九州大学、種子適格率を改善する選別技術開発 廃棄減り、作物生産を安定化

(2023/11/17 12:00)

持続可能な食料生産が強く求められる時代だが、作物生産のもととなる種子を取り巻く日本の現状は持続可能にほど遠い。品質基準に満たないとして実際は利用可能な種子までが多く廃棄されている。これに対し、九州大学の松田修助教はトキタ種苗と種子の適格率を改善する新しい選別技術を開発。国内で使われる野菜種子は約9割が海外生産で、世界情勢が不安定化する中、食料安全保障の観点からも意義は大きい。

種苗法では作物ごとに発芽率85%などと種子の品質基準が決められている。わずかでも満たないとそのロットの種子は全て廃棄するしかなくなってしまう。実際の市場では品質競争により基準はさらに引き上げられ、95%などの野菜もある。

現在、作物種子は振動選別機や色彩選別機などで選別されている。だが、こうした物理的特性による調整ではもはやこれ以上品質が上向かないと考えたトキタ種苗の小原義規種苗管理センター・副センター長が、近赤外分光を用いて種子内部の化学的特性から樹木の発芽能有無の判別に成功していた松田助教に声をかけ、新たな選別法の研究が始まった。

「適格率84%ということは、実際は84%は作物生産に使えるのに全てが商品価値を失ってしまう」(松田助教)。種子を取るのは大変な作業だ。それまでの苦労を全て捨てるのではなく、品質を回復させ、フードロスならぬ“シードロス”を減らしたいという思いで研究を進めた。

松田助教はスギなどの針葉樹の種子で、近赤外線の波長ごとの反射率(反射スペクトル)から発芽する種子のみを自動選別する装置を2019年に開発し、すでに実用化もされている。ただ、針葉樹と違って野菜種子は難しかった。樹木では種子中の脂質による光吸収を反映したくぼみがスペクトルに現れ、すぐに見分けがつく。だが、すでに粒径や比重などで高度に選別された野菜種子の反射スペクトルには見た目上、差は見られなかった。

「私たちの感覚では分からないだけで、違いは含まれている。中に潜むパターンを人工知能(AI)でなら見つけ出せる」と考えた松田助教は、近赤外分光法にAIの機械学習手法を組み合わせることで、野菜種子の品質判別を実現した。

数百粒程度の種子でスペクトルをAIモデルに学習させ、このモデルにより品質を予測、瞬時に品質スコアを出す。実際にカリフラワーやレタスなど8品種で、発芽能と遺伝子型の適格性を判別できることを実証した。

従来全量廃棄していた品質基準に満たないロットも、上位の種子を取れば適格率は高まり、廃棄は大幅に減る。選別強度も調整でき、目標の適格率から品質スコアの下限を逆算しシードロスを最小にする選別が可能だ。

現在、シンフォニアテクノロジーと選別装置の製作を進める。松田助教は、「不合格になり売れない種子を“回復選別”するための技術。品質競争に拍車をかけることにつながってはいけない」と強調する。真に持続可能といえる食料生産を目指し、装置の実用化を急ぐ。

(2023/11/17 12:00)

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