【進化するコネクテッド インダストリーズ vol.4】パナソニック・馬場渉氏インタビュー/組織がつながれば日本企業もプラットフォーマーに

(2018/5/9 09:00)

  • 馬場氏

私の試みは東洋医学。組織のゆがみを正し、次の成長につなげる自然治療を施す

 「イノベーションの量産」、「タテパナをヨコパナに」など独特のスローガンをかかげ、パナソニックのビジネス改革を主導する馬場渉ビジネスイノベーション本部本部長。2017年4月まで基幹系業務ソフトウエア世界最大手、独SAP本社や米シリコンバレー拠点の幹部を務め、米シリコンバレー流の開発手法にも精通する。そんな馬場氏から見て、日本を代表する電機メーカーの1社、パナソニックの強みや課題は何か。そしてビジネス改革のあり方について聞いた。

グーグルとフェイスブックの違い

 ー馬場さんからみて、パナソニックの強みは。

 「当社はリアル(現実世界)データを豊富に持っており、(コンピューター上で現実世界を精密に再現する)サイバーフィジカルシステム(CPS)を実現しやすい。リモコンでテレビを操作する、炊飯器のボタンを押すなど、家庭内にある機器一回ごとの操作を(インターネットサイトのように)”クリック”と表現するなら、パナソニック製品のDAU(一日当たり製品サービスを一度は使ったユーザー数)は日本だけで3000万世帯、5000万‐7000万人に相当する」

 「例えば、当社は照明スイッチの国内シェア8割を持つ。照明を付ける・消す行為は毎日必ず行われる。照明スイッチをデジタルでつなげば、当社はCPSの分野で『プラットフォーマー』になりえる位置にいる」

 -グーグルなどインターネット上のプラットフォーマーもこのリアルの世界に進出しつつあります。

 「グーグルやフェイスブックのように主にインターネット上のサービスを手がける企業はできることが限られている。またスマートフォンやテレビで世界シェアトップを持つ企業であっても、これらの製品で集めたデータだけでは、生活の一部しか網羅していない。この点、パナソニックの事業は『これでもか』ってほど広い。家電、エネルギー、産業機械、車載を手掛けており、住宅内だけでなく、産業の黒子役である『B ツー B』事業としても、社会と広く接している」

パナソニックβは出島

 ーただ、パナソニックは製品・サービスの間で相乗効果を十分に引き出せていません。馬場さんは製品・サービスごとに縦割りの現状を「タテパナ」と称し、クロスバリューが生まれる組織「ヨコパナ」へと変革中です。

 「事業の広さが売り上げ上の足し算にしかなっておらず、顧客価値に結びつく広さにはなっていないのは事実だ。当社のスマートフォン用アプリは、アプリストアに100個以上あるが、UI(ユーザーインターフェース)はバラバラだ。これはスマホアプリに始まったことではなく、家電各種で統一感のないリモコンもしかり。こうした事態を許してきてしまったのは、タテパナの弊害だ。データ量は膨大に存在していても、タテに最適化されたデータなので、別の事業部にはデータの意味が分からず、活用されていない」

 「ただ、会社の構造を破壊してカオスな(混沌とした)状態に持っていけばよいのではない。企業改革には西洋医学、東洋医学の2タイプがある。西洋医学では、赤字企業に対し患部を切除したり、直接効く薬を処方したりする。”プロ経営者”と呼ばれる人の多くは西洋医学の分野にいる。私の試みは東洋医学。組織のゆがみを正し、個人や組織が本来持つ自然治癒力による次の成長を促す。タテの最適化された今の状態を、タテとヨコのバランスをとるのが狙いだ。その一環で、技術開発の共通基盤を運用し始めたほか、シリコンバレーにイノベーションを産むための専門手法を導入した『パナソニックβ』という、当社にとって"出島"となる組織を設けた」

インダストリー4.0にジャイアントはまだいない

 ー一般にイノベーションというと、天才によるものか、セレンディピティ(想定外の発見)といった偶然のたまものという印象があります。馬場さんは、そうではないと社内で言い続けていると聞いています。

 「パナソニックの世界約300工場には、生産技術やQCD(品質・コスト・納期)について共通の考えがある。イノベーションについても共通モデルと呼べるものがある。偶然に見えるものの発生確度を飛躍的に高めるサイエンスが存在する。それをシリコンバレーのパナソニックβで確立していく。そこにはデザイナーなどを含む、多様な分野と職能の人材が一緒に働いている。日本の事業所では起こりえなかった社内協業が自然発生している」

 「ただ、メーカーはコンサルタント会社とは違い、モデルという概念を示すだけでは変わらない。牽引役となる商品や事業で引っ張る必要がある。効果を証明して初めて、『パナソニックβはどんなことをしているんだ』と元となったモデルに興味を持ってもらえる。そしてパナソニックβで確立した共通モデルを横展開する」

 ーその牽引役にあたるのが、17年夏に発表された「ホームX」と呼ぶ住空間プロジェクトですね。詳細は明かされていませんが、IoT(モノのインターネット)で家電と住宅設備から得たデータを連動させ、利用者の価値につなげる試みのようです。馬場さんがデータ活用で真に狙っていることは。

 「一般に言われているIoTは、従来のインターネットサービスの概念を引きずっている。せいぜいスマートフォンで家電を操作する程度で、この延長線上をどんなに進んでも『インダストリー3.999...』止まりだ。(新たな産業革命と言われる)『4.0』の変革は緒についたばかり。この世界で(圧倒的なシェアを持つ)ジャイアントはまだいない」

 「IoTとは機器がつながるだけでなく、顧客とつながること。顧客と多種多様なつながりを持ち、本人以上に顧客を知ることだ。共感力をベースに価値を提供する。(4.0で実現するとされる)マスカスタマイゼーションですら顧客が自身の関心に基づいて注文している点で、4.0の手前の段階にとどまる。目指しているのは、システム側が『お客さんが欲しいのこれですよね』と投げかけ、利用者に『本当に分かってくれているな』『自分でも気づかなかった』と言わせしめるくらいの共感力だ」

 ーパナソニックは18年3月に創業100周年を迎えました。歴史が長い分、ヨコパナ改革には苦労も多いのでは。

 「予想以上に取り組みの浸透は速い。経営トップに理解してもらっても、現場が前向きとは限らない。外資系企業では、外から来た人間の足を引っ張る場合が少なくない。それが当社では、現場側も『何とかして実現しよう』と受け止めてもらっている。事業部長が、パナソニックβから戻ってきた社員とともに、『βのやり方をここでも展開するぞ』といった姿勢で取り組んでもらっている。この点は手応えを感じている」

対抗意識では相手にされない

 ー馬場さんはある公開討論で、SAPのような業界首位の会社は、「競合他社の動向を一切気にしない」といった発言をしていました。横並び意識が強い日本企業。傍聴者の大半が、身に覚えがあると感じたかと思います。

 「私がパナソニックに入社した理由の一つは、創業者の松下幸之助による経営理念に共感したことだ。だが、実際には競合他社がどうこうしているといった話題が社内で多いのが気になった。業界ナンバー1の企業は、他社のこともよりも、自身が社会に対してどんな貢献ができるのかを考える。パナソニックの企業理念にも、競合他社にどう対抗するかなんて話は一切出てこない。逆に言うと、当社が本当に企業理念の実現に取り組むには、1位の製品・サービスを出す企業にならなければならないと考えた」

 「ただ、ヒット商品を一発出すだけでは、企業が本質的に変わったとは言えない。イノベーションを量産する企業、スポーツでいうなら『連覇』する企業になるため、イノベーションのプロセスをモデル化し、人を発掘育成し、全社展開しやすくしている」

 ーコネクテッドインダストリーについてはどうお考えですか。

 「国が方針を打ち出したことで、ばらばらだった企業が、いい方向に向いている。ただ、米国やドイツに対し、日本はどう対応するかといった『対抗軸』の側面がある。全てがコネクテッドになり、(インターネットサービスのような)勝者総取りになる世界では、勝つ・負けるで物事を考えていたら誰の相手にもされない。日本独自の軸を生かしつつも、むしろドイツの自動車産業、米国のシリコンバレーのIT企業に対して『私たちはこんな貢献できます』と言えないとならない。ダボス会議でも、他国の経営者が世界に対してこんな貢献をしますといった発言が主なのに対し、日本人は自国の話ばかりするのが気がかりだ」

彼らは心底失敗したがっている

ー日米の違いや強みについてどう考えていますか。

 「米国といっても、シリコンバレーとそれ以外の地域では文化が完全に異なる。ウォルマート・ストアーズやP&G、コカ・コーラ、ウォルトディズニー、ゼネラルエレクトリックなど、どちらかというとエスタブリッシュメント側にいる企業には保守的な人もいて、変革できない理由を100でも200でも挙げる。この辺は日本企業と大きく違うわけではない」

 「シリコンバレーだけが浮いているといえる。シリコンバレーの文化は失敗に寛容などころではない。彼らは失敗を財産と考え、心底失敗したがっている。誰もまだやっていない価値を最重要視し、そのためには大怪我しない失敗を多く経験することが未知に対する最適な学習手法と認識しているからだ。あまりの違いに、日本やドイツ、米国その他の地域との間で違いはあっても、意味をなさないくらい微々たるものに見える。

ただ、シリコンバレーの人々は同じことを30年もの長い間やるのは苦手。95%の完成度を99.9%に持っていく前に飽きてしまう」

【略歴】

馬場渉(ばば・わたる)2000年中央大学経済学部卒業。01年SAPジャパン入社、11年リアルタイムコンピューティング本部本部長、14年チーフイノベーションオフィサー、15年欧州SAP(本社)バイスプレジデント(副社長、兼務)、17年パナソニックビジネスイノベーション本部副本部長、18年同本部長。Jリーグ特任理事なども務める。

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(2018/5/9 09:00)

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