[ トピックス ]

【電子版】経営戦略としてのIoT・第4次産業革命~ビジネス・システム・イノベーションの時代~(12)

(2018/2/16 05:00)

【社会基盤(インフラストラクチャー)におけるビジネス・システム・イノベーション】

1)社会基盤における業務活動とシステムズ・アプローチ

 ~BIMクラウドを活用した社会基盤のライフサイクルマネジメント~

社会基盤プロジェクトの巨大化・複雑化により、本格的なシステムズ・アプローチが採用され、クラウド技術を活用したプラットフォーム提供がなされはじめた。

社会基盤プロジェクトの設計は、大きく意匠設計、構造設計、施工設計、オペレーション設計、保守管理設計等のフェーズに分けられる。これらの業務は膨大な数の設計者が関わる作業となる。課題は、各フェーズの設計段階で作成される多数の設計図(電気系統、機械系統、ソフトウェア系統他)をフロントローディング、つまり設計段階での各フェーズでの問題解決を行い、あらかじめ全体で整合性を確保していくことである。

こうした複雑な設計領域の業務プロセスでは、多数の設計者が、3次元の設計情報をクラウドで共有することによりはじめて、コンカレントエンジニアリング(製品開発プロセスを構成する複数の工程を同時並行で進め、各部門間での情報共有や共同作業を行う設計手法)が容易となり、手戻りやミスの削減による生産性向上と工期短縮を実現できる。

さらに整備後、3次元の設計情報が得られればオペレーションの最適化設計も容易となる。また、設備の保守・維持管理フェーズでは、設備の稼動・メンテナンス履歴を常に更新、継続的に整理していくことが重要である。

設備の運営・維持管理にクラウドを活用し、「設備の最新状態とメンテナンス履歴はここにアクセスすれば即座にわかる」状態を維持できればメンテナンス費用を削減できる。実際、設備メンテナンスの現場では「メンテナンス履歴がわからない」「メンテナンス作業に必要な情報のありかがすぐにわからない」といった事態が起きており、情報探索時間が業務全体の7割を占めるとも言われている。

実は、建造物等に関してライフサイクルで発生する費用のうち、約 8 割は竣工後のメンテナンス費用が占めている。設備の保守・維持管理フェーズでのクラウド活用は構築物のライフサイクルコスト削減に貢献すると期待される。

2)英国の産業政策

 ~国家戦略レベルでのBIM活用~

英国は、国家戦略として英国建設業が世界で競争力を強化するために BIM 導入を推進してきた。BIM とは Building Information Modeling の略称である。BIMは、通常日本では「コンピューター上に作成した 3 次元の形状情報に加え建築物の属性情報を併せ持つ建物情報モデルを構築すること」と考えられているが、英国政府の解釈は少し広い。

「①資産ライフサイクル全体のソリューションを使用し、建造物のリターンを最大化すること。②オペレーションの最適化、設備管理の最適化・メンテナンス費用の削減、規制遵守コミットメントの達成に貢献するために、③設計フェーズの調整・建設の可視性を確保、設計と施工の情報が共有できるようする。④また、建造物などの資産ライフサイクル全体にわたり、詳細な地理空間、建築、エンジニアリングのコンテンツを活用できるようにすること」と考えられる。まさにシステムイノベーションを志向している。

英国では、まず 2008 年に BIM 成熟度モデルを公表。続く2009年には英国の国際競争力強化を狙ったビジネス・イノベーション・職務技能省(BIS)を設置。さらに 2011 年には 英国内の公共プロジェクトにおいて「2016 年までにプロジェクトの関連主体が各領域のBIM モデルを互いに参照できる状態に達する」という目標を策定、公共事業での3Dの設計図での納品を義務付け、運用や保守作業に活用することを宣言した。

加えて2013 年 49 には独 Industrie4.0の社会基盤版と呼べる「Construction 2025」を発表、そこでは英国建設業でコスト削減 33%、工期短縮 50%という目標が掲げられた。

このように英国は、国家戦略レベルでBIM 活用を位置づけてきた。英国クロスレールプロジェクトは、「クラウドでのBIM 活用」の先駆けとなったプロジェクトであるといえよう。その成果物は大型コンクリート製構造物、電気設備、空調設備、信号・通信設備を含めて管理対象資産数が合計で200万点を超える。

長いライフサイクルにわたり膨大な数の資産の設計情報・設備稼働履歴・メンテナンス履歴が共有・参照され続けることになる。その際に多数のステイクホルダーが参照する情報がクラウド上に一元的管理されることで、劇的な生産性向上が期待されたのである。英国クロスレールプロジェクトでは、同時に2万人のエンジニアがコミュニケーションできるクラウド型のBIM が提供 された。

【例:英国のクロスレールプロジェクト】

現在、英国で延長 120キロメートル弱の高速鉄道建設(進行中)。この鉄道はロンドン、およびイングランド南東部を横断(クロス)することからクロスレールと呼ばれる。総工費約 150 億ポンドの欧州最大級の建設プロジェクトである。2009 年に建設が始まり、2017 年 5 月 に一部区間が、2019 年に全線が開通する予定である。 ロンドン都心部を通るトンネルは延長 42キロメートル、計 40 駅のうち 10 駅は地下駅である。ロンドン都心部地下にある地下鉄や電気・通信・上下水道等のユーティリティー設備と干渉しないようにトンネルや地下駅を設計・建設しなければならない。設計情報も膨大で CAD(コンピューター支援設計)ファイルの数が 100 万点にも及んだ。この大型かつ複雑な建設プロジェクトを支えているのが、BIM による関連業務のシステムズ・アプローチなのである。

【著者紹介】

藤野直明(ふじの なおあき)

野村総合研究所 主席研究員

専門はSCM革新のコンサルティング。近年、第4次産業革命やIoT、オムニチャネルリテイリングでの調査研究・コンサルティング活動を、民間企業、産業政策双方の視点で行っている。日本オペレーションリサーチ学会フェロー、オペレーションマネジメント&ストラテジー学会理事、ロボット革命イニシアティブ協議会WG1情報マーケティングチーム・リーダー

(2018/2/16 05:00)

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