[ オピニオン ]

【電子版】論説室から/働き方改革関連法案の成立に”赤信号”

(2018/5/10 05:00)

 安倍晋三首相が「最重要課題」と位置づける働き方改革関連法案の行方が不透明感を増している。後半国会で最大の争点となるはずだった働き方改革だったが、森友学園問題や野村不動産に対する特別指導をめぐって与野党の対立が深まり、論戦は深まっていない。今国会の日程は6月20日まで。今国会での成立には赤信号がともっている。

 政府は4月6日、働き方改革関連法案を閣議決定し、衆院に提出した。働き方改革をめぐっては、裁量労働をめぐる厚生労働省の不適切データ問題について野党だけでなく与党内からも批判が強まり、罰則付きの残業規制や「同一労働同一賃金」導入を含む一括法案から裁量労働制の対象業務の拡大項目を削除した。

 ただ、高収入の専門職を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル(高プロ)制度の導入が含まれることから野党が反発。立憲民主党など野党からは、法案から高プロを除いた上で、残業規制と裁量労働制の要件厳格化などを柱とする対案が示された。今後、国会で激しい議論の応酬が予想される。

 働き方改革関連法案の成立が危ぶまれている中、法案の目玉となる同一労働同一賃金をめぐる最高裁判所の判断が注目されている。運輸業界などで正社員と非正規社員の待遇格差をめぐる訴訟が全国で起こっており、6月1日に横浜市の運送会社を相手に非正規社員が起こした訴訟に対する最高裁の初判断が下される。

 政府が示している「同一労働同一賃金ガイドライン」案では、職業経験・能力、業績・成果、勤続年数、昇級に応じた基本給部分について非正規社員にも「同一な支給をしなければならない」と明記した。しかし不透明な部分が多く、その解釈は労使交渉に委ねられているのが実情だ。

 裁判の争点も労働条件の不合理な格差を禁じた「労働契約法20条」の解釈。4月20日に最高裁第2小法廷で弁論が行われた横浜市西区の運送会社「長沢運輸」、23日の浜松市南区に本社を置く東証一部上場の「ハマキョウレックス」とも、正社員と非正規社員との待遇格差をめぐる訴訟だ。いずれも一審、二審の判断が分かれており最高裁の判断が注目される。 

 これらの訴訟は民主党政権下で改正された「労働契約法20条」(2013年4月施行)に基づく。安倍政権が掲げる同一労働同一賃金を先取りしたものといえる。 

 日本郵政グループも同様の訴訟を抱えている。正社員と非正規社員の手当格差については、2月21日の大阪地裁での判決で非正規社員への手当不支給は「不合理な労働条件の相違に当たる」と日本郵便に賠償を命じた。夏季冬季休暇、有給の病欠休暇を与えないことについても違法と判断した一方、賞与などについては「仕事内容にも異なる点がある」として格差を容認した。

 東京や愛知など3都県の郵便局に勤務する契約社員が手当の差額計約1500万円の支払いなどを求めた訴訟では、東京地裁が17年9月に「住宅手当などの不支給は違法」と会社側に計約92万円の支払いを命じたが、いずれも両者が控訴に踏み切っている。

 わが国最大の単位労働組合であり産業別労働組合でもある日本郵政グループ労働組合は、社員の半数を占める約20万人の非正規社員への扶養手当や年末年始手当支給要求を行ったが、経営側の回答は正規社員の年末手当を打ち切り、代わりに非正規の年始手当を支給するというものだった。

 連合は17年に作成した「同一労働同一賃金の手引き」の中で、同一労働同一賃金を実現するために「正社員の待遇を下げて非正規社員の待遇に近づける手法は認められない」と明記した。最高裁の判断次第では経営側は厳しい立場に追い込まれそうだ。(八木沢徹)

(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)

(2018/5/10 05:00)

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