[ オピニオン ]

産業春秋/秋の気配

(2016/9/7 05:00)

「何(いず)れの処よりか秋風至る」―。中唐の劉禹錫の五言絶句『秋風引』は、古今和歌集の藤原敏行作「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」と並び、秋の到来をいち早く知る感性の高さを詠んだ詩だ。

詩歌ではないが、淮南子(えなんじ)の一節「一葉落ちて天下の秋を知る」も名高い。サトウ・ハチロー作詞の童謡『ちいさい秋みつけた』はモズの声や曇りガラスのすきま風、ハゼノキの紅葉に見いだした秋を叙情的に描く。

天高く、風は涼やかで木々が色づき、黄金(きん)の稲穂が頭を垂れる。芸術にスポーツ、勉学に読書、そして食欲と、充実や豊穣(ほうじょう)を迎えるはずの秋は一面で必ず“寂しさ”とともに語られる。鮮やかな夏の日が永続することを、人が無意識に願うからだろう。

バブル景気の崩壊もリーマン・ショックの激震も、ガラガラと大きな音が聞こえて来る前に小さな予兆があった。終わりが来ると皆が知っていたはずなのに、熱狂の渦中にいる多くの人は変化に気づけずにいた。

『秋風引』の結句は「孤客、最も先に聞く」。秋の気配に誰よりも早く気づいたのは、ひとり旅の旅人だった。旅愁にはなくとも耳を澄まし、感度を上げて景気や社会の変化を見逃さぬようにありたい。

(2016/9/7 05:00)

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