[ オピニオン ]
(2016/4/25 05:00)
2016年版中小企業白書は「稼ぐ力」に焦点を当てた。最も注目すべきは、経営者の若返りが収益力に関係しているという分析だろう。
中小企業の経常利益は過去最高水準で、景況感も改善傾向にある。中小企業の減少ペースが緩やかになったことも、その現れだ。しかし売上高では伸び悩んでいる。人手不足感が強まる一方、設備投資の水準はリーマン・ショック以前には届かず、設備年齢は1993年比で1・7倍も老朽化した。
金融緩和が進んだことで中小企業でも借り入れしやすい環境になっているが、実際の金融機関の貸し出しは伸びていない。中小企業でも大企業同様、無借金企業の割合が年を追うごとに伸びている。こうした無借金企業は全般に利益率が低く、投資に積極的でない傾向がある。
これらの分析から見えてくる最近の中小企業像は、一言でいえば安定志向と企業家精神の不足だ。経営環境が改善しても積極的な事業拡張に打って出ない企業が増えており、それが「稼ぐ力」の伸び悩みにつながっている懸念がある。
また白書では、IT投資や海外展開に取り組んでいる中小企業の方が「稼ぐ力」に勝り、収益力の面で二極化が進んでいると分析する。新たな取り組みに挑戦した企業が成果を出すのは当然だが、同時に白書は「経営者の年齢が上がるほど投資意欲の低下やリスク回避性向が高まる」という。それどころか「実際に経営者が交代した企業の方が利益率を向上させている」という事実を突きつける。
これは中小企業の経営者が、重く受け止めなければならない指摘だ。中小企業の経営者交代は業績の浮沈に直結する。後継者難に悩むことも少なくない。ただ過去20年間で、中小企業経営者の年齢分布のヤマ(最頻値)が47歳から66歳に老齢化したという分析は、トップ交代の停滞の深刻さを物語る。
過去の成功体験の延長だけでなく、自ら変わる勇気を持つことも「稼ぐ力」を高めるためには必要なのではないか。白書の指摘を胸に刻みたい。
(2016/4/25 05:00)