[ オピニオン ]
(2017/3/7 05:00)
新たな概念を社会に定着させるためには、産業界が率先して自らを変革する必要がある。
ソサエティー5・0は、社会全体の最適化を目指す新たな概念だ。ドイツなどが主導するインダストリー4・0を包括し、産業界の範囲を超えて多くの問題の解決に挑戦する。経団連など民間が最初に提唱し、政府もこれに賛同した。
ただ、あまりにも対象範囲が広いため一般には内容が分かりにくい。経団連はこのほど、ソサエティー5・0実現に向けた行動計画をまとめた。時宜を得た提言といえる。
この提言では、まずソサエティー5・0で実現する社会のイメージを(1)1人あたり国内総生産を倍増するなど、人口減少に負けない「人口制約からの解放」(2)個人の能力を最大限に発揮する「年齢・性別からの解放」(3)犯罪や災害、サイバー攻撃の被害をなくす「不安からの解放」(4)都市と地方の生活の質の差をなくす「空間制約からの解放」(5)環境と経済が両立する「環境・エネルギー制約の克服」―として提示した。
次に具体的な取り組みをロードマップとともに示した。例えば「都市」では都市活動を“見える化”するセンサーネットワークの構築やデータ分析基盤の整備。「地方」では農業支援基盤、介護や保育のための地域包括ケアの実現などだ。
最後に「法制度の壁」や「技術の壁」など、突破すべき障害を明示している。特筆すべきはその中で「産業界自身の壁の突破」の必要性を強調したことだ。産業界が国際競争力を高めるため、業種・業界を超えた企業間の連携の強化や、大学・ベンチャー企業などと共同で価値創出に取り組むとしている。
いずれも従来から指摘されていることだが、実際に成果を上げているのは限られた企業でしかない。多くの企業が取り組みを加速することで、社会全体を動かす可能性が出てくる。
一般に民間企業は公的機関に比べて意思決定が速い。そのスピードを生かした産業界の自己変革を、ソサエティー5・0の入り口としたい。
(2017/3/7 05:00)