環境共生型社会実現目指して ランドスケープデザインの横断的な役割【地球環境特集より】

(2020/2/28 05:00)

 近年、地球レベルで急速に進む気候変動に起因する大型台風などの自然災害が多発している。既存のアプローチや対策法を根本的に見直す時期に来ているのではないだろうか。気候変動の根本的な解決策を見つけることも重要であるが、一方で自然と都市のあり方を再考し、安全かつ健康的に生活できる環境を整えていくことも必要だと思われる。SDGsが注目される背景には地球環境と人類のバランスが崩れだしている現状があり、そのバランスを均衡するためにどのような行動をとるべきか問われている。世界ではこれらの新しい課題に対し、ランドスケープデザインに注目が集まっている。

  • office maがランドスケープ設計を手がけたパビリオン「万花筒」

多様な側面考慮

 私はランドスケープデザインの専門家として米国で学び、現在はサンフランシスコと東京を拠点に活動している。一般的に我々の仕事は美しい庭園や整備された景観をつくることで生活環境を豊かにすることだと思われがちだ。しかし米国では都市計画、建築、生態学、地質学、自然科学、ファインアートなどを横断するように位置づけられている。自然環境と呼応し多様な要素を総合的に扱う分野であり、その対象はスケール、タイプともに多様である。

 ランドスケープアーキテクチャーの父と称されるフレドリック・オームステッドは、150年以上前にニューヨークのセントラルパーク、サンフランシスコのゴールデンゲートパークやボストンのエメラルドネックレスなどの都市公園を計画、設計している。これらは都市に貴重な生態系を築き、自然環境を提供するだけではなく、公衆衛生の改善や水害を防ぐグリーンインフラとしての機能も有し、多義的なプロジェクトとなっている。

 このようにランドスケープデザインは、都市スケールで環境と向き合うことで、全体を俯瞰(ふかん)しながら都市、エコロジー、エネルギー、防災など、さまざまな側面を考慮した上で、バランスを保ちながら時間とともに成熟していく環境のフレームワークを構築してきた歴史を持っている。

環境と社会のバランス崩れる

 近年、大規模な水害が多発している米国では、ニューヨークを含む大都市で、防潮堤などの部分的な対策ではなく、都市全体のマスタープランを見直すことで、災害に強い都市を構築していこうとする新しい試みが出てきている。このような取り組みの中では、都市計画、建築、土木といった個々の専門分野に比べ、これらを包括的に扱うランドスケープデザイン的視点が有効だと考えられはじめた。実際、ランドスケープデザイナーが主導権を取りながら都市構造を再考していくことで、これまで見過ごされていた要素などを取り上げ、より環境と向き合った都市の構築が進められている。

 現在、我々が多数のプロジェクトに携わっている中国においても、同様にランドスケープデザインへの期待は高まっている。急速に経済成長と都市化を続ける中国では、洪水や水不足などの問題が深刻化している。これらは自然資源や環境と社会のバランスの崩れが原因だと認識されている。

 これらの問題に対して中国では、スポンジシティーという再生水利用を含めた雨水管理を徹底した災害に強い都市を目指す国策が立ち上げられた。これは、包括的かつ総合的な都市スケールの解決策を模索しようとする取り組みである。ランドスケープデザイン的な視点でこれまでの都市を見直すことにより、水資源の管理、循環、保護を目的とする新たな自然型インフラ(グリーンインフラ)を都市の中に構築することを目的としている。

 ただし、このような取り組みは歴史が浅く、行政側の専門知識や具体的な取り組み指標などが欠如しており、スポンジシティーの実現に向けた具体的な施策や解決策は、ランドスケープデザイナーからの提案に期待されている部分も多い。

雨水管理で災害対策

 我々は去年開催された北京花万博において、民間デベロッパーである万科(広東省)がスポンサーとなったパビリオン「万花筒」の設計に携わった。ここでは本来ランドスケープが持つ機能性に着目することで、今後のスポンジシティーの可能性を実験的にデザインする機会を得た。同万博は自然環境を尊重する姿勢を養い、環境共生型社会の実現を目指すというコンセプトのもと開催された。

 我々が担当した「万花筒」では、植物が持つインテリジェンス(知)をテーマに、館内で人工的に復元されたマングローブ生態林を含む植物園が展示された。外部空間においては、地面が持つインテリジェンス(知)をテーマにした「スマートトポグラフィー」というコンセプトのもと、教育的な要素を含むランドスケープを通して環境共生の形を提案することにした。

 プロジェクトを進めるにあたり、まず敷地周辺の気候や年間降水量、地下水、地質などについて調査をすることで、このエリアが乾期の間に水不足となること、土壌の大半が粘土質であること、比較的高い地下水位が雨水の地下水涵養を困難にしていることが分かってきた。その結果、最適な環境共生の取り組み方針を“ネットゼロウオーター”と位置づけ、雨期の間に降る雨を効果的に貯水し再利用するためのランドスケープを提案することにした。

 ネットゼロウオーターの実現にむけて地形を丁寧に造成することで、敷地内の雨水を効果的に集水、貯水、そして循環させることができると考えた。そこで雨水や人の動き、そして植生や動物の成長をコントロールする「スマートトポグラフィー」というインテリジェンスの詰まった地形のコンセプトを考案した。

 まず、航空写真を通してさまざまな地形とそれらを覆う植生のパターンを調査することで、地形の特徴とその機能性の関係を理解することを試みた。次に、モデリングクレー(粘土)を使い、敷地内に雨水の流れをイメージした流動的で美しい彫刻的な地形デザインを創りあげた。

 この作業は我々ランドスケープデザイナーにとっては極めてアート的な側面のプロセスである。その後、この地形が持つ機能性を科学的に解析するために、クレーモデルをデジタル3D化し、ウオーターエンジニアとの協同を行った。ここでは、アートと科学の融合的なプロセスとして、地形の改良と解析シミュレーションを繰り返すことで、ネットゼロウオーターに最適であり、かつ風景としても美しい地形にたどり着くことができた。

 我々は、このエキスポという特別な場所において、都市が抱える問題や環境問題について考えるきっかけをつくり、美しい風景や景観のみならず、アクティブに環境に対応し機能するスマートなランドスケープを創ることで訪れる人たちに学びの場所を提供することができたと感じている。

 ランドスケープデザインはそれぞれの要素がお互いを抑制するのではなく、よい影響を及ぼし合いながら、お互いにとって適切なバランスを保つことを目的とする。表層的な美しさだけでなく、その場所が織りなす美しい関係性をも描くことができる。人類がどのように地球環境と呼応しながら行動するべきかを問われている昨今、ランドスケープデザインには多くの可能性があると感じている。

【執筆者】

 office ma

 創業者 クリエイティブディレクター

 オウミ アキ氏

 【プロフィール】

 16歳で単身渡米、オハイオ州立大学でランドスケープを学ぶ。卒業後、Hargreaves Associatesに入社。ハーバード大学院に進みランドスケープアーバニズムを学ぶ。在学中にStoSS Landscape Urbanismを設立。2003年にEDAWに入社、六本木ミッドタウンプロジェクトに参加するなど、活動の場をアジアに広げる。その後、サンフランシスコにてoffice ma創設。19年、東京オフィスを設立。

(2020/2/28 05:00)

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