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【電子版・連載】出張中に遭遇した小さな事件簿 第13話「単身赴任・水滸伝」

(2018/8/19 07:00)

  • さかい三十郎。彼は重工業メーカーで造船・プラント・工作機械事業に携わって40年の経歴を持つ出張多きサラリーマンである。彼はサムソナイト鞄(かばん)とバインデックス手帳を愛用している。ちなみにサムソナイト鞄は時に、新幹線の車内混雑時にはいすに替わる(イラスト:小島サエキチ)

 彼の名は「さかい三十郎」。正義感にあふれた庶民派である。そんな彼が出張時に出会ったノンフィクションのハプニングを「小さな事件簿」としてつづったのが本連載である。

 「本当にそんなことが新幹線内で起こるの?信じられないなぁ…」との思いで読まれる方も多いかもしれないが、すべてノンフィクション(事実)なのである。彼の大好きな「映画の話」もちりばめてあるので、思い浮かべていただければ幸いである。

 それでは車内で遭遇した事件簿の数々をご紹介させていただく。

* *

 社会人として最初に経験するのが独身寮、やがて結婚し社宅生活、さらに国内外に単身赴任する時は単身寮を利用する。三十郎が居住したそれぞれの名を記すと「昭和寮」、「境南アパート」、「サウジアラビア・アルジュベールキャンプ」、そして以下に紹介する国内単身生活経験である。

 単身赴任時に約4年間居住していたアパート名は「ジョイフル草津」。知人からは「温泉三昧でいいね」と言われたが、残念ながら群馬県の草津温泉ではない。東海道線・滋賀県草津駅から琵琶湖方面に歩くこと20分の位置にあったアパート。

 草津の地名ではこんなエピソードもある。自宅最寄駅(JR中央線東小金井駅)で乗車券を購入すると、駅係員から不安気に尋ねられた。

駅係員「え、草津ですか?東海道新幹線を利用するのですか?そんな駅はありませんよ」

三十郎「新幹線米原駅で乗り換え、京都方面東海道線・琵琶湖線で下車する草津駅だよ」

 ちょっとユーモアを交えて購入依頼していた。

毎週末、6畳間は宴会場へと変身

  • (イラスト:小島サエキチ)

 さて本編に移る。ジョイフル草津は洋間6畳に小さな台所とバス・トイレが付随していた。三十郎はベッドが嫌いで布団を敷き寝起きする。従って布団を収納すれば6畳スペースが確保できる。

 同アパートには7人の単身居住者がいたが全員ベッド利用者で、周囲にいる単身者・独身者が部屋に集うようになったのも自然の成り行き。休日の夕食どきはよく鍋や焼肉を囲んで楽しんだものだ。一番多いときでは10人がこの狭苦しい部屋に座したこともある。

 土曜日の17時に集合し買い物を始める。鍋奉行の采配のもと、食材を購入していく。アルコールの量も半端ではない。缶ビール500mlが1ダース(12本)、日本酒2升、焼酎2升、これに各自が持参したワインやウイスキーも集う。が、足りなくなり近くのコンビニへ買い足しに行ったことも何度か。皆と和気あいあいと過ごした時間が、今思うと懐かしい。

 集合されたメンバーを敬称略で列記する。「古川、山竹、原田、堤、望月、三浦、三村、松笠、小堺、小泉、松岡、横山、藤田、藤野、中野、沖元、山手、小倉、鳴海、若生」の計20名。

シベリア並みに寒い室内、でも人の心は温かい

 この部屋は最悪の環境にあった。窓はあるが陽は当たらない(布団・洗濯物も干せない)玄関側は水タンクがあり、夜中ともなるとポンプが稼働し騒音を発する。さらに“冬寒くて夏暑い”ときたものだ。

 “寒い”と言えばこんな逸話も。松岡くんのところにいた新人が来室した。彼のお母さんはロシア出身であるが、その彼が一言いった。

 「この部屋寒いですよ、シベリア並みですね」

 笑ったものだ。

 草津に想いを込めて一句。

 “草津よいとこ一度はおいで。湯煙見えず、いななく名馬”(JRA栗東トレーニングセンターあり)

 古川直輝氏に感謝せねばならない。工場までの車相乗り、レジャーシート(アルミ箔で玄関からの風よけに利用)、また信楽焼きのコップなども提供願った。何より良き飲み・話し相手となってくれて感謝している。小堺くんもあまりの環境を見かねて、子供の布団乾燥機を提供してくれた。望月氏からは掃除機や自転車もいただいた。

 皆さん良き思い出をありがとう。いつかどこかでまた会おう!

合コン(?)の2次会会場としても活躍

余話:こんなハプニングも。夏の金曜日の夜、古川氏が飛び込んできた。

古川氏「さかいさん、これから若い女性が来ます。部屋を綺麗にしてください」

 キョトンとしている三十郎を横目に彼は洗濯物をまとめて小さな押入れに押し込んだ。小型の掃除機で清掃も始めた。三十郎はいつもの短パン1枚姿でいたがTシャツの着用を強いられた。

三十郎「一体どうしたんだ」

古川氏「中野くんの知り合いの女性4名が来ます」

 どうも要領を得なかったが、次第に判明してきた。一次会で盛り上がり二次会の店を探すが確保できない。彼らが思いついたのは予約不要の三十郎の部屋である。車3台の駐車スペースを確保し、酒とつまみの確認を終えて待機した。

 三十郎の大好きな映画の話や、経験した摩訶不思議な事件を織り交ぜた会話で盛り上がった。いやぁ驚いたが良き思い出である。こんな乱入事件ならいつでも歓迎だ。

 アパートの映画といえば「トキワ荘の青春(1996年、市川準監督)」。漫画の神様・手塚治虫に憧れ赤塚不二夫、石ノ森章太郎、藤子不二雄らが集まる。貧乏でも若さと情熱に溢れていた東京・椎名町のアパートを、昭和時代の懐かしさも込めて描いた佳作。三十郎も青春時代を過ごした昭和寮にもう一度戻りたい。出でよデロリアン(タイムマシン)。

(雑誌「型技術」三十郎・旅日記から電子版向けに編集)

(2018/8/19 07:00)

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