フルハーネス/墜落制止用器具 特別教育受講し安全作業

(2020/8/20 05:00)

業界展望台

高所作業に従事する作業員は安全帯の着用が欠かせない。2019年2月1日から、安全帯の名称が「墜落制止用器具」に変更され、胴ベルト型からフルハーネス型を使用するように制度改正された。現在は移行期間として胴ベルト型もフルハーネス型も使用できるが、22年1月1日からは作業環境によっては現行法での胴ベルト型墜落制止用器具を使用できなくなる。

フルハーネス型が原則に

  • サンコー製「江戸鳶 ETN-10A-DEB型」。伸縮ストラップ式ランヤード付きフルハーネス。腿ワンタッチバックルと肩パッドを標準装備

墜落制止用器具とは高所作業中、何らかの事態が発生した際に、作業員が地面へ墜落するのを阻止するための安全ベルトを指す。強風であおられたり、熱中症や不注意などによる高所からの墜落・転落災害は毎年発生しており、18年は2万人以上の死傷災害が発生している(厚生労働省発表)。こうした事態に対し、万が一の転落時にも人命を救うのが、このほど名称が変更になった「墜落制止用器具」である。

これまでは胴ベルト型の墜落制止用器具が普及していたが、落下時の胴体への負荷が大きく、墜落こそ免れたものの、内臓損傷や胸部圧迫などによる致命的な傷害事案が多数発生していた。

  • サンコー製「Comfort EHCN-10A-DM型」。ストラップ巻き取り式ランヤード(D環直結タイプ)付きフルハーネス。腿ワンタッチバックルと肩パッドを標準装備

この胴ベルト型に代わる墜落制止用器具が「フルハーネス型」だ。作業員の肩、腰、腿(もも)などの複数箇所をベルトで保持することで、落下時にかかる衝撃を分散できるような機構になっている。

高さ2メートル以上の高所作業では、足場や手すりなどの作業床を設置することが義務付けられている。しかし、現場によっては作業床の設置が難しい状況もある。電気・通信柱などの柱上作業、送電線架線工事、屋根上作業、建設現場の鉄筋組み立て作業や、屋内外での大型イベント・舞台設備の設置作業などは作業床を設けることが難しい現場と言えよう。

このように作業床が設置できない現場や、作業床があっても6.75メートルを超える高さでの作業時はフルハーネス型の墜落制止用器具の着用が原則となる。

また、フルハーネス型ベルトの着用が義務となる作業者は、安全衛生特別教育(学科4.5時間、実技1.5時間)を受講しなければならない。作業者が所属する企業で専属・派遣講師による特別教育を実施する場合もあるが、各種安全衛生関係団体などでも特別教育を開講している。新型コロナ禍の中、各団体とも密を避けるために定員を50%以下に抑えたり、リモート講習を実施するなどの工夫をして受講者ニーズに応えている。

  • 受講生の密を避けるために、定員を大幅に下げた中で開講された講習会。連日多くの作業従事者が受講に訪れる(技術技能講習センター)

「“助かって良かった"がフルハーネスの最終ゴールだ」と語るのは技術技能講習センターの佐治良之輔社長だ。同社は「今の現場」を知っている講師陣による特別教育を強みとし、全国での出張開講も実施する。実技では実際のフルハーネスを20種ほど試着できる上、ぶら下がり体験を実施している。

フルハーネスはつり下がり時にベルト部分、特に腿部のベルトが自重により食い込むことで血液循環が悪くなり、血栓ができる恐れがある。これは急性肺血栓塞栓症など、命に関わる急性疾患を引き起こす原因となるため、救助されるまでの間の過ごし方が肝要だ。同社ではつり下がりながら足先を動かす方法など、救助方法も並行してカリキュラムに取り入れる。

機能やデザイン 多様に

フルハーネスは身体にぴったり合ったものを着用するため、他者との共有が難しい。万が一の場面で命を救う“命綱"なので、使い勝手や軽さ、平時の作業のしやすさや安全性、装着感・着脱しやすさなどを念頭に、個人個人にあったタイプを選ぶのが大切だ。汗臭に対する消臭効果をうたう製品、ベルト部分にパッドが入ったもの、反射板を備えたモデルや女性用のフルハーネスもある。安全基準を満たした専用メーカーのフルハーネスを選びたい。

(2020/8/20 05:00)

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