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【電子版・連載】出張中に遭遇した小さな事件簿 第22話「素晴らしい空の旅」

(2018/10/20 06:30)

  • さかい三十郎。彼は重工業メーカーで造船・プラント・工作機械事業に携わって40年の経歴を持つ出張多きサラリーマンである。彼はサムソナイト鞄(かばん)とバインデックス手帳を愛用している。ちなみにサムソナイト鞄は時に、新幹線の車内混雑時にはいすに替わる(イラスト:小島サエキチ)

 彼の名は「さかい三十郎」。正義感にあふれた庶民派である。そんな彼が出張時に出会ったノンフィクションのハプニングを「小さな事件簿」としてつづったのが本連載である。

 「本当にそんなことが起こるの?信じられないなぁ…」との思いで読まれる方も多いかもしれないが、すべてノンフィクション(事実)なのである。彼の大好きな「映画の話」もちりばめてあるので、思い浮かべていただければ幸いである。

 それでは遭遇した事件簿の数々をご紹介させていただく。

* *

 自宅に約2,000本の映画DVDを愛蔵している。名画の条件は“何度でも見たい映画”であるが、その中でも「赤い風船」(1956年、アルベール・ラモリス監督)と「八十日間世界一周」(1956年、デヴィッド・ニーブン主演、ジュール・ヴェルヌ原作)は別格である。

 前者は、少年と赤い風船の交流が34分のフィルムの中に鮮やかに描かれている。特撮SFX技術がまだ開発途上であったにもかかわらず、少年に寄り添う風船の姿は生き物のように描かれ驚く。やがて少年は群れとなった風船たちと一緒に大空に飛び立っていく感動のラストシーンを迎える。後者はアドベンチャー大作であり、当時のスターたちがカメオ出演(ちょい役で出演)している。冒頭のロンドンからスイス山脈を越える気球シーンが何より好きだ。

 先ごろ、近所の公園で気球体験が催される予定だったが、強風で中止となってしまった経緯があり、縁を感じて“空の旅の歴史”を調べてみた。

 

  • (イラスト:小島サエキチ)

 まずは気球の歴史から。1780年ごろ、フランスのモンゴルフィエ兄弟は暖炉の熱気に煽られた洗濯物を見て、火を燃やしたときに出る煙に空気より軽い成分があると確信した。また、工場の煙突から出る煙もヒントにして、これを集めれば飛行できると考えた。きっとアラビアンナイトの空飛ぶ絨毯のような魔力を感じたのであろう。

 1783年9月19日、ベルサイユ宮殿の広場で最初のデモンストレーションが行われた。ルイ16世やマリーアントワネットらが見守る中で、気球にバスケットが吊り下げられ、アヒルや雄鶏が入り約2kmの飛行に成功し勲章を得ている。そして同年11月21日、人類初の有人飛行に成功する。2人乗りでブローニュの森から浮上し、約90mの高さを25分間飛行した。距離は約8km。何より搭乗した2人の勇気を賞賛せねばならないだろう。

 同じころ、フランスのシャルル教授も水素ガスを詰めたガス気球による有人飛行を目指していたが、実験が成功したのは熱気球の10日後であった(なにやら映写機開発のエミュール兄弟とエジソンの発明争いを彷彿させてくれる)。

 気球で人が空を飛んだビッグニュースは、フランスからオランダの東インド会社を経由して1784年8月に長崎へ伝承された。やがて1805年の正月に長崎の上空に気球が上げられた。きっと長崎名物の旗揚げと共演したのであろう。1877年には西南戦争で気球を使おうと軍部が計画するが、実際に利用できたのは1904年の日露戦争の旅順港封鎖のとき。第2次世界大戦では風船爆弾として利用され、米国西海岸に到着したとの歴史も残されているが定かでない。

 現在は軽くて丈夫な化学繊維(ナイロン・テトロン)の登場とプロパンガスを利用したバーナーの開発により効率よく空気が燃焼され、スカイ・スポーツとして復活している。1973年に日本熱気球連盟が発足、1989年に日本でアジア初の世界選手権も開催され現在に至っている。

 やがて飛行船の時代に移行する。飛行船の飛ぶ原理はベルヌーイの法則によるが、わかりやすく例えるなら“野球のボールに回転をかけて投げると、球が浮き進む”のと同じ原理だ。

 1769年のイギリス・ワットの蒸気機関の発明から、この蒸気を飛行船の動力に利用しようと考えたのがジョージ・ケリーだ。そして、最初に飛行船飛行を実現したのはフランスのジファール(1852年9月24日、長さ44m)。以降ドイツ・ツェップリン社の飛行船の歴史となり1900年に1号機が完成、1928年には22日間での世界一周も成功し、大いに人気を集めた。

 しかし残念ながら1937年ヒンデンブルク号は大爆発を起こす。これを機に燃料は水素からヘリウムに変わろうとするが、事故の衝撃は大きく、一時期飛行船の時代は終焉する。

 そのほか、気球の映画なら「素晴らしい風船旅行」(1960年、アルベール・ラモリス監督)。北フランスから花の都パリ~ブルターニュ地方を経てアルプス・モンブランを越えていく姿は優雅であるとともに、撮影技術が素晴らしい。ラモリス監督は撮影のために搭乗したヘリコプターが墜落し事故死されている。

 飛行船の映画なら「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」(1989年、スティーブン・スピルバーグ監督)。ヒットラー総統と偶然出会ったジョーンズ親子が、ナチスドイツから脱出を図るのに飛行船を利用する姿が描かれている。

 また事故そのものを描いた「ヒンデンブルク」(1975年、ロバート・ワイズ監督)もある。1937年5月6日に全長245mの飛行船がわずか34秒で墜落炎上した20世紀最大のミステリー作品だ。

 

 飛行機の映画なら「翼よ!あれが巴里の灯だ」(1957年、ビリー・ワイルダー監督)。ニューヨークからパリへ(5,810km)、24歳の郵便飛行士リンドバーグが単発のプロペラ機で大西洋無着陸横断飛行に挑戦する。セントルイスの出資者が“君の冒険に出資するのでなく、君がもっているスピリットに出資するのだ”と告げたことから原題は“スピリット・オブ・セントルイス”。国内で原題どおりに公開されたらヒットしなかったかも。あえて邦題とするのも重要なヒット要因であろう。

 1966年、当時活躍していた大相撲・大鵬関一行が欧州巡業をした折、記者が語った言葉が日本のスポーツ新聞の一面を飾っていたことを思い出した“親方よ!あれがパリの灯だ”。

(雑誌「型技術」三十郎・旅日記から電子版向けに編集)

(2018/10/20 06:30)

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