社説/NISA制度見直し 投資喚起も格差問題に懸念残る

(2022/11/29 05:00)

政府は岸田文雄政権が掲げる「資産所得倍増プラン」を決定した。少額投資非課税制度(NISA)を恒久化するほか、非課税期間を無期限化する。貯蓄から投資への流れが加速すると期待したい。ただ投資する余裕のある世帯が富を増やし、非投資家との格差が拡大する懸念が残る。格差問題では「1億円の壁」と呼ばれる金融所得課税での富裕層優遇の課題もある。政府は投資喚起に加え、格差是正の審議も深めてもらいたい。

2014年に始まったNISAは、年間投資枠が120万円で5年間投資できる「一般NISA」、同40万円で20年間投資できる「つみたてNISA」などがあり、非課税期間は順に2023年、42年までの時限措置だった。この時限措置の恒久化や非課税期間の無期限化、年間投資枠の拡大などが決まった。若者・中間層による長期投資を喚起する施策として有効に機能することを期待したい。

22年3月末の個人の現預金は1088兆円に達する。今後5年間でNISAの口座3400万、投資額56兆円に増やす計画を確実に実現していきたい。

今回のNISA制度の見直しでは、非課税期間を無期限化する前提として、生涯に投資できる金額の上限を設けた。富裕層が過度に恩恵を受けるのを防ぐ狙いだが、そもそも投資する余裕のない層との格差が広がることに変わりはない。岸田政権は「学び直し」による成長分野への労働移動を促すなど、構造的な賃上げなどにより誰もが投資に参加できる環境を整えたい。

他方、与党は株式市場に影響を及ぼしかねない金融所得課税の見直しには慎重だ。給与所得は累進的に最大55%(地方税を含む)まで課税される一方、株式譲渡益などの金融所得に課される税率は一律20%(同)で、総所得1億円を境に所得税の負担率が下がる「1億円の壁」の課題を抱える。財務省の資料によると、総所得1億円以上の富裕層の所得のうち上場株式の売却益は14%に過ぎない。富裕層優遇の是正を進めるのか、株式市場への配慮を優先するのか、与党の決断を注視したい。

(2022/11/29 05:00)

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