[ トピックス ]

【電子版】中国イノベーション事情(19)AIが追い風に-急速な発展遂げるロボット産業

(2017/10/4 05:00)

  • 北京で開催された「世界ロボット大会2017」の会場(中国科学院科学技術戦略コンサルティング研究院・肖尤丹氏撮影)

この夏、北京で「世界ロボット大会2017」(World Robot Conference2017)が開かれ、多くの来場者で賑わった。中国工業情報化省副大臣の辛国斌氏は同大会で、中国におけるロボット産業の規模が急速に拡大し、2017年には62.8億ドルになるとの見通しを示した。国際ロボット連盟(International Federation of Robotics、IFR)が予想している17年の世界ロボット産業規模が232億ドルであることから、中国のロボット産業規模は世界の四分の一を占めることになる。近年、人工知能(AI)が追い風となり、ロボットの開発が急速に進んでおり、中国ではロボット産業が目覚しい発展を遂げている。

16年4月に中国工業情報化省、国家発展改革委員会と財政省は、「ロボット産業発展計画(2016-2020年)」を打ち出した。産業インフラの整備や、重要な部品の研究・開発(R&D)、国産の産業ロボット生産の拡大、国際競争力の向上などに力を入れようとしている。同計画は国家レベルの政策として注目されているが、民間では既にロボット市場のポテンシャルと将来性を見据えて、大手企業からベンチャーまで参入が相次ぎ、活発な動きを見せている。

背景に人件費高騰と高齢化

  • 世界ロボット大会2017(肖尤丹氏撮影)

その背景には二つの要因がある。第1に、人件費が高騰し続けている中国では、工場の自動化に伴う需要が高まっている。産業用ロボットの活用によって、人件費の削減と製造業の高度化という一石二鳥の効果が図られる。現在、中国は最大の産業用ロボット消費国となっている。第2に、15年の中国の高齢化率(総人口に占める65歳以上の人口の割合)は10.5%で、中国が高齢化社会に突入したことがある。少子高齢化の進展で、労働力不足と介護需要が顕在化している。そのため、介護や家庭用などサービスロボットに対するニーズも大きいと思われる。

産業用ロボット分野では、16年に大手家電メーカーである「美的(Midea、マイディア)」が、世界トップクラスのドイツのロボットメーカーである「KUKA(クカ)」を買収し、安川電機の中国子会社とも提携している。ロボット市場に攻勢をかける中国企業の積極姿勢が浮き彫りになっている。

中堅メーカーである「科沃斯(ECOVACS、エコバックス)」は、もともと海外の家電メーカーの下請けを中心にビジネスを行っていたが、05年から家庭用ロボットの開発に着手した。現在、窓・床用ロボット掃除機やロボット空気清浄機などを主力製品として、中国市場では6割超のシェアを占め、日本市場でも販売している。

12年に深センで設立された「優必選(UBTECH)」は、企業情報データベースの米国CB Insightsが17年1月に発表した「The AI 100」に選ばれたユニコーン企業だ。ロボットとAIを中心に開発を行い、人型ロボット分野の先駆者として、世界25カ国でビジネスを展開している。

大手検索エンジン「百度(Baidu、バイドゥ)」のディープラーニング研究所の設立者である余凱氏が、退社後の15年に「地平線ロボティクス(Horizon Robotics)」を立ち上げた。同社は「Define the Brain of Things」(モノの頭脳を定義する)をミッションに、製品や装置のスマート化を目指している。優れた開発能力でロボットメーカーを支える存在として、注目を浴びている。

地方政府も産業育成へ

  • 広東省・東莞市松山湖生態園にある松山湖ロボット産業基地(筆者撮影)

地方政府の動きも加速している。広東省・東莞市松山湖生態園(ECO-Industrial Park)に位置する「松山湖ロボット産業基地」には150超のロボット関係企業が集まっている。輸出向けのローエンド製造業の工場が多い東莞市は、産業の高度化を図り、ロボット産業を積極的に育成し、ロボットの街に変わろうとしている。

IFRによると、15年の世界のロボット販売台数は過去最高の24万8000台で、このうち中国での販売が一番多く、6万8000台だった。現在世界最大のロボット市場を擁する中国は、19年までに世界市場の40%を占めそうだ。中国のロボット産業が世界的な成長をけん引していくと思われるが、自国製品のシェアや、競争力・ブランド力向上のために、不断の努力が必要不可欠なことは言うまでもない。

(隔週水曜日に掲載)

【著者プロフィール】

富士通総研 経済研究所 上級研究員 

趙瑋琳(チョウ・イーリン)

79年中国遼寧省生まれ。08年東工大院社会理工学研究科修了(博士〈学術〉)、早大商学学術院総合研究所を経て、12年9月より現職。現在、ユヴァスキュラ大学(フィンランド)のResearch Scholar(研究学者)、静岡県立大グローバル地域センター中国問題研究会メンバー、麗澤大オープンカレッジ講師などを兼任。都市化問題、地域、イノベーションなどのフィールドから中国経済・社会を研究。論文に『中国の「双創」ブームを考える』『中国の都市化―加速、変容と期待』『イノベーションを発展のコンセプトとする中国のゆくえ』など。

(2017/10/4 05:00)

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