造ライン

1台のプレス機械に2列の金型をセット

 差厚缶の製造以外にも斬新な製造技術をもつ。1台のプレス機械に2列の金型を並べて加工する「ダブルプレス(2連式プレス)」と呼ぶ独自の加工技術がそれである。1台で2品目が同時に加工できるため、「省エネ、省スペースはもちろん、生産性は2倍となり、良好な品質も確保できる」と桜井武美社長は胸を張る。

 この加工技術は、「品質を確保しつつ、生産性を上げる」というシンプルな発想から生まれた。一般にプレス加工メーカーでは、生産性を上げるため、プレス機械のSPMを上げることに躍起になる。こうしたニーズに応え、近年は多くのプレス機械メーカーからSPMが上がるトランスファープレスも発売されている。

 しかし、あまり回転数を求めると、その裏返しとして品質に影響が出る。かつては同社も、それで泣かされたことがあったという。「実は、それぞれの外装缶ごとに、理想的な回転数というのがあるのです」と桜井社長は言う。だからといって、現状のままでは生産性は上がらない。そんなあるとき、「金型を2列並べれば、機械の回転数を極端に上げなくても生産性は2倍になる」ことに気づいたのだ。

 ダブルプレスの加工には、シングルプレスの約2倍の圧力が必要だ。例えば単3・単4の電池タイプの場合、シングルプレスは45tプレスを使用するが、ダブルプレスでは80tプレスを使用する。ただし、ダブルプレスで使用するプレス機械は汎用の機械で、特別仕様のものではない。ポイントは金型にある。

 プレス機械が稼働すれば2つの金型に同じ力がかかる。例えば、絞りの工程では同じように負荷がかかるので、それらのバランスをどうとるかが重要になるという。また、シングルプレスの場合は、材料を振りながらとっていくが、ダブルプレスは金型が一体になっているため、それができない。しかし、そのままでは材料のムダが出るので、最もムダが生じない材料幅を品目ごとに割り出すようにした。

  • ニッケル水素、リチウムイオン、アルカリ電池などの外装缶

電池缶材料の開発も

 外装缶はトランスファープレスを使用し、1品目当たり10~13工程で加工する。同社の工場には26台のトランスファープレスがあるが、そのうちの12台がダブルプレスで、残りがシングルプレスだ。ダブルプレスにするか、シングルプレスにするかは生産量で判断する。目安は月産200万個にいくかいかないかである。1品目で400万個になれば同じダブルプレスを2台並べる。それに対して200万個以下の品目はシングルプレスを使用する。いずれの場合も段取り替えなしの専用機にしている。

 そんなダブルプレスにも唯一、デメリットがある。「2列並んでいるうちの、どちらか一方の金型が壊れたら、両方とも止まってしまうことです。したがって、メンテナンスには十分気を配っています」と桜井社長。ダブルプレスは、理論的には金型を変えれば異なる品目を2つ同時に製造することも可能だ。しかし、「同じストロークで、生産量も同じでないと難しいので、実践で使用した例はない」という。

 同社の一番の強みは、ダブルプレスに代表される高い生産力だが、その一方では将来のビジネスを視野に入れた電池缶材料の開発なども行っている。

 「20年以上も前から、材料メーカーさんには加工性をよくするために、材料の硬度を上げたり、粘性を高めたりしてもらってきましたが、現在ではそれを一歩進めて、製品品質を上げるための研究も一緒にやっています」(桜井社長)。

 今日、外装缶の市場は安定期を迎えたが、同社は現状に満足せず、生き残りのためにさまざまなことに挑戦していく考えだ。

型技術 2017年4月号より

→ MF-Tokyo2017特集

(2017/7/7 13:30)

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