[ オピニオン ]
(2019/7/15 05:00)
人間の能力を超えるような思考・判断ができる人工知能(AI)を実現する「シンギュラリティ(技術的特異点)」が到来するのか否か。専門家の間でも意見が分かれている。ただ、実現しようがしまいが、近未来に、現在ホワイトカラーが担っている仕事の多くで、AIが人間の強力なライバルになる可能性が高い。AIにできない仕事をより多く創出し、AIと共存する社会を構築できるかどうかが問われてくる。
シンギュラリティの実現について、シンギュラリティ提唱者である未来学者のレイ・カーツワイル氏は、今世紀半ばには到来すると予測する。一方、新井紀子国立情報学研究所教授は「コンピューターが数学の言葉を使って動いている限り、予見できる未来にシンギュラリティが来ることはない」と断言する。
AIにできることはできるだけ任せて、人間はAIにできない仕事に集中すればよい。と考える人は少なくない。新井教授は、「そうした薔薇(ばら)色の見通しを立てる人がいるが、私の未来予想図とは違う」とみる。
同教授によると、残る仕事の共通点は、コミュニケーション能力や理解力を求められる仕事や、介護や畦(あぜ)の草抜きのような柔軟な判断力が求められる肉体労働者が多いという。高度な読解力と常識、柔軟な判断といった能力が不可欠となる。逆説的に言うと、AIは万教えられてようやく一を学び、応用がきかない、柔軟性がなく、限定されたフレーム(枠組み)の中でしか計算処理ができないことが特徴だ。「AIには意味が分からない」(新井教授)ためだ。
AIをはじめ技術革新が進んでいけばいくほど、人間に及ぼす影響は良くも悪くも拡大していく。技術革新による労働代替が格差拡大となり、従来にない社会の不安定を招く可能性も否定できない。革新技術を人間や社会と調和できるように活用していく視点が重要だ。技術革新の負の影響が顕在化する前から目を向ける必要がある。日本が課題先進国として未来を先取りして世界に発信してはどうか。
(2019/7/15 05:00)