3DCADは製品開発全体を支援するツールに

(2020/7/2 05:00)

業界展望台

3Doors 代表取締役 高橋和樹

3次元CADで設計を高度化

1990年代に設計業務に3次元(3D)CADが使われ始めてから30年以上たち、モデリングのための道具から製品開発全体を支援できるツールにまで進化した。作製される3Dモデル(部品、アセンブリー)にも設計意図や会社の設計ルール、ノウハウ、検図情報などが埋め込まれることで、設計精度を向上できる。またゼロからの構想設計では、2D計画図から3D設計までを3DCADで全て行える設計手法も確立され、設計業務全般を支援するツールになった。

3DCADで設計するメリット

2DCADでは図形を描いて設計を行い、設計検証は試作品を手配して行うため時間がかかった。3DCADは部品自体を仮想空間に作製し、試作品として設計検証に利用するため、試作品を手配する時間が削減できる。CAD上で複数の設計案で試作確認が行えるので、手戻りの削減、製品開発期間の短縮、設計精度の向上を図ることができる。

また、3DCADは設計部門以外で活用すればさらに真価を引き出せる。生産技術部門は各種治具や金型を準備するが、設計初期段階から設計部門と3Dモデルを共有すれば、早期に製造準備を行える。治具や金型の観点から設計者にアドバイスをフィードバックすることで、設計の高度化も支援できる。

営業部門では、顧客との仕様打ち合わせなどで3Dモデルを利用すれば、2D図面での打ち合わせで発生する認識の乖離(かいり)を防止できる。2D図面は3面図から3D形状を想像する必要があり、個人のスキルにより認識にバラつきが生じるが、3Dモデルは誰が見ても共通認識になる。さらに、3DCADにはコンピューターグラフィックス(CG)機能もあるのでリアルなカタログ写真を作成して営業で活用できる。

構想設計から詳細設計まで活用

3DCADを構想段階から活用するメリットは大きい。

一つ目の大きなメリットは、設計検証の前倒し(フロントローディング)だ。従来は3Dモデルが完成した後に試作確認と同様にコンピューター利用解析(CAE)による強度解析を行っていた。これでは問題が発覚した場合に構想設計からやり直す必要があり、3DCADのメリットを生かすことができない。構想段階から大まかな部品形状を3DCADで設計すれば、CAEを早期に利用でき、構想設計の方向性に定量的な理由づけができる。

二つ目のメリットはナレッジの保存と活用だ。2DCADの成果物は部品図と組み立て図だが、設計の経緯やノウハウ、検討結果などのナレッジは保存されない。従って、新米設計者が製品開発のナレッジを受け継ぐことが難しくなった。従来はベテラン設計者から伝承されたが、開発期間短縮が求められる現在では、教える時間が取れないことも影響している。

3DCADは世界中の設計者からの機能要求を受け、ナレッジ分野の機能も充実している。製品アセンブリーを開けば、構想計画図、技術計算書、品質機能展開(QFD)、故障モード影響解析(FMEA)などのナレッジにすぐにアクセスできる。また、設計ルールも埋め込まれるので、設計変更時にルールを逸脱すると3DCADが警告を出し、設計者に注意喚起してくれる。

このように3DCADのナレッジ機能は、会社の財産であるこれらの情報を後世に伝えることができる。

ゼロから3DCADで構想設計

3DCADで設計するメリットを生かすためには、設計プロセスの全てを3DCADで行う必要があるが、現状はゼロからの構想設計は2DCADを使用している企業も多く見受けられる。その理由は部品形状が決まっていない段階では、3Dモデルを作製できないからだ。また、機構構想設計の場合は機構学の教科書にあるように部品(リンク)を1本の線で表現して検討するので、どうしても2DCADを利用することになる。

しかし、3DCADを最大限に活用するためには、2D図面を3Dモデルに作り直す手間を削減する必要があり、これができないと設計者の負荷が2D設計より多くなる。

これらの課題を解決するために3DCADのスケッチ機能を活用し、2D構想図を3Dモデル内に描くことで、そのまま3D設計の基準として利用できる。さらに、3DCAD特有の幾何拘束機能は元来2D機構設計用に開発されたツールであり、2DCAD以上に機構構想設計の精度を高めることができる。

次に設計プロセス全体で3DCADを活用する際の手順を記す。

【ステップ1】

3DCADのスケッチ機能で構想計画図を描く。この時点では部品、ユニットなどの形状は簡略的にしてレイアウトの概要がわかるレベルに留める。

  • ステップ1 3DCADで描いた2Dの機構構想図

【ステップ2】

アセンブリーを作製して構想計画図に3Dの部品を配置し詳細設計を行う。初期の部品形状は四角形などの概略形状から開始して、ほかの部品との取り合いを考慮しながらモデリングを進める。

  • ステップ2 構想図に配置された3Dの構想段階の部品

【ステップ3】

設計途中に設計検証を行う。CAE、干渉確認、衝突確認で設計途中から設計品質を高めていく。

また、QFD、FMEAの情報も3Dモデルに埋め込み、ノウハウを保存する。

  • ステップ3 3Dデータに埋め込まれたQFDの資料

 ◇  ◇ 

現在の3DCADは設計プロセスを全般的に支援する機能が備わっているので、設計の高度化を図ることができる。重要なポイントは設計プロセスにCAD機能を的確に割り当て設計の高度化を実現することだ。

注目の製品

■EPLAN 電気設計のプラットフォーム

  • 設計データと現場をつなげるソリューション「EPLANeVIEW」

EPLAN ePulseはクラウド環境を活用することで、企業・部署・チームの垣根を越え、電気設計のデータを活用できるネットワーク基盤。エンドユーザーから機械・設備メーカー、部品メーカーに至るサプライチェーンを構築し、世界中のデータやプロジェクト、技術分野、そしてエンジニアリングを統合する。

新開発の専用アプリ「eVIEW」により、現場の技術者がタブレットで部品に貼付されたQRコードを読み取ると一元管理されたデータにアクセスし、設計の修正・変更のほか、コメントを書き込んで共有することもできる。

将来を見据えたオープン・デザインであり、さまざまなデータ形式や他のプロバイダーによるシステムのインターフェースが利用可能。保存したプロジェクトデータは、企業の社内製造にとってのシステム仕様書になり、同時にデジタルツイン(仮想環境)環境下でのユーザー文書管理などに活用できる情報になる。

■CGTech 画像品質向上、現実に近く

  • Force-Turningは旋削加工でもNCプログラムを最適化できる

CGTechは工作機械の実際の動作に基づいてコンピューター上でシミュレーション加工するソフトウエア「ベリカット」の最新バージョンを6月1日に発売した。グラフィックエンジンの改良で画像処理を迅速化して作業時間を短縮。現実に近い切削加工シミュレーションができる。

難度の高い加工や作業時間短縮のニーズに対応するため、グラフィック機能を向上した。切削中に加工対象物(ワーク)を素早く拡大・回転でき、現実には見えない加工工程を目視できる。透過度の変更も可能で、複雑な設計の構造物内部を表示し、削り過ぎや削り残しを確認できる。オプションである独自の送り速度最適化機能「Force」で、切削時間の短縮、切削負荷の低減、機械や工具の寿命向上が見込める。

また、機械・治具・ワークなどをパーツごとに色付けし、アルミニウムやチタンなど現実的な質感や光沢を付与できる。加工前に納入先と完成イメージを共有することも可能。

■コダマコーポレーション 超高速CAD TopSolid

  • トップソリッド・キャムは工作機械や加工方法別に導入されたCAMシステムを統一する

コダマコーポレーションの「TopSolid(トップソリッド)」シリーズは、3D/2DCAD、金型設計、部品加工までを統合したシステムで、手戻りのないモノづくりを実現する。

「トップソリッド・デザイン」は製図、技術計算、キネマチック・シミュレーションやレンダリングまでをも統合した3DCAD。数万点の大規模アセンブリー設計を可能にする超高速処理、豊富なサーフェスモデリング、強力な解析、加工情報が定義された標準部品ライブラリー、日本産業規格(JIS)や国際標準化機構規格(ISO)に準拠した図面作成の機能は高品質な設計を実現する。

「トップソリッド・キャム」は2軸、穴開け、旋盤から、複合加工や同時5軸加工までをカバーする3DソリッドCAD/CAMシステム。工作機械や加工方法によって導入されたCAMシステムを統一できる。3DCAD機能が中間公差の加工モデルの作製や治具の設計を支援する。

■クリエイティブマシン 一品物の装置・治具設計に

  • 「IRONCAD」で3D設計した、ロボットを組み込んだ製造設備の設計図

生産技術分野や中小企業の機械装置設計の現場では、「3DCAD導入に失敗した」という声が少なくない。多くの3DCADは量産製品設計向けに開発されており、自動機や治具などの一品物の装置設計には向いていないことがその一因に挙げられる。

クリエイティブマシンが販売する3DCAD「IRONCAD」は、一品物の装置・治具設計用途でその優位性を発揮する。初心者でも使えるほど操作が容易で、設計者全員が装置・治具の3D設計を素早く実現できる。

さらに次のステップでは、過去の2Dデータをどのように3Dモデル化するかという課題がある。新たなオプション製品「3DGenerator」は、2DのDXF形式データを自動で3Dソリッド化する機能を持つ。これにより膨大な2D資産を新たな3D環境で活用することが可能となる。「IRONCAD」の活用によって操作性・データ環境の両面で3D設計の推進が期待される。

■ゴードーソリューション 機能を2D特化、操作性重視

  • 国内メーカーならではの使いやすさを追求した「ナスカ・プロシリーズ」

ゴードーソリューションはCAD/CAMや加工シミュレーション、数値制御(NC)プログラム通信ソフトなどNC工作機械用ソフトの国内メーカー。開発から販売・サポートまで全てを行う。

1996年に販売を開始した2DCAD/CAMソフト「ナスカシリーズ」に始まり、累計約5万1000本の販売実績を持つ。同ソフトは2Dに特化した機能と、イラストを使った分かりやすいコマンドボタンや操作案内表示など使いやすさを重視。手入力でNCプログラムを作成していた初心者でも、短期間で使いこなせるシンプルな機能と直感的な操作性を備え、業務負担を軽減する。

また、2019年よりサブスクリプション提供を開始。これにより導入費用の大幅削減、人員の増減や生産状況に合わせたコストの見直しなどユーザーの「ほしい時にほしい分だけ」の要求に対応する。同社のCAD/CAMソフトは、使いやすさと低価格で、事業コンセプトである中小機械加工業のIT化に貢献する。

■NTTデータエンジニアリングシステムズ クラウドサービス無料提供

  • 「Space-E/5Axis」の5軸荒取りデータを使い5軸加工機で切削している様子

NTTデータエンジニアリングシステムズ(NDES)は「クラウドが、ものづくりを変革する」をテーマに製造業へクラウドサービス「Manufacturing-Space」(MS)を提供する。昨今の新型コロナウイルス感染症の影響により、製造業も在宅勤務の検討、対応に取り組んでいる。MSはデータをクラウドに保管し、クラウド版CAD/CAMシステム「Space-E」を活用できる。MSユーザーからは「在宅勤務を実施できた」という声も聞かれる。現在、NDESでは、新型コロナウイルス対策の支援として、MSの無料提供を行っている。

5軸荒取りデータの自動作成機能を搭載する「Space-E」は、金型製造業の課題である加工や段取り替え時間の削減を実現する5軸加工機のデータ作成が容易である。問い合わせは(03・5711・5331)へ。

(2020/7/2 05:00)

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