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深層断面/セパレーター“戦国時代”−素材各社、相次ぎ大型投資 EVシフト追い風

(2017/8/22 05:00)

  • 2020年は日欧米の自動車大手が現在開発中のEVを相次ぎ投入する自動車史の転換点となる(日産「リーフ」)

リチウムイオン二次電池(LIB)用セパレーター(絶縁材)市場が“戦国時代”に突入した。中国や欧州の電気自動車(EV)シフトを追い風に、業界大手の東レや旭化成が2020年に向けて大型投資に乗り出す。20年は日欧米の自動車大手が現在開発中のEVを相次ぎ投入する自動車史の転換点となる。基幹部材の市場は4倍に急拡大するとの予想もあり、投資のタイミングを見誤れば巨大な需要の波を逃す。短期決戦で素材各社の優勝劣敗が決まりそうだ。(鈴木岳志、小野里裕一)

《2020年見据える》

東レ、1300億円で拠点増強

「セパレーター事業に1200億―1300億円を投資する。もちろん、世界シェア1位を目指したい」。セパレーター生産量世界2位の東レで同事業を統括する井上治常務取締役は7月下旬の会見でこう述べた。10年に旧東燃ゼネラル石油と合同会社を設立して市場参入して以来、東レが詳細な投資方針を明らかにするのは初めて。巨額の設備投資と合わせ、生産拠点を持たない欧州への工場新設にも意欲を示した。

  • 東レが大幅増産するセパレーター「セティーラ」

東レは後発ながら主力事業のフィルムや樹脂で培ったポリマー設計、物性制御の技術を強みに同事業を拡大してきた。上位企業を追う立場の東レは、これまで事業方針の公表は不利益が大きいと考えてきたようだ。だが、“EV時代”の到来を前にLIBメーカーが部材調達を活発化する中、大規模な生産拡充を公表して市場に対し存在感を示す戦略を鮮明にする。東レの野心的な方針表明は、セパレーター市場における本格的な競争時代の幕開けを告げた。

東レは現在、韓国拠点の増強を進めており、17年度末までに年産能力を約6億5000万平方メートルまで引き上げる計画だ。これを20年頃までに3倍増の約20億平方メートルに高めるとしている。急ピッチで増産投資を進めるのは、生産拡大と同時に強みである高機能な製品で競合に先行し、デファクト・スタンダード(事実上の標準)の地位を得たいとの思惑がある。

旭化成、生産能力2.5倍 15億平方メートル

セパレーター世界首位の旭化成では、足元の国内工場が増産に次ぐ増産で息つく暇もないほどだ。20年までに生産能力を最大で現状比2・5倍の15億平方メートルに増強する方向で検討している。

セパレーターに限らず車載用電池部材全般の設備投資にとって何より重要なのはタイミングとスピード。市場が立ち上がらなければ不採算設備を抱えることになるが、需要が急増し供給能力が不足すれば商機を逃すからだ。だが、旭化成は東レが意欲を示すEVシフトが顕著な欧州での工場新設には慎重だ。「市場がかなり安定してくればありうるが今はまだ得策ではない」(旭化成幹部)という。

同社の小堀秀毅社長は最近、「今は自前で設備投資をしているが、20年以降は他社を買収して投資効率を上げる流れが見えてくる」と再編論に言及するようになった。業界では20年以降の再編を見据えた戦略も求められそうだ。

《需要逃さない》

住友化学、顧客開拓が課題

パナソニックとの関係が強い住友化学は米EVメーカーのテスラ向けが主力。テスラが7月に出荷を始めた量産型EV「モデル3」の増産計画に合わせ、韓国工場を増強中だ。今夏から順次増設した設備を立ち上げ、生産能力を従来比4倍まで引き上げる。

一抹の不安はモデル3の量産体制だ。テスラの生産技術は発展途上と言われ、当初の計画通りに生産が進むか不透明さが残る。他の電池部材メーカーも量産開始までやきもきさせられていた。住友化学として、事業の安定成長のためにはさらなる顧客開拓が今後の課題だろう。

宇部興産、新製法でコスト競争力

宇部興産は乾式セパレーターを手がけ、トヨタ自動車のハイブリッド車(HV)「プリウス」などに採用実績がある。堺工場(堺市)で今春稼働した新設備は、優れたコスト競争力が自慢だ。もともと湿式と比べて投資負担は軽いが、新製法を導入してコスト競争力に磨きをかけた。

同社は現在、旭化成が15年に買収した乾式セパレーター大手の米ポリポアと国内外で激しい受注競争を繰り広げている。特にコスト意識の高い車載用は乾式が将来の本命と見られている。

帝人、車載電池、共同開発へ

帝人はポリエチレン(PE)基材にフッ素樹脂を塗工したセパレーターを生産し、韓国の民生用を中心に販売を伸ばしてきた。足元は中国からの受注が好調で、韓国工場の増強を検討。今の年産能力3600万平方メートルを、17年度末までに6000万平方メートルに引き上げる方針だ。

同社もEVの増大をにらみ車載用LIB向けセパレーターの生産に乗り出す意向を示していたが、日本や海外の電池メーカー数社と車載用LIBの共同開発に入ったようだ。20年頃の採用を目指しているとみられ、市場競争の激化に拍車をかけそうだ。

新興国勢の参入増加

セパレーターは正極と負極を絶縁し、両極の接触による発火を防ぐもの。リチウムイオン二次電池(LIB)では、正極材(リチウム含有金属)や負極材(黒鉛など)、電解液と並び「基幹部材」と呼ばれる。主流はポリオレフィンの微多孔膜(フィルム)。フィルム材料に機能性充填剤(フィラー)を混ぜ、延伸後にフィラーを溶かし多孔を形成する「湿式」と、延伸により多孔をつくる「乾式」に分かれる。

富士経済(東京都中央区)によると、LIB用セパレーターの16年の生産数量は15億9480万平方メートル(見込み)で、20年は1・8倍の28億7550万平方メートルに伸びる予測だ。一部の関係者は20年の需要量を35億平方メートル以上と見積もる。

これまではスマホやタブレット端末などが需要をけん引していたが、LIBを多く積む電気自動車の進展を前に、急拡大が確実視される。一方、新興国メーカーの参入増加が予想され、価格低下を危惧する声も多い。

(2017/8/22 05:00)

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