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【プレス技術】暗黒大陸の物流改革大作戦-プレス工場を大変身させる秘密の裏ワザ/調達物流改善の取組み[2]/(上)

(2017/7/10 13:30)

  • 図1 物流量をまとめる

調達物流改善成功の4つのポイント

 それでは具体的な取組みについて確認していこう。まずこれだけは外してはならない4つのポイントについて解説する。

【Kein物流改善研究所 所長 仙石 恵一(せんごく けいいち)】

→暗黒大陸の物流改革大作戦-プレス工場を大変身させる秘密の裏ワザ/調達物流改善の取組み[1]/(上)

→暗黒大陸の物流改革大作戦-プレス工場を大変身させる秘密の裏ワザ/調達物流改善の取組み[1]/(下)

 第1のポイントは「物流量を集める」こと。物流コストを左右する大きな要因は物流量だ。基本的にボリュームが大きくなればなるほど単位当たりの物流コストは下がる。したがって輸送1単位当たりのボリュームを増やし、トラックができるだけ満載になるようにしていくことだ。ではどのようにして?部品や資材(以下部品など)の調達回数を減らす?それは工場側の要望であるジャストインタイムに反することになる。そうではなく、集荷先の数を増やし混載することで物流量を増やすべきだ。サプライヤーA社で満載にならない場合、A社からの調達回数を減らすのではなく、B社、C社の荷を同時に集荷することで全体ボリュームを増やす。これが基本的な考え方だ(図1)。

 第2のポイント、それは「荷姿モジュールの統一」だ。調達物流改善成功の秘訣は「複数サプライヤー荷の混載」にある。しかしもしA社とB社が似たような部品を生産しているにもかかわらず、使用容器が異なっているとしたらどうなるか。結果は目に見えている。容器同士が積み重ならずにトラックの荷台に空間ロスを生じさせてしまう。そこで荷姿モジュールを統一することが求められるのだ。部品などの大きさにより何種類かの容器を設定する。そして取引先であるサプライヤーにはその容器を使用してもらうようにしたい。

 容器を設定する際には次の点についても考慮する必要がある。パレットに積載した際にピンホールができないモジュールとすることだ。ピンホールとはパレットに箱を積みつけた際に真中にできる空間のことを指す。これが発生するとその分だけトラック積載率を低下させてしまう。物流コストに直接影響するのでピンホール廃止には必ず取り組みたい。また、空の時に圧縮できること。折り畳みやネスティングが可能なつくりにしておくことで、輸送効率化と容器保管エリアの効率化につなげたい。

 第3のポイントは「取引運送会社数の集約」だ。今までサプライヤーがそれぞれ契約していた運送会社はサプライヤーの数だけ存在する可能性もある。100社のサプライヤーから部品などを購入している場合、100社の運送会社が存在する可能性があるということだ。もし部品などを引き取りに行くことになった場合、その100社すべてと契約することはないだろう。

 現実的には2~3社とだけ契約を結ぶことになる。結果的に運送会社数は100社から2社に集約されたことになる。運送会社を集約するとどのような効果があるか。発注先が集中されると1社への発注量が増えることになる。その結果として運送価格が下がることになる。運送価格決定要素の内「ボリューム(物流量)」の占める割合は大きい。そこで積極的に運送会社は集約した方がよい。荷を分散させることは物流コスト低下につながらないということを知っておこう。

 ただし私たちが契約する運送会社と実際に運送する会社の数は違ってくる。私たちが2社と契約しても、その2社がそれぞれ下請運送会社15社と契約していたとすると30社が私たちの工場に入ってくることになる。運送会社との契約時に「下請会社に実運送を任せることを認めて欲しい」という要請が来る可能性がある。一定の要件を満たせばこの要請は認めることになるだろう。

 第4のポイントは「商流の変更」だ。具体的に言うと部品などの価格の変更と検収ポイントの変更だ。今までは部品などは納入してもらっていたので部品価格に物流コストは含まれていたことになる。検収ポイントは私たちの工場の軒下だった。工場の軒下まで部品などを届けてくれていたからだ。しかし部品などを引き取りに行くと検収ポイントはサプライヤーの軒下となり、部品価格からは物流コストが差し引かれることになる。

 今までも解説した通り、この部品価格の改定が引き取り化の採算を決める最重要ポイントになる。下請法に触れないように、正確な金額を、お互い合意の上改定することを心がけたい。

成功のために取り組むべき9ステップ

 調達物流改善は大変魅力的なアイテムのため取り組もうと考える会社は多い。しかし実際に取り組む際に必要なステップがある。それは9つ。安易に進めて失敗するのではなく、この9つを踏まえながら着実に進めていこう。

  • 図2 社内推進組織を確立する

1.社内推進組織の確立

 調達物流改善は単なる物流改善ではない。単なる調達改善でもない。ある意味会社の経営改善だともいえるアイテムだ。一部の部門に負荷がかかったり、効果が特定の部門に現れたりすることがある。しかしこの活動は会社として取り組むという意識の下進めていくことが望まれる。成功のポイントとして推進組織を組閣し、プロジェクトリーダーには経営に責任を持つ役員になってもらうことをお勧めしたい。プロジェクトに参加する部門は購買部門、物流部門そして生産部門ということになる(図2)。

2.調達戦略の策定

 これからやろうとしている調達物流改善の狙いは何だろうか。調達価格を下げたいからやるのか。調達部品などの物量ボリュームを自社のコントロール下に置くことで自社の輸送コストを下げたいのか。目的を明確にしよう。多くの会社で部品などのジャストインタイム調達化とコスト(部品費、物流費)削減が狙いになることだろう。そのために実行組織をどうするのか。物流のあり方をどうするのか。きちんと決めてから活動をスタートしよう。

  • 表1 物量情報

3.基本情報の収集

 ここは極めて重要なポイントだ。今まで部品サプライヤーが届けてくれたものをこれからは自分たちが引き取ることになる。だから物流情報をしっかりと入手しておきたい。最低限持っておかなければならない情報は「物量情報」(表1)と「荷姿情報」(表2)だ。物流にとって当たり前の情報だが意外と持っていない会社が多い。この2つの情報抜きに運送会社への発注はできない。もし持っていなければ今から準備を始めよう。特に荷姿情報は調査に時間がかかるので要注意だ。

  • 表2 荷姿情報

4.ルート組みの実施

 今までサプライヤーが届けてくれていたのでルート組みとは無縁だったはず。しかしこれからは自分たちで荷を引き取りに行くのだからトラック走行ルートを組むことは必須だ。基本情報で集めた物量情報と荷姿情報を使ってどのサプライヤーとどのサプライヤーを巡回するのかを検討しよう。サプライヤー一社で物量がまとまり、かつ工場の納入回数要望に応えられるのであれば直送も考える。複数社混載でトラックを満載にでき、かつ工場の納入回数要望に応えられるのであれば巡回集荷方式(ミルクラン)も検討する。このようなことを検討していく仕事がルート組みである。ちなみに検討段階ではなく、実際に調達物流を始めてからも常に「ルート変更」があり得るのでそれができる体制と人材の確保が必要だ。

→暗黒大陸の物流改革大作戦-プレス工場を大変身させる秘密の裏ワザ/調達物流改善の取組み[2]/(下)

プレス技術 2017年4月号より

→ MF-Tokyo2017特集

(2017/7/10 13:30)

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