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深層断面/金融取引に変革−ブロックチェーン活用進む

(2017/7/25 05:00)

金融機関がブロックチェーン(分散型台帳)の活用に乗り出している。仮想通貨の流通を支える同システムは、従来のシステムに比べて取引が改ざんされにくく、低コストでシステム構築できる可能性があるため、さまざまな分野への応用が期待されている。金融取引に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。(編集委員・池田勝敏)

金融機関/貿易・融資で応用−業務効率化・コスト削減

  • 各国の金融機関がブロックチェーンの活用に乗り出している(米金融の中心地であるウォールストリート=ブルームバーグ)

ブロックチェーンは通貨、決済、送金といった金融取引に活用が期待されており、各金融機関が実証試験を重ねている。三井住友銀行やみずほフィナンシャルグループ(FG)は貿易や協調融資業務でブロックチェーンの応用を検討している。貿易取引は輸出者、輸入者、船会社、港湾業者など関係者が多岐にわたり、ブロックチェーンが使えれば貿易関連書類の電子化や関係者間のやりとりの効率化が期待できる。複数の金融機関が参加する協調融資も同様だ。

みずほFGは6―7月に日豪間の実際の貿易について、ブロックチェーンを使って取引した結果を公表した。取引にはみずほ銀行、丸紅、損保ジャパン日本興亜が参加した。貿易書類の受け渡し時間が数日から2時間ででき、電子化により書面発行と郵送のコストも削減できたという。みずほFGの山田大介常務執行役員は「資金が滞留するデメリットが払拭(ふっしょく)でき、チェック作業の時間が減る」と話す。

一方で、ブロックチェーンに参加していない関係者がいると貿易書類の受け渡しができず、従来通り書面に基づく取引が必要になるといった課題も分かった。実用化には共有する情報の国際標準を作る必要もあり、今後も検討を進める。

  • 複雑なデリバティブ取引にもブロックチェーン技術の応用が検討されている(東証アローズ)

店頭デリバティブ取引での活用を模索する動きもある。野村ホールディングス(HD)、大和証券グループ本社など金融機関5社が連携して実証実験したのは、関係者間での膨大な調整作業が負担となっている店頭デリバティブ取引の基本契約書であるISDA(国際スワップ・デリバティブ協会)マスター契約だ。実証では契約に関するメールの確認作業などを省略するとともに、アプリケーションソフト上での確認や合意内容を時系列に記録、保管可能なことを確認した。

保険業界でも保険証券の電子化による業務効率化が期待できるとして、損保の東京海上日動火災保険や三井住友海上火災保険が、海上保険でブロックチェーンの活用を検討するなど動きがある。

コンソーシアム/実用化、VB中心−大手金融、連携を模索

野村HDは、米ベンチャーのR3CEVが主導する金融機関向けのブロックチェーンの代表的コンソーシアム「R3」が開発したプラットフォームで実証実験を行った。ブロックチェーンの実用化に向けた取り組みは、こうした有力ベンチャーを中心とするコンソーシアム形式が多い。

SBIホールディングスが音頭を取り、内国為替と外国為替を一元化し、24時間リアルタイムで送金可能なインフラ構築を目指して発足した「内外為替一元化コンソーシアム」も、米フィンテックベンチャーのリップルの基盤技術を採用している。同コンソーシアムは2016年10月に地銀とインターネット銀行を中心に42行で発足。三菱東京UFJ銀行や三井住友銀行とゆうちょ銀行も参加している。

実用化段階の事例として、三菱東京UFJ銀行が18年初めにブロックチェーンを使った国際送金サービスを始める計画があるが、これもリップルが主導するコンソーシアムの動きだ。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチなど米欧加豪の大手金融機関6社が参加。連携して数日かかっていた国際送金を即日決済可能にするという。

PwCコンサルティングの田中玲パートナーは「既存インフラから新たなプラットフォームに移行するために関係者間で合意を形成するのはハードルが多く、コンソーシアムを通じて移行を目指す動きが活発化している」と指摘する。

コンソーシアムを軸にした離合集散の動きも出てきた。米ウォールストリートジャーナルなどの報道によると、米ゴールドマン・サックスが設立当初から参画していたR3コンソーシアムを離脱。米モルガン・スタンレーや米JPモルガン・チェースも追随したという。田中氏は「先行する金融機関が独自の動きをとったり、先行する金融機関同士で新たなコンソーシアムを作ったりする動きがあるかも知れない」と分析する。参加する金融機関が多くなるとルール形成の過程で利害の一致が難しくなる恐れがある。ブロックチェーンの実用化に向けた標準化をめぐり、駆け引きが活発化しそうだ。

地銀/一大連合を形成−業界地図塗り替えも

ブロックチェーンに取り組んでいるのは大手金融機関だけではない。岩手銀行、青森銀行、秋田銀行、山梨中央銀行は5月、共同でブロックチェーンを活用した金融サービス基盤の構築に向けて検討を始めたと発表。顧客企業の口座振替依頼データの授受サービスや、当座照合表などの還元帳票の電子交付サービスをシステム上に実装し検証を重ねる。

沖縄銀行と筑邦銀行も合流し、ブロックチェーンの一大地銀連合を形成している。マイナス金利や人口減少で収益環境が厳しさを増す一方の地銀にとって、大幅なコスト削減が期待できるブロックチェーンは渡りに船かもしれない。

仮想通貨「ビットコイン」の基盤技術でもあるブロックチェーンの実用化には、処理能力向上といった技術的課題だけでなく、取引記録の法的位置付けの明確化など制度上の対応も欠かせない。

課題は山積だが米IBMの調査によると、世界の主要金融機関200行のうち14%が18年までにブロックチェーン技術を実用化し、70%が20年までに実用化することを見込んでいる。

金融取引のあり方を一変させるブロックチェーンは、金融業界の地図を塗り替える可能性を秘めている。金融機関の取り組みはフィンテックをはじめ、ベンチャーの攻勢で従来の金融サービスが脅かされる前に、ベンチャーと共存し生き残りを図る動きとも言えそうだ。

(2017/7/25 05:00)

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