[ トピックス ]

【電子版】偽ニュースを見抜け! 「発信、どこですか」-米国で広がる教育・学習ゲームも

(2018/1/2 08:00)

  • 「トランプ大統領のスマホがハッキングされた!」。「ファクティシャス」で記事を読む。本物のニュースですか―。答えは「フェイク」だ。

  • 「ファクティシャス」は「クイックスタート」だと15問。正解、不正解のスコアで真偽を見抜く力が問われる=ワシントン(時事)

  • 米上院情報特別委員会が開いた公聴会。ロシア情報機関がテキサス州での集会を仕掛けた問題が取り上げられた=2017年11月1日、ワシントン(EPA=時事)

ネット上にあふれるデマやうそなど、事実に基づかない「フェイク(偽)ニュース」。米国では大統領選挙にも影響し、民主主義を揺るがす脅威となった。ニュースや情報の真偽を見抜くための教育も本格化している。

【トランプ氏を盗聴?】

「トランプ大統領のスマホがハッキングされた!」「フランシスコ法王が偽ニュースに注目」―。これらは本当のニュースなのか。真偽を判別するクイズ形式のゲーム「FACTITIOUS(ファクティシャス)」がネット上で公開されている。正解は「トランプ大統領―」が「フェイク」、「法王―」は「本物」だ。

ゲーム考案者の一人、ロサンゼルス・タイムズの元記者マギー・ファーレイさんは「ソース(発信元)こそが判別のための最善の情報だ」。偽ニュースを見抜くには、まずはどのサイトが発信しているかを確認することだと説く。「トランプ大統領―」の場合、ブロガーの文章がよく載っているサイトが発信元だった。

このゲームは2017年6月、首都ワシントンのアメリカン大のチームが公開。次々と記事が出てきて遊べる仕組みで、偽ニュースを見抜けないと、「サイトの紹介欄をチェックして」「発行元や執筆者の情報が書かれていない」などと表示が出る。

スマートフォンで気軽に利用できることもあり、当初2カ月で約110万人が体験。「実生活で使える技能が身に付いた」などの声が寄せられた。ファーレイさんは「多くの人がニュースを得るフェイスブック(FB)用のバージョンも作成したい」と意欲を示す。

【子どもの判断力養う】

「ファクティシャス」のベースにあるのは、ファーレイさんも参加する「ニュース・リテラシー・プロジェクト(NLP)」。元記者や教員らでつくる非営利団体だ。ニューヨークなどで活動しており、中学・高校を対象に「生徒、消費者、市民として、いかにニュースや情報の信頼性を判断するか」を教えるプログラムを推進する。

プログラムは教師による授業、ボランティアの記者による授業、生徒自らの研究で構成。NLPのコーディネーターが教師らと協力し、学年や到達目標を考慮して策定する。教師の訓練も行う。

NLPはオンラインプログラム「checkology(チェックオロジー)」も展開する。ニューヨーク・タイムズなどの記者やデジタルメディアの専門家も講師として登場。生徒が編集者役を務め、記事の重要性を判断する学習もある。

学習時間は15~20時間。導入1年足らずで米国内はもとより40数カ国で教師計6000人以上、生徒80万人近くが利用対象になったという。

民主主義守るには

ニュースの真偽を見抜く能力「ニュースリテラシー」の教育強化のきっかけとなったのが先の大統領選だった。その余波は続き、グローバルな「情報戦争」の脅威も浮き彫りになっている。

17年11月、米上院情報特別委員会の公聴会がインターネット交流サイト(SNS)最大手のFB幹部を呼んで開かれた。取り上げられたのは、選挙戦の間、テキサス州でイスラム教排斥派と擁護派が同じ場所、時間に集会を開いたケースだ。

「イスラム化を阻止せよ」「イスラムの知恵を守れ」。一触即発のにらみ合いはロシア情報機関がFB広告で、双方の集会を告知した結果だった。社会の対立をあおり、移民に厳しいトランプ候補を有利にしようと画策した疑いが掛かる。

その一方で、選挙戦の間にセンセーショナルなニュースをでっち上げ、まとめサイトで閲覧数を増やし、広告収入で荒稼ぎした東欧の小国マケドニアの若者らもいたと欧米メディアは報じる。

「偽ニュースを止めるのは困難。だからこそ、その特徴を見抜く教育に取り組む」。ファーレイさんはそう強調する。

SNSなどのソーシャルメディアに飛び交う数え切れない情報を、「フェイク」に踊らされずに使いこなせるか。シェア(共有)しない判断を下せるのか。利用者自身に多くが懸かっている。(シリコンバレー、ニューヨーク時事)

【SNS対策強化も「いたちごっこ」、基準厳しいと言論損なう懸念も】

  • アリゾナ州立大のダン・ギルモア教授=サンフランシスコ近郊(時事)

偽ニュースは、気に入った情報をクリック一つで友人とシェア(共有)できるインターネット交流サイト(SNS)の普及によって爆発的に拡散するようになった。

米調査機関によると、成人の3分の2はSNSを通してニュースと接する機会があり、最大手のフェイスブック(FB)をニュース情報源とする人は半数近くに上る。オンラインで記事を提供する新聞社などの伝統的な報道機関が苦境に立つのに対し、FBと検索最大手グーグルがデジタル広告費の3分の2近くを分け合うとの調査もある。

FBは偽ニュースの「温床」批判に応え、事実関係を検証する外部機関と連携して疑わしい記事への注意を喚起したり、問題投稿削除のために人工知能(AI)の活用や監視要員の拡充を図ったりしている。

ただ、ネット世論を誘導したり、特定アカウントの人気があるよう偽装したりする請負業者も知られ、「いたちごっこ」状態に陥っているとの指摘も。投稿基準を厳しくし過ぎると、自由な言論が損なわれる懸念もある。

アリゾナ州立大のダン・ギルモア教授(マスコミ論)は「何が正しく、間違っているかをSNS企業が決めるのは危険な結果を招く恐れがある」と警鐘を鳴らし、誤情報の拡散を防ぐためにメディアの利用者が批判的な思考を養う必要があると指摘。「特に自分が嫌いな個人や団体に関する否定的な情報は確信が持てるまではシェアしないことが重要だ」と説く。(シリコンバレー時事)

リテラシー学ぶ環境整備を 坂本旬法政大教授(情報教育論)

  • 法政大学の坂本旬教授(時事)

偽ニュース問題と米国の教育事情に詳しい法政大の坂本旬教授(情報教育論)に話を聞いた。

日本でも熊本地震の時には「ライオンが逃げた」とのデマが広がり、先の衆院選では偽情報が飛び交った。偽ニュースが大統領選に影響した米国の問題を対岸の火事と見るべきではない。

米国ではネット教育をめぐる議論の結果、「子どもをネットから保護するのではなく、ネットへの力を付けさせるべきだ」との主張が主流になった。ジャーナリストも関与し、ニュースを批判的に読む力を付ける教育が進められている。「21世紀の教育は正しい情報を見抜くこと」だとされ、そうしたネット教育実施を定めた法律がワシントン州で成立、全米に運動が広がっている。

日本ではまだ多くの学校が、メディアを利用する力やネット情報を評価する能力(メディア情報リテラシー=MIL)の強化に本格的に取り組んでいない。だが国連教育科学文化機関(ユネスコ)も「持続的かつ平和な世界の進展に最も重要な技能の一つ」としてMIL教育を推進している。

ユネスコは、研究者らが交流する「グローバルMILウイーク」の国際会議を2023年に日本で開催することを希望している。これに向け、日本でもMIL教育の環境を整備してほしい。(談)

(2018/1/2 08:00)

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