[ 科学技術・大学 ]

【電子版】米IBM、量子コンピューターで分子をシミュレート 化学反応解明へ効率手法開発

(2017/9/18 12:00)

  • IBMが開発した7量子ビット素子(Kandala et al.; Nature)

米IBMは量子コンピューターを使い、分子そのものをシミュレートできる効率的なアルゴリズムを編み出した。従来型コンピューターでは難しい、より大きな分子の複雑な化学反応の解明に役立つとみられ、化学、医薬品、触媒や超電導といった材料科学、エネルギーなどの分野への量子化学計算応用に道を開く可能性がある。

IBMのT.J.ワトソン研究センター(ニューヨーク州)に所属する研究者らが取り組んだのは、比較的少ない量子ビットで、ノイズが存在する環境でも高い精度のシミュレーションが実行できるアルゴリズム。従来型コンピューターでの計算手法を量子コンピューターに載せるのではなく、量子デバイスに合ったアルゴリズムを新たに構築した。

このアルゴリズムと、7量子ビットの超電導プロセッサーのうち6量子ビットを利用し、これまで量子コンピューターが扱った中で最大の分子となる水素化ベリリウム(BeH2)のエネルギー基底状態の計測に成功。このアプローチを使い、より大きな分子に対しても量子化学計算を適用できる可能性があるという。

実は、水素化ベリリウムは従来型コンピューターでもシミュレーションが可能。ただ、分子の電子に存在する量子効果は従来型コンピューターでは記述できないため近似法を使う。この場合、分子サイズが大きくなればなるほど、計算が指数関数的に増え、実行が困難になる。また、量子コンピューターでは一般的に量子ビットを増やせば計算性能が向上すると思われているが、その分、系のノイズも増え、正確な計算が難しくなると言われている。

こうしたことから、IBMでは量子ビットの数だけでなく、その品質、回路の接続性、エラー率などを総合的に勘案した「量子体積」手法を導入。新しいアルゴリズムと併せて、少ない量子ビットでも精度の高い量子化学計算を実現できるようにした。さらに量子コンピューターが化学反応に関わる電子のエネルギーレベルの量子状態を表現できるようになるため、量子コンピューターがスケールアップし、対象の分子が大きくなったとしても、問題が解ける可能性があるという。

「商用量子コンピューターであるIBM Qシステムの能力は、数年後に現在の従来型コンピューターを超え、化学、生物学、ヘルスケア、材料科学などの分野で専門家向けのツールになり始めると考えている」。IBMリサーチでAI研究およびIBM Q担当のダリオ・ギル副社長はニュースリリースの中でこうコメントした。研究成果は日本時間で14日付の英科学誌ネイチャーに掲載された。

(2017/9/18 12:00)

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