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第41回フレッシャーズ産業論文コンクール/入賞者座談会

(2018/12/21 05:00)

 日刊工業新聞社は「第41回フレッシャーズ産業論文コンクール」(経済産業省・日本商工会議所など後援)の上位入賞8人による座談会を、11月26日に都内で開いた。論文を書いて気がついたこと、社会人になって実感していること、これからの目標などについて率直に意見交換した。

■やってみよう

司会 皆さん、受賞おめでとうございます。これからそれぞれの論文について伺います。まず菅田さんの論文ですが、「新入社員の取扱説明書」との副題は秀逸ですね。これをテーマにしたきっかけを教えてください。

  • 菅田さん

菅田 就職活動を振り返ると「楽しそうな会社だけど、ここで働くイメージが湧かない」といったことがありました。また仕事が楽しいという気持ちがある一方で、大変だしやりたくないという気持ちもありました。こうした働くことへのネガティブな気持ちを明らかにしたいと思いました。

司会 それで「やりたくないこと」について考察したのですね。やりたくないこととの向き合い方は変わりましたか。

菅田 なぜ自分は「やりたくない」のかがわかり、「やりたい」とまではいかなくても、「やってみよう」という姿勢に変わりました。実は論文を読んだ上司から「具体的にやりたくないことがあるのか」と聞かれました。正直に話したところ「今の仕事は、将来のこの仕事につながっている」などと教えてくれました。こうしたことも向き合い方が変わるきっかけになりました。

司会 なぜやりたくないかを明確にすることで、やる気になる道筋を探れるというわけですね。

菅田 はい。やりたくないと言うだけでは、相手も「皆、やりたくないことをやっている」となってしまいます。やりたくない理由などを伝えることで「ならば、考え方をこう変えたらいいのではないか」といった建設的な会話ができるようになると思います。

■ボスを倒す

司会 澤田さんはロールプレイングゲーム(RPG)の楽しさを、仕事に取り入れることを提案しました。視点がユニークですね。

  • 澤田さん

澤田 課題である雑魚敵や中ボスを倒し、それが「経験値」や「能力値」になって、目標であるラストのボスを倒す。こうした考え方で仕事を攻略できたら、おもしろいだろうなと思いました。学生時代の部活や研修を振り返りながら「つらかったことが、いい思い出になっているのはなぜだろうか」「苦しいことでも乗り越えられるのではないか」などと考えながら書き進めました。

司会 香料研究所に配属されたそうですね。最初に倒すべきボスは何ですか。

澤田 数千種類もある香料を覚えることです。これを覚えない限り、クリエーションできません。例えば歯磨き粉にレモンの香りをつけるとしても、産地によって違うし、同じ産地でも成分を数%減らすだけで全く違うものになります。毎日、5―6種類の香りを嗅いで、感じたこと、産地、精製方法などをノートにつけて覚えたり、自分なりのテストをしたりして、経験値と能力値を上げています。

司会 楽しみながら攻略していますね。

澤田 私は好奇心が旺盛で、新しいことをやってみたいと思っていました。自分の感性を形にできる仕事なので、やりがいがあります。

■見つめ直そう

司会 山渡さんが「伝統」に着目したのはなぜですか。

  • 山渡さん

山渡 きっかけは日本の伝統工芸に興味を持つ外国人の方を支援するテレビ番組でした。これを見て、自分の専門である工学のモノづくりと伝統の技を結びつけて考えるようになりました。また昨年まで5年間、米国で過ごしており、海外から日本を見て「自分は日本が好きだ」と感じていました。こうした気持ちを表現できると思って伝統のモノづくりを取り上げました。海外で「日本のことを知っていますか」と聞かれても答えられないが人が少なくないと思います。このため、自分の国を見つめ直そうという思いもありました。

司会 論文を書いて、あらためて感じたことはありますか。

山渡 現在は開発部に所属し、X線の測定器を担当しています。これからいろいろなモノを開発するために、何を大切にしたらいいのか、少しだけ手がかりが見えてきたような気がしています。お客さまに届けるモノが100台あれば、その100台とも正常に稼働しなければならない。そのためには品質管理を徹底しなければならない。こうしたことを強く思うようになりました。

■仕組みづくり

司会 宮原さんは基礎研究と応用研究について論じました。日本の国際競争力を向上する上でも重要なテーマですね。

  • 宮原さん

宮原 大学で流体に関する基礎研究をしていました。ただ、就職活動で自分の研究をアピールした際、「面接官の受けが悪い」と感じたことがよくありました。こうした経験をしたため、企業側の意識改革について書こうと思っていました。しかし、先輩方と話をすると、本当は企業側も基礎研究をやりたいと思っていて、軽んじているわけではないことがわかりました。そこで基礎研究と応用研究をどう共存させるか、この仕組みづくりが大切だという見解で書き進めました。最初は学生側からの視点だけでしたが、企業側の意見を聞いて方向転換できたことがよかったです。

司会 共存の仕組みの一つに産学連携がありますが、うまく機能させるためには何が必要だと思いますか。

宮原 企業側から研究機関側に持ち込む共同研究は応用研究が多いと思いますが、それでは大学が下請けになってしまうことがあります。そうではなく、研究機関側から企業側に持ちかけ、興味や関心を優先した共同研究をしていけると、基礎研究が活発になり、さらにそれを応用研究につなげることで、うまく機能すると思います。

■できることは

司会 川口さんはコミュニケーションについて考察しました。学生のころと社会人になった今では、何が変わりましたか。

  • 川口さん

川口 学生のころは、話がうまかったり、話していて楽しかったり、会話を盛り上げるようなことがコミュニケーション能力だと思っていました。しかし、社会人になると、こうした要素のほかに、自分の伝えたいことをうまく伝えられる能力や相手から話を引き出す能力もコミュニケーション能力の一つだということに気がつきました。相手は同期や先輩だけではなく、経営者からのコミュニケーションもあります。さらに私の会社では、お客さまの要望を受けてシステムを開発します。知識がないお客さまであったとしても、真の要望を聞き出せることがコミュニケーション能力であると学びました。

司会 「何かできることがありますか」の一言で、たくさんの気づきを得られました。

川口 コミュニケーションを深めるような意図はなく、工場実習で生産ラインが止まった時に、ただ「何かできる作業はあるかな」というだけのことでした。しかし、結果的にコミュニケーションにつながって信頼関係が生まれました。質問しやすくなりましたし、仕事も任せてもらえるようになりました。困った時、誰に頼ればいいかもわかるようになりました。

■求められる質

司会 眞壁さんは大企業と中小企業の格差の視点を中心に論じました。中小企業だからこその良さは、どこにありますか。

  • 真壁さん

眞壁 大企業とは賃金や福利厚生などで格差があり、かなわない面がたくさんあります。ですが、中小企業は社員数が少ないため、一人ひとりが会社に与える影響が大きいのが魅力です。自分の技術を生かして頑張った成果が、会社の成果にストレートに結びつきます。こうしたことを実感できれば、一人ひとりのモチベーションも上がると思います。

司会 働いていて実感していることはありますか。

眞壁 やはり質が求められることです。学生時代は自分のための勉強でした。しかし、仕事はお客さまのためであることが前提です。現在は企業向けアプリケーションソフトの開発を担当しています。当然、中途半端なソフトを届けるわけにはいきません。また企画書などの資料ひとつとっても、誰にでもわかりやすくする必要があります。いろいろな面で質が求められることを実感し、意識が大きく変わりました。

司会 論文では働きやすさの重要性も指摘されました。今の職場はいかがですか。

眞壁 満足しています。私は働きやすさを重視して就職活動していました。説明会で先輩との交流のほか、社長と会話する機会も設けられており、社の雰囲気をつかめました。それで入社を決めました。

■読んでほしい

司会 柏崎さんは身近な読書をテーマとし、話を広げました。

  • 柏崎さん

柏崎 配属された部署の「やってほしいリスト」の中に「本を読んでほしい」とありました。それがなぜなのかと考えた時、仕事の内容はもちろん、それ以外の知識や教養を身に付けてほしいということだと思いました。ただ、それだけでは個人だけの価値になってしまう。ならば学んだことを発表したらいいのではないかなどと、発想を膨らませました。

司会 読書をイベントにする発想が豊かですね。論文を書いて気がついたことはありましたか。

柏崎 論文の内容ではありませんが、自分が考えたことや言いたいことを伝えるのは難しいと痛感しました。論文を先輩に読んでもらいましたが、最初は伝わりませんでした。どう文章で表現したらいいのか、構成をどうするか、何回も書き直してやっと仕上げました。

司会 確かに正確にわかりやすく伝えるのは難しいことですね。

柏崎 相手によっても変わります。友人や家族であれば一言、二言で伝わりますが、仕事となると、お客さまはもちろん、先輩や上司にもうまく伝えるのは難しいと感じています。それだけに、お客さまへのメールでも、どう書いたら正確にわかりやすく伝わるのかを考えるようになりました。

■優秀な人材は

司会 小泉さんは産業界で喫緊の課題である人手不足を取り上げました。

  • 小泉さん

小泉 売り手市場と言われていますが、それでも就職活動に失敗する人もいる。このため企業が不足と感じているのは優秀な人材であると仮定し、では優秀な人材に求められることは何かを考察しました。

司会 その解が探求心と創造性だったのですね。

小泉 学生のころはテストなどのために勉強し、正解も決まっていました。しかし、仕事では、問題があっても正解が書いてあるわけではありません。自分で物事の本質を理解し、さらに応用しなければ問題を解決できず、立ち行かなくなる。このため探求心と創造性が求められると思いました。

司会 ほかに学生のころと違うと感じることはありますか。

小泉 学生のころのコミュニケーションと、社会人になってからのコミュニケーションとは違うなと感じます。仕事でわからないことを質問した際、「何を聞きたいの」と言われたことがありました。学生のころみたいに「ここを教えて」ではだめで、「こうしたいのですが、ここがわからない」などと、質問の理由や目的をはっきりさせないといけない。どうしたら上手にコミュニケーションできるかを考えています。

■将来像を描く

司会 それでは最後に皆さんの目標や将来像について伺います。まず菅田さん、よろしくお願いします。

菅田 上司が私の気持ちをくんでくれたように、私も新入社員の気持ちがわかる先輩になりたいですね。新入社員の考え方を理解し、相談に乗ってあげられるといいなと思います。やりたくないことを言いやすくして話し合える職場づくりも大切にしたいです。こうした考えが論文として残っているので、何年たっても原点に立ち返れると思います。

司会 澤田さん、お願いします。

澤田 「この香りは自分がつけた」と、自信を持って言える製品をつくることです。ラスボスを倒した後に“世界平和”が訪れるといったゲームであれば、自分が手がけた製品に対し、お客さまからお褒めの言葉をいただくことが最終目標になりますね。一人前になるには10年かかると言われていますので、もっと修行し、創造性を発揮できる研究者になりたいです。

司会 山渡さん、よろしくお願いします。

山渡 職人たちが魂を込めてモノづくりをしてきたからこそ、メード・イン・ジャパンのブランドが確立されたのだと思います。モノづくりをする上で、こうした魂をしっかりと引き継いでいきたいですね。ただ世界は変化していくので、引き継ぐだけではなく、そこから新しいモノを生み出していくことが大切です。積み上げることを意識しながら製品を開発したいです。

司会 宮原さん、お願いします。

宮原 担当は機械設計ですが、現在は生産現場で研修しています。設計と生産の双方の視点で製品と向き合っていると、それぞれ抱えている課題が違うことがわかりました。双方の課題を解決しながら、お客さまが使いやすい製品を開発したいです。これから応用研究にも取り組めると思うので、少しでも技術発展に貢献できる技術者になりたいです。

司会 川口さん、お願いします。

川口 仕事を続けていく上で、自分が成長することをモチベーションにしています。自ら積極的にコミュニケーションすることが、成長しやすい環境づくりにもつながると思います。IT業界は日進月歩で技術が高度化しているため、今日の知識が完璧だとしても、明日には古くなるかもしれない。それだけに、向上心をずっと持ち続けたいですね。

司会 眞壁さん、お願いします。

眞壁 先輩方は皆、知識が豊富で、アプリケーションソフトの開発などを一人でこなせる実力があります。私の上司も「ネットワーク関係ならこの人」と、頼られる存在です。私も頼られる技術者になりたいですね。プログラミングはもとより、コミュニケーションや提案といった開発に必要な能力を、総合的に身に付けたいと思っています。

司会 柏崎さん、お願いします。

柏崎 まず仕事でミスをしないこと、仮にミスをしても自分で挽回できるようになることが最初の目標です。現在は先輩から指示を受けて仕事をしていますが、経験や知識が不足していることを痛感しています。もっと本を読んで知識を増やし、いろいろな考え方を取り込みながら、将来は上からも下からも信頼されるような存在になりたいですね。

司会 小泉さん、お願いします。

小泉 自分の意見をはっきりと言えるようになりたいです。何も考えずに指示に従うだけでは、ただ作業するだけの人間になってしまいます。例えば改善すべきことがあった場合に「こうしたやり方もある」などと提案し、それを認めてもらえるようになれば、モチベーションが上がるし、知識が付いてきたという実感も湧いてくると思います。

司会 皆さんが大きく成長し、それぞれの目標を達成することを願っています。本日はありがとうございました。

■出席者

ヤマハ発動機 菅田健吾さん

  I部/第一席・経済産業大臣賞「新入社員の取扱説明書」

ライオン 澤田奎太さん

  I部/第二席「仕事攻略・ゲームな世界」

堀場製作所 山渡翔太さん

  I部/第三席「企業が守る伝統のものづくり」

堀場製作所 宮原晃平さん

  I部/第三席

  「基礎研究と応用研究のサイクルによる技術発展」

ヤマハモーターソリューション 川口祐史さん

  II部/第一席・日本商工会議所会頭賞

  「コミュニケーションの効果」

エム・ソフト 眞壁大成さん

  II部/第二席

  「大企業と中小企業の格差から見る、中小企業の在り方」

MCOR 柏崎優也さん

  II部/第三席「企業による読書のすすめ」

エム・ソフト 小泉龍也さん

  II部/第三席「未来を見据える企業」

司会 日刊工業新聞社編集局科学技術部 安川結野

入賞論文は日刊工業新聞(2018年11月26日付)、ホームページ(http://biz.nikkan.co.jp/fresh/)に掲載しています。

(2018/12/21 05:00)

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