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社説/強まる円買い圧力−“円高イコール株安”連鎖を断ち切れ

(2016/6/16 05:00)

外国為替市場で円が買われやすい地合いが続いている。米国による利上げ観測の後退、さらに英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる国民投票を控え、安全資産とされる円への資金シフトが弱まる気配はない。日本としては、いかんともしがたい外部要因の円高だ。政府は企業収益の下支えに向け、短期的には内需主導の経済財政運営、中長期的には構造改革を推進し、粘り強く日本の“稼ぐ力”を引き上げていくしかない。

2008年のリーマン・ショック後の世界的な金融緩和を受けて、機関投資家は資金運用時にリスクのオン・オフを駆使して利ざやを求めている。年初の人民元と原油価格の暴落を発火点として投機筋は軸足をリスク・オフに移した。

日本の対外純資産は昨年末で約340兆円と、25年連続世界一を誇る。市場で円は安全資産とみなされ、世界的なリスク要因が認識されると円買い圧力が強まる構図がすっかり定着してしまった。足元では政府・日銀が“口先介入”を繰り返すほど円高が進んでいる。

為替が円高に振れるたびに、日本の消費・投資マインドは冷え込む。だが円高を過度に悲観する必要はない。輸出依存が高い自動車などの製造業は円高が不利に働いて輸出差損が出る。一方で素材や食料品は輸入差益が生まれる。損と益が発生する企業割合は全産業ベースでみれば拮抗(きっこう)する。円高で株価が下落するのは、上場企業に“差損タイプ”が多いためだ。

円高は一方で輸入物価を押し下げ、消費喚起と貿易収支の押し上げ効果が期待できる。課題は輸出主導の上場企業の業績悪化を食い止めることだ。短期的には経済対策で“差損”の一部を補い、中長期的には構造改革に踏み込む必要がある。環太平洋連携協定(TPP)の早期発効はもとより、企業の革新を促す規制改革を加速し、国際競争力を高めてもらいたい。

財政健全化に目配りしつつ、日本の“稼ぐ力”をいかに高めるか。政府は円高イコール株安という“負の連鎖”を断ち切る政策運営が求められる。

(2016/6/16 05:00)

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