[ オピニオン ]
(2017/2/1 05:00)
働き方改革は企業単独の努力では解決できない。業界特有の取引慣行や下請け構造にもメスを入れ、社会全体で取り組む姿勢が問われる。
政府・与党は長時間労働の是正に向けた規制強化を検討している。過労死などの悲劇が相次ぐ状況は、産業界も望むところではない。
具体的な検討の中で、労使間のいわゆる「三六協定」が法定労働時間を超える無制限な残業を許す温床と批判されている。この見直しの必要性には産業界も一定の理解を示している。他方、退社から次の出社まで一定時間を空けることを義務付ける「インターバル規制」に対しては、企業活動の実態にそぐわないとの批判がある。
厚生労働省の調査によると、過労死ラインとされる月80時間以上の残業があった企業は全体の2割に上る。残業時間への規制強化には一定の効果が期待できよう。同時に長時間労働の背景にある人手不足や取引構造、サービス実態を踏まえた対策を講じなければ、本質的な問題解決にはつながらない。逆に作業現場や中小企業にしわ寄せが及ぶことが懸念される。
例えば運送業界では、荷主側の都合で生じる待ち時間が問題になっている。通販事業者が時間指定配達などの顧客サービスを競うことも、配達するドライバーの長時間労働につながっている。IT業界では、発注元の仕様変更による長時間労働が常態化している。
また労働者の側に、長時間残業による割増賃金を家計の前提としている面があることも否定できない。生活の幅を広げてしまえば、長時間残業を期待するようになる。
「働き方改革」は、政府や経営トップが旗を振るだけでは実現しない。根底にある悪しき商慣行にメスを入れるためには、下請法や独占禁止法に基づく取り締まり強化も必要となろう。また生産性向上を伴わないままに労働時間短縮を急げば消費者の利便が失われ、日本経済を疲弊させかねない。社会全体の問題として取り組むために、政府も産業界も知恵を絞りたい。
(2017/2/1 05:00)