省エネ、低炭素化を実現 高効率モーター

(2019/11/15 05:00)

業界展望台

モーターが電力を動力に変換するプロセスではエネルギー損失が生じる。低損失を徹底的に追求して設計・製造されたモーターを採用することで省エネ化、低炭素化が実現可能だ。日本を含む世界各国ではモーターの効率規制が進む。今年はモーター駆動のエネルギー消費効率に関する国際会議「eemods」が日本で初めて開催され、参加国の間で技術開発動向をはじめ、さまざまな情報が交わされた。

トップランナー規制 長期的にメリット大

産業部門においてモーターは約7割がポンプや送風機、圧縮機などに使用されている。これらは各種産業機械や搬送装置、ビルシステム、発電設備、工作機械などに搭載されており、エンドユーザーは多岐にわたる。モーターによる消費電力量は世界の消費電力量全体の40~50%を占めるとされている。モーターの高効率化を追求することで得られる省エネ効果はきわめて大きいものと期待される。

そのため、世界的にモーターの効率規制が進められている。日本では2015年4月、省エネ製品の普及促進を目的とした「トップランナー制度」の対象として産業用モーターが加わった。モーターの効率レベルは国際電気標準会議(IEC)で規定され、標準効率がIE1、高効率がIE2、プレミアム効率がIE3と定められている。トップランナー規制ではIE3レベルが求められる。規制対象は単一速度三相かご形誘導モーター(出力0.75キロ~375キロワット)で、ギアモーターやブレーキ付きモーターなども含まれている。

モーターの効率を上げると導入コストは一般的に高くなるが、エネルギーコストを削減することが可能だ。モーターのライフサイクルコストは電力料金が大きな比率を占める。例えば出力11キロワットのモーターを毎年4000時間の運転時間で15年間使用した場合、ライフサイクルコストの96.7%を電力料金が占め、購入価格は2.3%ほどだ。長期間運転するほど高い省エネ効果が表れ、経済的なメリットが大きい。

国際会議「eemods」開催 日本の規制状況を評価

  • 日本初開催の国際会議「eemods」では技術動向や政策の最新動向が発信された

今年9月17日から19日までの3日間、東京・千代田区の御茶ノ水ソラシティでモーター駆動システムのエネルギー消費効率に関する国際会議「eemods」が開催された。日本での開催は初めてで、今回で11回目を迎える。30カ国・地域の企業や大学、研究機関、政府機関などから120人が参加した。オープニング・クロージングセッションを含めて3日間で22のセッションが行われ、技術や政策に関する最新動向が発表された。

モーターの高効率化に関わる法規制などの取り組みは各国でバラつきがある。現在、日本国内で出荷されているモーターの約3分の2はIE3に切り替わっている。順調にトップランナーモーターの普及が進んでおり、規制がうまく浸透していない国からは関心が寄せられた。メーカーがコンプライアンスを徹底し、製造・出荷のセルフチェックや設計の変更、クライアントへの切り替え時期の連絡など入念な準備を行い、規制に対応した成果と見られる。

欧米は規制対象の拡大に積極的な姿勢を見せている。米国の工業会からは「米国・EU・日本で協調し、対象範囲を拡大した上で法規制を進めていきたい」との考えが示された。出力が0・75キロワットに満たないモーター、375キロワットを上回るモーターの他、単相モーター、永久磁石同期(PM)モーター、スイッチリラクタンスモーターなど異なる構造のモーターも含めてIE3レベルを要求していくことを視野に入れており、今後の方針が気になるところだ。

アジアでは中国、韓国、台湾などでIE3レベルの規制が行われているが、インドや、タイ、シンガポール、ベトナムなど東南アジアの国々では法規制が進んでいないのが現状だ。豪州、ニュージーランドはそれぞれ06年と11年に規制を開始しているが、市場規模が小さいことなどを背景に実際にはIE2レベルでしか法律が施行されていない。

eemodsでは先行して規制に取り組んでいる国から未規制の国まで、広範囲の国・地域から参加者が集まった。主催団体である日本電機工業会の関係者は「各参加者には自国に帰ってから取り組みの参考となるような情報提供ができたのではないか。未規制の国からの参加者は閉幕後に集まって勉強会を行っており、真剣に課題に向き合っている印象だった」と振り返る。

(2019/11/15 05:00)

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