第42回フレッシャーズ産業論文コンクール/入賞者座談会

(2019/12/25 05:00)

私たちの声を伝えたい

日刊工業新聞社は「第42回フレッシャーズ産業論文コンクール」(経済産業省・日本商工会議所など後援)の上位入賞8人による座談会を、11月29日に都内で開いた。論文に込めた思い、社会人になって実感していること、これからの目標などについて意見交換した。

  • 屋敷さん「好きな街で好きな仕事」

■誰にでもある

司会 皆さん、受賞おめでとうございます。これからそれぞれの論文について伺います。屋敷さんの「若者のはたらく場所」はユニークなテーマですね。

屋敷 モノづくりをしたい、誰かの役に立ちたいとの思いから、就職先として医療機器メーカーを探しました。しかし、医療機器メーカーは東京都や大阪府、愛知県といった都市圏に多く、大学時代を過ごした富山県をはじめ、北陸地方にもほぼありませんでした。富山県が好きなのに、引っ越さねばならない。こうしたことから、住みたい場所と就きたい職のある場所が離れている現状を何とかしたいと思いました。

司会 「専門地方都市づくり」を提言されました。地方創生につながりそうです。

屋敷 つながるでしょうね。ですが、地方創生について考察したわけではなく、誰にでも住みたい街があるはずで、その街で希望する職に就けるような国にするには何が求められるかを考察しました。

司会 少なくとも就きたい職は手に入れましたね。

屋敷 堀場製作所では医療機器ではなく、分析機器の開発を担当しています。分析機器は製造業をはじめとする幅広い業界、さまざまな用途、また国内外で使われており、市場のすそ野がとても広い。ここに魅力を感じますし、やりがいがあります。

  • 長崎さん「皆がものを言える職場」

■できているに

司会 長崎さんは「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)をテーマにしました。誰でも一度は聞いたことがある言葉だけに、どのような論文になるのか興味をそそられました。

長崎 どの会社でも同じでしょうが、新入社員研修で「ほうれんそうが大切だ」と教えられました。もちろん、大切なのはわかるのですが、学生のころから、この言葉に違和感がありました。その正体は何かを突き詰めると「ほうれんそうする」ことを目的にしているからだと気付きました。大切なのは「ほうれんそうができている状態にする」ことだ、ではその状態にするにはどうしたらいいのかを深堀りしました。

司会 「当たり前は、ほんとうに当たり前なのか」という見方は大切ですね。そして「職場を肯定的な発言で満たす」ことが、ほうれんそうを育てる土壌になるとの結論にたどり着きました。

長崎 はい。オムロンは“ベンチャー集団”であることを大切にしています。ベンチャーマインドを持ってイノベーションを生み出すには、自由にものを言える職場でなければなりません。意見を肯定的に受け止めることを意識し、ほうれんそうができている状態にすることは、こうした職場づくりにもつながると思います。

司会 ちなみに、長崎さんの職場の雰囲気はいかがですか。

長崎 問題があったらすぐに相談できますし、とてもいいですよ。インターンの時、優しくて、おもしろい人がいっぱいいて、この会社であれば自分のやりたいことを全力でできるだろうと思ったのが入社の決め手でしたし、とても満足しています。

  • 平林さん「農家の課題をITで解消」

■可能性を追求

司会 平林さんは実家が農家ということもあり、説得力のある論文でしたね。

平林 農家の人手不足や後継者難を痛感していましたので、学生のころからITでこうした問題を解消したいと思っていました。例えば秋の収穫時期のアルバイトは農業協同組合を通じて手配していますが、春に見込み人数を決めるため、天候不順などによる計画変更への対応が難しいといった実情があります。そこで「アグリカルリンクアプリケーション」を提案しました。アルバイトを募集したり、農業体験イベントに集客したりして、農家と農業に興味のある人とをマッチングするアプリです。後継者探しにも役立つと思います。

司会 農業の活性化につながりそうなアプリですね。会社では提案されましたか。

平林 就職活動の際、社長から「北海道ならではの分野に、ITで貢献したい。農業もテーマの一つ」との意向を伺って、この話をしました。もちろん、事業採算性などを考えると実現が難しいのはわかっていますが、企画を詰めて可能性を追求したいですね。

  • 田島さん「AIで食品ロス削減を」

■人手不足解消

司会 食品ロスは社会問題としてクローズアップされています。田島さんはアルバイトの時、この問題を肌で感じたそうですね。

田島 学生時代に5年間、ホテルでアルバイトしました。宴会の食べ残しの量の多さに、いつも「もったいない」と思っていました。すべてなくなっている料理もあれば、誰も手をつけていない料理もある。宴会形式によっても異なり、特に「立食ビュッフェ」が多く残っていました。食品ロスの約4割はホテルが占めています。訪日外国人の増加、東京オリンピック・パラリンピック開催などを受け、ホテル建設ラッシュになっていることもあり、何とかしたいと思いました。

司会 食品ロス削減策として人工知能(AI)の導入に解を見いだしました。

田島 大学でAIについて学んだことを生かし、食品ロス削減のためには、どのようなデータが必要か、またデータをどう収集し、どう利用したらいいかを考察しました。AI導入は人手不足の解消にもつながります。富士通九州システムズはホテルソリューションを展開しているので、いつかAI関連のサービスを提供できたらいいですね。

  • 片川さん「会社の土台を支えたい」

■先輩のように

司会 片川さんがテーマにした「花よりも花を咲かせる土となれ」は、すてきな言葉ですね。

片川 これは学生時代の恩師にいただいた言葉です。またエイチアンドエフで面接した際にもこの言葉をいただいて、とても驚きました。ずっと心に残っていたので、論文のテーマはすぐに決まりました。育児休暇明けの先輩が海外企業からのお問い合わせにブランクを感じさせずに英語でテキパキと応対する姿を見て、私も先輩のようになりたいと思った時、この言葉と理想の姿が結びついて、どうしたら皆に頼られる存在になれるかを考えました。

司会 もはや片川さんの座右の銘ですね。最後の一文に込めた「私は会社の土になりたい」との決意が印象的でした。

片川 会社の土台を支えられるようになるには、日々、一生懸命に仕事をしてコツコツと知識を蓄えたり、女性管理職を目指して意識や行動を変えたりすることが大切だと意を強くしました。これは女性がやりがいを持って働き続けることにもつながると思います。

  • 馬場さん「届ける思いで頑張れる」

■不安なかった

司会 馬場さんは女性が少ない物流業界に思いきって飛び込みましたね。

馬場 業界の例に漏れず、ライフサポート・エガワも女性が少ないですが、物流で生活を支えたいとの思いで入社しました。会社見学で女性がフォークリフトを操って活躍している姿を見ていたので、不安はなかったです。実は友人に「仕事は何」と聞かれた時、「フォークリフトに乗っている」と言いにくくて「商品管理している」などと答えていました。そんな自分が嫌だったので、物流業界に女性を集めるにはどうしたらいいかを考えました。

司会 論文から「胸を張って活躍するぞ」というやる気が伝わってきました。体力的な問題はありませんか。

馬場 よくその質問を受けますが、フォークリフトなので体力的な問題はありません。ただ、神経は使います。商品仕分けを間違うと他の共同配送センターに迷惑をかけますし、発見が遅れると最終的にお客さまに迷惑をかけてしまいます。それだけに、緊張感を持って慎重にやらねばなりません。

司会 自然災害があると、物流は大変でしょうね。

馬場 台風の時はイレギュラーなことがたくさんあってバタバタしました。でも、誰かの手に食料が届くと思うと、すごく頑張れました。

  • 殷さん「留学生は魅力知らない」

■選択肢増える

司会 殷さんの論文は留学生の就職事情を知る上で、とても参考になりました。

殷 多くの留学生が日本企業への就職を希望するものの、内定をもらえずに帰国しています。原因の一つは企業情報を知らず、誰もが知っている大手企業にばかり応募しているからです。就職先の選択肢が増えると、こうした状況を改善できます。

司会 そこで、中小企業はもっと情報発信するべきだと主張されました。

殷 中小企業にはたくさんの魅力があります。例えば高度な技術力は大手企業にも負けません。しかし、留学生向け会社説明会が開かれているのは東京都や大阪府などの大都市が中心です。地方でも開催し、もっと魅力を伝えてほしいです。魅力を知ったら、就職を希望する留学生は少なくないと思います。中小企業の人手不足の解消にもつながります。

司会 留学生の場合、言葉の壁がありそうですね。

殷 確かに壁があります。留学生の多くは日本語能力試験N1を取得しており、日常会話には支障ありません。しかし、技術の専門用語はとても難しい。私は電子部品の営業を担当していますが、やはりわからないことが多い。用語の意味を中国語に翻訳したリストをつくって勉強する日々ですね。

  • 佐藤さん「地域貢献を果たしたい」

■友人が驚いて

司会 佐藤さんは働き方改革について論じました。とても大きなテーマですね。

佐藤 立飛ホールディングスは通常、定時に退勤できます。プレミアムフライデーを採用していますし、仕事を土日に持ち越すこともありません。ところが、友人にこの話をすると、皆が「あり得ない」と驚きます。驚かれて初めて、とても働き方改革が進んでいる会社に就職したことを実感しました。これから自分がどう働くべきかを見つめ直すことにもなると思ってこのテーマに設定し、働き方改革のメリットやデメリット、労働時間の削減などについて考察しました。

司会 不動産会社なのに、私も驚きました。そうした職場であれば、生き生きと働けるでしょうね。

佐藤 はい。だからこそ一人一人が業務効率化や変化への対応を意識して働かねばならないと思います。また不動産会社といっても賃貸や一戸建ての売買ではありません。東京都立川市に約98万平方メートルの土地を所有しており、法人向け賃貸や不動産開発を手がけています。来春、JR東日本の立川駅の近くで新街区「GREEN SPRINGS」を開業予定です。この街区の工事着工前にはヤギによるエコ除草で住民と交流しました。地域貢献を果たせるため、やりがいがあります。

■もっと勉強を

司会 皆さんの論文も女性活躍や外国人労働者の受け入れなど、働き方改革と関連がありますね。では最後に社会人になって実感したこと、これからの目標などを教えてください。まず屋敷さん、お願いします。

屋敷 学生時代とは責任の重さが違うことを実感しています。また、もっと学ばねばならないと思っています。例えばソフトウエアを知らなければ、良い製品を設計できません。ですが、知らないからといって就業時間中に勉強するのは難しい。このため自宅で勉強したり、同期と勉強会を開いたりしています。日々の業務と勉強を両立してスキルアップし、人や社会に貢献できるインパクトのある製品を開発したいですね。

司会 長崎さん、お願いします。

長崎 センサーの開発を通じ、自動化を推進したいですね。単純作業や煩雑な作業をもっと自動化していくことができれば、みんなが創造的でやりたい仕事に打ち込める社会に近づけると思います。また中堅になった時、新人がイノベーションを起こせるように、ものを言える職場づくりをマネジメントしたいです。

司会 平林さん、お願いします。

平林 農業でも自動化は重要テーマの一つです。単純だけど自動化できないといった作業がたくさんあります。ITを活用し、こうした作業を少しでも軽減できるサービスを提供したいですね。また、海外では農業のIT化に関する研究が進んでいるので、ゆくゆくは共同研究などもしてみたいです。とはいえ、現在はプログラミング言語などをもっと覚えなければなりません。コアでも残業時間の削減を推し進めているので、業務と勉強を両立する方法を模索しています。

司会 田島さん、お願いします。

田島 今、食品卸業向けシステムを担当しています。ITの知識だけではなく、卸業の商品管理や流通の知識なども求められます。こうしたことを一つひとつ勉強し、経験を積み上げて「この人に任せておけば大丈夫」と言われるような、信頼されるシステムエンジニアになりたいですね。システムは世の中に必要不可欠なので、人と人のつながりを大切にしてよりよいサービスを生み出したいです。仕事ができる先輩がたくさんいるので、先輩を目標にして頑張ります。

司会 片川さん、お願いします。

片川 学生時代は与えられた課題をこなせばよかったのですが、社会人は先を見越して行動することが求められると実感しています。年齢の近い先輩がフレンドリーに接してくれるので、わからないことは失敗する前に質問できますし、同期入社の女性社員もサポートしてくれるので助かっていますね。所属する営業部には国内営業と海外営業があり、現在は国内ですが、今後、海外になることもあると思うので、もっと英語力を上げねばなりません。このため社内英語講習会に積極的に参加しています。任せられた仕事に責任を持って取り組み、実績を積み上げて信頼される社員になりたいです。

司会 馬場さん、お願いします。

馬場 私は労働時間よりも、環境を重視して就職活動していました。8月にオープンした共同配送センターに配属されており、女性でも働きやすいので満足しています。毎日、同じ作業をしていますが、早く先輩のようにいろいろな作業ができるオペレーターになりたいですね。社名にあるライフサポートには「人々の生活を支える」という思いが込められています。これを忘れず、社会貢献したいですね。

司会 殷さん、お願いします。

殷 イサハヤ電子は中国・深圳に生産拠点、香港に販売拠点を置いています。中国語と日本語を話せる語学力を生かして中国事業を伸ばしたいですね。今の目標は効率的に仕事をすることです。まだ慣れていないこともあり、毎日でも残業したいところですが、社は残業削減を推し進めており、そうもいきません。また、留学生が就職できずに帰国するのは残念なので、中小企業の良さを後輩に伝えたいです。

司会 佐藤さん、お願いします。

佐藤 子供のころ、畑ばかりの田舎町に住んでいました。そこにショッピングモールが建ち、それだけで寂れた雰囲気が一変しました。街づくりで人々の生活を変えられることを忘れず、責任感を持って仕事をします。多様性を受け入れるという考えではなく、自分自身が多様性の一部だと実感できるような豊かな街をつくりたいですね。

司会 皆さん、やりがいのある仕事、頼れる先輩に恵まれましたね。これからの活躍を期待しています。本日はありがとうございました。

座談会出席者

堀場製作所 屋敷尚汰さん

 I部/第一席・経済産業大臣賞「若者のはたらく場所」

オムロン 長崎裕介さん

 I部/第二席「『ほうれんそう』の原点に立ち返るとき」

コア 平林史織さん

 I部/第三席「農業労働力を確保する『アグリカルリンク』プロジェクト」

富士通九州システムズ 田島大樹さん

 I部/第三席「AIを利用したホテルの食品ロス削減」

エイチアンドエフ 片川さやかさん

 II部/第一席・日本商工会議所会頭賞「花よりも花を咲かせる土となれ」

ライフサポート・エガワ 馬場郁恵さん

 II部/第二席「物流業界に女性が進出するためには」

イサハヤ電子 殷海涛さん

 II部/第三席「中小企業の人手不足と外国人留学生の就職難」

立飛ホールディングス 佐藤圭次郎さん

 II部/第三席「働き方改革は日本を救うのか」

司会 日刊工業新聞社東京支社編集部 大串菜月

入賞論文は日刊工業新聞(11月28日付)ホームページ(https://biz.nikkan.co.jp/fresh/archive.html)に掲載しています。

(2019/12/25 05:00)

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