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(2018/2/2 05:00)
【IoT・第4次産業革命の類似例~アパレル産業~(後編)】
かつては短かった日本のアパレルの調達リードタイム
読者の中には、日本流QR(クイックリスポンス)と称したオペレーションは、1990年代に国際的にも高く評価されていたことを憶えている方も多いだろう。実際、ハーバードビジネススクールのケーススタディにも日本のアパレルをZARAと比較したケースすら存在している。
しかし、残念ながらこのオペレーションは持続可能な仕組みに基づいたものではなかった。実は、中国へ生産拠点が移管されていた90年代、国内の稼働率には常に余裕が生まれていた。この時期は、いわゆる現場の匠の技に依存しつつ、人海戦術ではあるが、柔軟で最短1~2週間という短調達リードタイム(LT)が実現していた。しかしながら、生産拠点がさらに海外シフトした時、国内の生産能力は激減し、このオペレーションは持続できなかった。「仕組み」になっていなかったのである。
短リードタイムを科学的な仕組みとして構築したEC-VISION
EC-VISIONでは、かつての日本のQRのように一律に2週間LTにするわけではない。販売計画と生産キャパシティを考慮し、生産調達計画を無理なく同期させて作成、柔軟で機敏な生産調整と多段階発注を実現することで、商品リスクを適切に管理するのである。
これが、グローバルなアパレル産業が創造した普遍的な調達業務の標準ビジネスプロセスである。日本ではあまり知られていないが、この背景には、“ロケットサイエンス・イン・リテイリング”というアパレル産業のオペレーションに数理モデルを導入した研究を行った、ハーバード大学、ペンシルベニア大学など米国トップ・ビジネススクールの存在がある。
日本で普及が遅れた原因は3つ
では、なぜ日本ではこうしたビジネスプロセスの導入やインダストリー・クラウドの普及が遅れているのであろうか。まず、①「情報の欠如」がある。そもそもアパレル産業では海外の企業のオペレーションマネジメントについての情報が乏しい。雑誌やメディアも「ファッショントレンド」は取り上げるが、目に見えなくいオペレーションマネジメントやシステムについて取り上げることは少ない。
次に、②「業界構造と長期的なIT投資への躊躇(ちゅうちょ)」がある。国際でも多数の企業から構成される多段階の複雑な業界構造、また「かつての繊維ものづくり大国日本のプライド」もあったと考えられる。実際、「ものづくり」、特に繊維製品の品質では、今でも世界トップレベルの中小繊維企業が産地に存在していることも事実である。
ただし、景気やトレンドに左右されるリスクが大きい市場では、長期的な視野でIT投資ができる企業は少なかった。土地などの資産に乏しい中小企業にたとえ技術があったとしても、金融機関も融資はできなかった。
もっとも、オペレーションを抜本的に変えようとしても、実際は人材が不足していたであろう。つまり、③業務設計、ITの企画・設計人材の不足である。製品デザイナーの教育機関は多いが、アパレルのオペレーションマネジメントを、ITを含めて教育している教育機関は日本にほとんどない。
アパレル産業と日本の製造業の将来
これらの普及を阻害する要因は、実はアパレル産業に限定された議論ではない。特に、「オペレーションマネジメント」の教育ではMBA(経営学修士)が果たす役割が大きい。関連学会の参加者も米国POMSが約1万人、欧州EUROMAは5000人の規模で、教授陣が活発に研究・教育活動を行っている。
これに対し、日本ではJOMSA(オペレーションズ・マネジメント&ストラテジー学会)が数十人のメンバーを抱えるだけである。つまり、経営の視点からオペレーションを考えるアンテナ機能も研究・教育機能も、日本にはほぼ欠如していることを認識するべきである。
いまやアジア諸国では当然のようにカリキュラム化されている。中国のある一つの大学のMBAで、オペレーションマネジメント関連の教授が80人もいるという事実を知り、筆者も驚愕(きょうがく)した経験もある。台湾や韓国、インド、シンガポール等でオペレーションマネジメントやIT活用が優れていることは周知であろうが、そもそも研究・教育者の層の厚みが全く異なるのである。
もし、オペレーションマネジメントを科目として教えるビジネススクールを設置すれば、アパレル産業においても優れたアイデアを有する若いデザイナーを輩出してきた日本から、急成長するアパレルブランドを創出できる可能性はまだ残っていると筆者は信じている。当該領域では、今はまさに起業家が活躍しやすい環境が整ってきているのである。
アパレル産業は、日本の産業の将来像の一つの可能性を示している。
(隔週金曜日に掲載)
【著者紹介】
(2018/2/2 05:00)