安定した生産活動を支える 瞬低・停電対策技術

(2021/8/5 05:00)

業界展望台

  • 落雷は瞬低の主な原因となる

日本の電力は、電圧や周波数の安定性において、世界でトップクラスの品質を誇る。しかし落雷を主な原因とする瞬時電圧低下(瞬低)の発生を防ぐことは難しい。瞬低は精密で高感度な制御装置や高度な情報通信機器を備える施設に甚大な被害を与える。安定して生産活動や営業活動を継続させるには瞬低への対策が重要だ。

多大な損失発生を防ぐ 瞬低補償装置

近年、地球温暖化などの影響により落雷が多くなっている。雷による瞬低が発生すると、さまざまな機器の稼働に影響を与える(表)。

瞬低とは瞬間的に電圧が低下する現象だ。長くて1分程度電圧がゼロとなる「瞬停」とは異なる(図1)。落雷による瞬低の場合、送電線に落雷すると雷により瞬間的に高い電圧が発生し、送電線と鉄塔間が閃絡(ショート)する。この部分に大量の故障電流が流れ込み電圧が乱されることで、電圧が低下する。

瞬低が発生した際、電力会社は停電範囲の拡大を防ぐため、その送電線を電力系統から瞬時に切り離す。この間のごく短い時間(0.07~2秒)に瞬間的な電圧低下が発生する。自然現象である落雷の影響を防ぐことはできず、電力を使う側が瞬低の影響を受けないように対策を講じる必要がある。

パワーエレクトロニクスを使用した機器やシステムは、電圧の低下に敏感に反応する。電圧低下に対する許容度が少ないため、瞬低によって直ちに機能を停止してしまうという性質がある。瞬低が発生すると、コンピューター、数値制御(NC)工作機械、デジタル制御機器などでは機械の動作が停止したり、誤作動を起こしたりすることがある。

瞬低は電圧低下率と継続時間の二つの要素から、さまざまな機器に影響を与える(図2)。例えば、パワーエレクトロニクス応用可変速モーターでは、20%程度の電圧低下が0.01秒継続すると停止などの影響が発生する。これにより制御されている上下水道用ポンプ、エレベーター、ファンなども停止する。

電磁開閉器(マグネットスイッチ)は工場のモーターの大部分に使用されている。50%程度の電圧低下が0.01秒継続するとモーターが停止する場合がある。その後複数のモーターの再始動を一斉に行うと、始動電流により大きな電圧低下を引き起こすことがあるため注意が必要だ。高圧放電ランプでは20%程度の電圧低下が0.05秒程度継続すると、消灯してしまう。いったん消灯するとランプが冷却されて内部蒸気圧が低下するまで、十数分程度の再点灯時間を要する場合がある。

故障発生から故障の除去までの電圧低下時間は、短くても0.07秒程度なので、図にあるように多くの機器が影響を受ける。

瞬低は全国平均で年3~6回、雷多発地域では10~20回以上発生するといわれている。瞬低は起こりうることとして発生する損失を許容するか、しっかりと対策を施すか、企業の判断となる。ただし、導入している生産設備や機器によっては瞬低により多大な損失が発生する場合がある。

ニチコンNECST事業本部の古矢勝彦技師長は「設備が停止してから復旧するまでの間、生産が止まる。生産量が減るのもリスクの一つ」という。機械が停止した際に生産した製品は検査を行う必要もあり、その分工程も増える。加工中の仕掛かり品が不良となるケースもある。安定した事業活動のためには瞬低補償装置を導入するのが安心だ。

瞬低補償装置は常時監視により瞬低を瞬時に検出し、瞬低発生時には対象となる装置に給電して稼働停止を防ぐ。常時商用給電により装置内のコンデンサーに充電し、瞬低発生時には商用電源から対象負荷を切り離し、コンデンサーから不足電圧を供給して対象負荷に一定の電圧を供給する。

瞬低補償装置にはさまざまな仕様があるので、導入の際には自社の設備にはどのようなものがあり、どこまで補償したいかを専門業者に伝え、適切な組み合わせを提案してもらうことが肝要だ。

停電時に装置を守るUPS

近年自然災害の激甚化により、各地で大規模停電が発生している。瞬低補償装置は2秒以下の電圧低下を補償する装置。停電に備えるには、停電対策装置(UPS)で対策を取るとより安心だ。UPSは蓄電池を内蔵し、5分程度の補償動作を行う。瞬低から瞬停、停電までオールラウンドに対応する。UPSは停電時に5分程度、対象装置に給電することでユーザーに時間的猶予を与える。ユーザーはその間、通常のオペレーションで装置を停止させることで停電の被害を防げる。

長い停電に対応するには、非常用発電装置とUPSを組み合わせて機器を稼働させ続ける方法もある。非常用発電機の起動には10秒から1分程度を要するとされる。発電機が安定状態になるまでの間UPSから対象負荷に電気を供給し、安定したら発電機に切り替えることで連続運転が可能になる。

この場合、商用電源、UPS、非常用発電機の三つの電源を切り替えながら対象負荷に電気を供給することになる。切り替えの際、各電源の動作波形の位相が合っていないと、「UPSや対象負荷に過大な電流が流れ、装置にダメージを与える」(ニチコン古矢技師長)ことがあるという。

ニチコンは各装置の動作波形の位相を瞬時に合わせる技術を開発した。停電時に電源がUPSから非常用発電機に切り替わる際、また復電時にUPSから商用電源に切り替わる際に各電源同士の波形を合わせる。これにより装置へのダメージを抑え、安定した装置の稼働が可能になる。同機能は同社のUPSだけでなく、瞬低補償装置にも標準装備されている。

(2021/8/5 05:00)

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