100年経営の会 第10回通常総会

(2021/8/18 05:00)

100年経営の会(事務局=日刊工業新聞社)が今秋設立10周年を迎え、長寿企業の経営理念の発信というメーンの事業について、新たな段階へと進む。このほど開いた通常総会では、5回目となる「100年企業顕彰」を全国規模で開催することとし、オンラインを活用した内外の長寿企業との交流を一段と活発化することも議論された。「コロナ禍でむしろ、日本だけでなく世界に貢献する活動が容易にできるようになった」(北畑隆生会長=元経済産業次官)と、更なる飛躍を図る。

世界がやっと追いつく 100年経営の会会長 北畑隆生氏

100年経営の会が発足した2011年は東日本大震災が発生した年。100年以上続く長寿企業から、自然災害、戦争、経済危機を乗り越えてきた知恵を学ぼうとスタートした。今またコロナ禍という新たな経済的、社会的な危機を迎えているが、会員企業は間違いなく克服する。

コロナ禍の世界は、会社制度のあり方や株主重視の経営について、反省の時期に入っている。会社は株主だけのものか、利益を稼ぐだけの存在なのか、との議論が進んでいる。投資家はむしろESG(環境・社会・企業統治)投資を重視し、国連はSDGs(持続可能な開発目標)を掲げるようになった。

そんなものは江戸時代からあったと、さらりと言いのけるのが当会会員だ。当然のことがようやく世界で始まった。日本も欧米も遠回りをしながら、正常な方向に向かいつつある。

当会の事業は、長寿企業の良さを世界に発信し、研究活動を行い、交流するもの。コロナ禍で総会やシンポジウムもオンラインで行うようになったため、地方で活躍する数多くの老舗企業からの発信が容易となった。さまざまな制約を乗り越えて世界に活動が普及するきっかけをつかんだと感じる。禍転じて福となす、の典型だと思う。

「会社は誰のもの」考える時 日刊工業新聞社社長 井水治博

長寿企業の本質、優れた理念に学ぼうと、これまで活動を続けてきた。日刊工業新聞は「会社は誰のもの」と考えるキャンペーンを展開している。行き過ぎた株主資本主義が企業経営をゆがめていることはないだろうか。当会会員をはじめとする、日本の長寿企業の経営の本質の中に、これからの資本主義が進むべき正しい道があるのではないか、と痛感する。会員の皆さまとともに、より大きな運動としてもり立てていきたい。

通常総会 オンライン発信を活用

海外の長寿企業研究 リトアニアの老舗と交流

7月に開催した第10回通常総会は、オンラインと、少人数の出席者によるハイブリッドで行った。2020年度(20年4月―21年3月)の活動・会計報告、21年度(21年4月―22年3月)の活動計画などについて審議した。

長寿企業経営についての発信や、研究者・会員間をつないだ勉強会を通じた研究事業では、コロナ禍での移動の制約に対応したオンライン開催が、事業の活発化に貢献している。長寿企業経営についての研究成果が内外で評価されている同会顧問の曽根秀一静岡文化芸術大学准教授を中心に、会員企業とのネットワークを構築し、今後は同准教授の研究にも会員からの情報などを活用してもらう。

海外との交流では、台湾の長寿企業経営などについて台湾・亜洲大学と連携して会員企業を対象に講演を行った。また、日本においてSDGsなどを研究する至善館経営戦略イノベーション研究機構のピーター・ピーダーセン教授がシンポジウムに登壇したほか、英国の研究者とのネットワーク作りにも協力した。

さらに、駐リトアニア日本大使館の協力を得て、リトアニアにおける数少ない「100年企業」である、チョコレートメーカー、ルタ社との交流もスタートした。同社は1913年の創立で、旧ソビエト連邦の影響下にあったリトアニアにおいて、ファミリービジネスとしてのチョコレートづくりを継続し、ソ連崩壊後はグローバルに事業を拡大しつつある。

現在も続くファミリービジネスの経営陣は同社のアイデンティティー確立に、日本の老舗企業の理念を役立てようと、100年経営の会へアプローチした。オンラインで結んだ意見交換会では、曽根准教授のリードで日本と世界各国の長寿企業の経営論が展開された。今後同社の日本進出などにもつながれば、といった声が会員から聞かれた。

100年企業顕彰、全国規模で開催 経済産業大臣賞新設

  • 全国で顕彰事業(前回はアシザワ・ファインテック(右)ほかに贈賞)

100年経営の会は、第5回「100年企業顕彰」の募集を開始した。日刊工業新聞社共催で、経済産業省中小企業庁が後援する(予定)。最優秀賞は経済産業大臣賞を贈る。9月末まで募集し、年内に表彰式を催す。

日本に数多い創業100年を超える長寿企業の経営理念に注目し、地域の他企業の範となり、地域の雇用・税収にも貢献する優良企業を表彰する。これまで2015年の中部地区を皮切りに、九州・沖縄地区、近畿地区、関東地区と開催し、昨年は新型コロナウイルスの感染拡大もあり開催を延期したが、復興五輪をうたった東京2020大会とも歩調を合わせ、100年経営の会の10周年も記念して、全国規模で開催することとした。

創業100年以上、1921(大正10)年以前の長寿企業を、企業規模や業種にかかわらず広く募集する。地域社会・経済の発展に寄与している企業を募り、これまでの地区開催で応募・受賞した企業も対象とする。

最優秀の経済産業大臣賞は、2部門で表彰する。大企業をはじめとして日々の事業革新に努める企業を表彰する「事業革新部門」と、中小企業を対象として長年地域に貢献してきたことを評価する「地域共栄部門」を設ける。このほか、中小企業庁長官から表彰予定で、100年経営の会、日刊工業新聞社からも贈賞する。

審査は長寿企業経営やファミリービジネスなどについての有識者を中心とした委員会で厳正に行い、審査基準は、明確な経営理念を策定・実施しているか、顧客を大事にして商品ブランドや企業アイデンティティーを重視してきたか、従業員を大切な資産と考えて長期雇用を基本とし、地域社会に対する貢献活動を実施してきたか、といった項目を財務諸表などとともに提出する。問い合わせは100年経営の会へ。

【記念講演】日本のガバナンス改革の再考(上) アングロサクソン型とライン型

静岡文化芸術大学准教授・曽根秀一氏

通常総会に引き続き、曽根秀一静岡文化芸術大学准教授が「日本のガバナンス改革とものづくりの再構築」と題した記念講演を行った。3回に分け抄録する。(次回は9月掲載)

株主第一主義 英米でも見直しの動き

先日長寿企業の経営のあり方についてレクチャーしたリトアニア・ルタ社との議論の中で、創業家一族が増え、株主保有などが分散していく同社が、存続の仕方について悩んでいることを感じた。日本の老舗が分散を防ぐために培った英知を伝えたところ、非常に関心を持ったようだ。

日本国内でも例えば明治時代に創業したようなゼネコンなどで、創業者の意思をいかにつなぐか、といった社内研修が増えている。コロナ禍で出社しない状態が続く中、若い世代に創業精神などをどう伝えるかは、多くの企業に共通の課題でもある。コロナ禍で原点回帰の動きも見られる。国内回帰や、過去(先人)に学ぼうという考え、存続の重要性への気づき、などだ。

会社は誰のものかという議論は、15年ほど前、フジテレビの買収問題の際にも起こった。今改めて日本のガバナンス改革の再考、あるいは疑問、ということで考えたい。

  • 通常総会と講演会は、オンラインで全国の会員をつないだ

企業統治では「アングロサクソン型」「ライン型」ということがよく言われる。前者は英米型で、株主第一主義であり、株主利益を大切にすれば労働者の利益にもなるという考え。戦略は基本的に成長重視だ。

後者は日本、ドイツ型で、会社はみんなのもの、ステークホルダーのものであり、株主だけのものではないという考え方。存続重視で経営の安定化を重視する戦略だ。

1970年代から80年代にかけては米経済学者フリードマンが唱えた「企業は株主のためにあり、株主の利益を最大化することが社会的責任である」という英米型の思想が広がった。

しかしその後、これが企業の強化にはつながらず、むしろ環境破壊が進んだ、労働者が貧困化した、と指摘された。株主も企業の応援団でもある個人投資家から、年金基金や保険会社へ、さらに海外機関投資家が増えるなど変化した。株式の平均保有期間も極端に短くなっている。1950年代には平均8年といわれていたが、現在は2、3カ月という報告もある。デイトレーダーを株主と言って良いのか、個人的にはかなり疑問がある。株主は、その企業を長いスパンで応援すべきではないか。

英米でも、ちょっとおかしいのではないか、と感じるようになった。英米の経営学者も、創業者一族がアンカー株主としてビジョンと価値を与える、といった議論をするようになってきた。

(2021/8/18 05:00)

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